12.戦闘技術学
先生に図書館で遭遇してから数日後、戦闘技術学という授業に2年生のAクラスとDクラスが出席していた。
普段はクラスごとに授業を行うのだが、今回は特別に合同で授業を行うらしい。
落ちこぼれが集まる僕たちDクラスの面々はAクラスなどの優秀な生徒を見て励みなさいという意味合いで、AクラスからしてみればDクラスのようにはなるなよと言う戒めの意味合いを持った授業となっている。
Aクラスには当然、勇者と呼ばれるゼオンもいた。その近くには見目麗しい女生徒が多数座っており、彼の腕やら背中やらに抱き着いていた。言うまでもなく目立ってはいるが、それを気にしたような素振りは一切なかった。
頭に蛆虫でも湧いてんのかな、こいつら……。
自身よりも遥か格上の彼らに対して失礼なことを考えてしまう。
幼馴染であるフィオナはゼオンから少し離れた位置で同級生と談笑していた。
綺麗な蒼い髪が風になびいているのをなんとなく眺めていると、彼女はこちらの視線に気付いたようで、一瞬驚いた顔をした後にはにかみながら小さく手を振ってきた。
「……っ」
僕はバツが悪くなり、彼女から視線を逸らした。
そうこうしているうちに、戦闘技術学の講義を担当する先生が現れ、僕は思わずその目を見開き、ぼそりと呟いた。
「セカイ先生……?」
修練場に繋がる通路から現れたのは、現代魔術学を担当しているセカイ先生だった。
何故彼がここに……?
周囲も疑問に思ったようで、ざわついていた。
セカイ先生もそれは承知の反応だったのか、コホンと咳払いをした後に説明をし始めた。
「あ~~、何故俺がここにいるのか疑問に感じているだろうが、端的に言えば戦闘技術学の講師が急遽辞めてしまったため、代わりが赴任するまでに俺がこの授業を担当することになった。一介の教授では不満はあるかもしれないが、よろしく頼む」
先生がぺこりと頭を下げたところで、一人の生徒が手を挙げた。
黒髪を持つ眉目秀麗の少年、ゼオンだ。
「先生、少しよろしいですか?」
「えっと、君は……」
名前を言い淀んだ先生に、彼は苦笑した。
「ゼオンです。公爵家のゼオン・アーカーシャ。親切心から言わせていただきますけど、一応主要な貴族の子息ぐらいは覚えておいた方が良いかと思います。俺は気にしませんけど、場合によっては不敬と取られますからね」
申し訳なさそうに頭を掻く先生。
一応筋は通っているものの、何だかもやもやとする。こう、明言はしていないが自身の方が立場は上なんだぞと、そう言っているような感じだ。
いやでも、きっとそう感じてしまうのは僕が彼の才能に嫉妬しているからだろう。
「あぁ、悪い。それで、何か?」
「失礼ですが、先生は冒険者ですか?」
「ああ。一応な。それで臨時の講師に選ばれたわけだし」
「ではそのランクは?」
「Dランクだ」
先生がそう言った瞬間に生徒たちはどよめき、中には嘲笑う生徒もいた。
「どうやら、何か文句がありそうだな?」
先生に、彼は少し困ったように笑った。
口調こそ丁寧だが、内容はなかなかに棘を孕んだものだった。
「俺自身は文句なんてありませんけど、Aクラスの一部の生徒には俺が個人的に指導していることもあり、正直申し上げてしまうと、その………‥この講義自体を時間の無駄に感じてしまっているのかもしれません」
彼の言葉に、Aクラスの生徒の一部が頷く。
彼らの先生に対する瞳は様々だが、少なからず軽蔑や嘲りを含んでいるのは確かだった。
彼らは確かに、Aクラスに在籍し当代の勇者の指導を受けていることからも優秀なのだろう。だがしかし、先生に対する態度としては失礼にも程がある……っ!
