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その年、エリア新宿・セクション新大久保に雪が降ることは無かったし、サブローが大世界の人工島のアタシたちに、会いに来ることは無かった。
来週に予定していたお花見にも、きっと来ないだろう。
……気づくのが遅すぎた。
ハジメとアタシだけでは、きっと止めることが出来ない。
大世界の人工島の、ホーリーチェリーの開花を。
もうすぐ、大世界の人工島にホーリーチェリーが咲く。
杞憂かもしれない。
次のクリスマスには、今年こそ、サブローの誕生日を当日に祝えるかもしれない。
でもハジメとアタシの予測が的中してしまったら……
「仁花!お前は逃げろ!!」
「……何で!?IOPが消えたら、世界はどうなると思ってるの!?アタシは残って方法を探す!」
「間に合わない!全てが遅すぎたんだ……」
「それでも!諦めたくないよ!!!」
今逃げれば、自分だけは助かるかもしれない。
でも歴史を、繋がりを、思いを諦めるには、もう遅すぎる。
人々の心の叫びが聞こえた気がして、アタシは働き続けた。
最後まで……諦めない!!!
首にかけた、ネックレスを千切る。
「貸して!!!」
ハジメの胸ポケットに入った栞を奪って、モバイルの転送装置に置く。
何も言わなくても、ハジメは言葉を打ち込み始めた。
『ソバニイル』
『カレシデキタヨ。ニカ』
送信キーを押すとネックレスと栞と二つの言葉がモバイルの向こう側に送信された。
きっと開花を止める術は——……。
無い。
◯◯◯
「……あるよ、諦めなければさ」
「……当たるかな、キラ」
「うーん、どうかな……」
「なんだそれ!」
「わかんないけど、可能性あると思うし、当たるかな〜と思いながら回す時間が楽しいじゃない」




