野良猫、気に入られる
人事部から出ると、次に向かったのは社長室であった。玲央は夜斗が緊張してはいないか、と様子をうかがったが、当の本人は平然としていた。
「ヨルは緊張とかしないのかい?」
「ん?だって、今までの男やパパの中に社長なんていっぱいいたもん。社長という人種には慣れてるよ。」
...玲央はなんだかやるせない気持ちになった。今までの男どもにヤキモチを焼いてしまいそうだ。そんな玲央の様子に夜斗はにんまりする。
「なぁに?坊ちゃんはヤキモチ焼きさんですかぁ?」
「...揶揄わないでくれるかい?それにヤキモチを焼かないなんて無理があるだろう?」
「へぁ?」
夜斗はおちょくっただけのつもりであったが、こうも素直に認められてしまうとこっちが恥ずかしくなってしまう。そうしてしばらく2人は黙って歩いた。気がつけば、社長室の前へとたどり着いていた。
「いいかい?お利口にしてるんだよ?」
「...オレは子供か。」
玲央は扉をノックすると、中から「入れ。」と渋い声が聞こえて来た。
「...なんだ、玲央か。一体どうしたんだ?」
「社長。これから私の仕事を手伝ってもらう事にした者を紹介しに参りました。...ヨル。」
「はじめまして。ヨルと申します。不束者ですがよろしくお願いします。」
まるで結婚の挨拶のようなセリフに玲央は吹き出しそうになるのを堪えた。社長である玲央の父親は、鳩が豆鉄砲を食ったように目をまん丸くすると、急に大声を出して笑った。
「はじめまして。玲央がお世話になっているようだね。」
「いえ。お世話になっているのはオレの方です。仕事まで斡旋してもらって...。有難い限りです。」
「はっはっはっ。よく躾けられているようだな。どうだい?このままウチの玲央の嫁にならないか?」
「父さん!」
思っていたよりもユーモアたっぷりの社長で、夜斗は安心した。社長は椅子から立ち上がると夜斗の目の前に立ちはだかり夜斗をジッと見つめると、次の瞬間夜斗を思い切り抱きしめた。
「しゃ、社長さん?!」
「はぁー!なんなんだ君は!なんて愛らしいんだ!ヨル。ウチの子にならないかい?」
「父さん!なにをふざけた事を抜かしているんですか。...それと、ヨルは僕のです。さっさと離してください。」
「嫌だね。こんな可愛らしい子猫、なかなか会えないのだから。」
「...母さんに言いつけますよ?」
玲央の言葉に、社長はビシリと固まる。そして名残惜しそうに夜斗をを手放した。
「くっ...。母さんを引き合いに出すとは卑怯だぞ...!」
「なんだかんだでラブラブですもんね。まぁ、ヨルに会いたければ僕におっしゃてください。ヨルは僕の家にいるので。」
「おぉ!そうかそうか。ヨル。また会えるのを楽しみにしているよ。」
「それじゃあ、僕らはこれで。失礼します。」
そうして、2人は社長室を後にした。夜斗は、今までにないタイプだったなぁ。と思いながら玲央の腕に擦り寄った。
「?どうしたんだい?甘えたさんだね。」
「...別にぃ。」
「今日はこれで終わりだから安心していいよ?さぁ、ご要望通り寿司屋に行こうか?」
「!やったー!大トロ♪ウニ♪」
先程までの大人しさはどこへやら。夜斗は念願の寿司に心を踊らせるのであった。