僕は思わず立ち上がり、彼のことを睨みつけた。
「君のその発言はあまりにも――」
「――傲慢ではないかな? アーカーシャ君?」
僕に続くように言葉を紡いだのは、先生が通ってきた通路の奥にいる人物だった。
コツコツと音を鳴らしながら修練場に入ってきたのは――
「クレア、先輩……」
――剣聖と謳われる天才少女、クレア・ダスティス、その人だった。
先輩は目配せで僕に座れと言ってきた。
軽く会釈し、座る僕のことなど周囲はもう特段気にしていなかった。
それよりも、突然現れたクレア先輩に周囲の興味は釘付け状態だ。
ゼオンはクレア先輩を見てニコニコと外面の良い笑みを浮かべて話しかける。
「クレア先輩じゃないですか! どうしたんです? あ! もしかして俺に用があってきてくれたんですか? 若輩者ですけど、先輩のためだったら何でもしますよ俺」
それは決して冗談などではないのだろう。彼の顔にはありありとした自信が見て取れた。
しかし、そんな彼の言葉をクレア先輩はバッサリと一刀両断した。
「いや、アーカーシャ君がいるなんて欠片も知らなかったよ。それに、馴れ馴れしくファーストネームで呼ぶのは止めてもらっても良いかな? 私と君はただの先輩後輩だからね、距離感を大事にしよう」
あからさまな拒絶の言葉に、ひくりと、彼の口角が歪んだ。
「それは失礼しました。ダスティス先輩。ところで、何故先輩がここに?」
ゼオンの質問に答えたのは、セカイ先生だった。
「それは俺が呼んだからだ」
「貴方が……?」
言葉にこそしなかったが、彼の態度はありありと何故この程度の男とクレア先輩に関わりがあるのかと疑問に感じているようだった。
「優秀な君達のように、俺が講師をすることに不満を持つ生徒も多いと思ってな。特別に上級生に来てもらおうと思ったんだよ」
「ああ、なるほど。それは良い考えですね。……てっきりあなたが指導する物かと早合点してしまいました。冷静に考えれば、他に助っ人を呼んでいると考えるのが自然ですよね」
申し訳なさそうに頭を掻く彼に、僕は内心怒りを煮えたぎらせていた。
彼はつまりこう言いたいのだろう。セカイ先生の指導を受ける価値はないと。
何故神はこんな俗物に才能を持たせたのか、理解に苦しむ。いや、才能を持つからこそか……?
「だから、それが傲慢だって言ってるんだよ。アーカーシャ君」
クレア先輩は先程拒絶した時よりも厳しい口調で、ゼオンを睨みつけた。
だがその言葉は彼には一切響かないようだった。
心底不思議そうに首を傾げている。
「俺はこれまで血のにじむような努力をしてSランクになりました。先生を貶めるつもりはありませんが、彼はあくまでも魔術学の教授であり、戦闘に関する努力は一切してこなかったのでしょう? そんな彼を強引に擁護する方が無慈悲だというものです。俺は先生のためを思って言っているんですよ?」
そんなゼオンにクレア先輩は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「血の滲むような……? その程度で努力だと感じている傲慢さを見ていると、かつての自分を見ているようで目を背けたくなるね。でも、そうだな。口で言って納得しないなら、実際にセカイ先生と闘ってみればいい」
「はあ!? それじゃお前を呼んだ意味がなくなるだろ!?」
青天の霹靂だったのか、先生は驚きの声を上げた。
ゼオンは怪訝そうに眉を潜める。
「あの……自分で言うのもなんですけど、俺はSランクですよ? Dランクの先生に何かあったらどうするおつもりですか?」
「少なくとも、ただのDランクなんかではないことは私が保障するさ」
着々と進められる話に先生は抗議の声を上げる。
「おい。何勝手なことを……」
「このままじゃあ、貴方の指導に従わない生徒も多くいるでしょう?」
「いやだから、そのためにお前を――」
「――私だけでは捌き切れない数だから言っているんです」
きっぱりと言い切ったクレア先輩に、先生は僅かにたじろいだ後に深く大きなため息を吐いた。
「…………はぁ。…………分かった。どうせ今回は好きなペアで組んで模擬戦をしてもらうだけだったからな。授業内容の説明もかねてやろうか、ゼオン・アーカーシャ」
そう言う先生に、彼は心配そうな顔をする。
「あの、手加減はしますけど本当に気を付けてくださいね……。でも、まあ良いですよ。折角ですし、先生の指導も俺がしてあげますから」
一見すると邪気の無い人の良い笑みを浮かべる彼に、取り巻きの美少女軍団は黄色い声援を送る。
「ゼオン! 頑張ってね!」
「……ゼオン、……がんばって~」
「ゼオン様は本当に優しいのですね」
どの娘もこの帝国において名家と言われる家の令嬢だ。ゼオンを様付けで呼んでいる少女なんて王族だからな。
僕の学年は何故か同学年にそう言った子どもたちが集まっており、その中でも抜きんでて目立っているのがゼオンとそのハーレムだった。
広々とした修練場の一角で、先生とゼオンは模擬剣を構えて互いに向き合った。
円形の決闘場には周囲に影響を及ぼさないための透明な障壁が張られるような仕組みがなされているため安心して観戦することができる。
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