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11.仮説と裏付け


 談話室で先輩と別れてから数日間、僕は学院の講義棟とは別の棟にある大図書館を訪れていた。

 そろそろ講義に出席しないとヤバいかもしれない……。ただでさえ実技の成績が壊滅的なので講義の点数が下がるのはまずい……。

 今日の僕は目当ての学術誌コーナーを物色していた。

 僕程度で思いつくことなど、誰かが実験してそうなものなのだが……。

 抱えられるだけの学術誌のバックナンバーを抱えて、僕は机の上にドサリと置いた。


「これでもないし……、これでもない……」


 ここにはないのか……?

 いやでも、ここにないとしたら、一体どこにあるのだろうか?

 

「講義はどうしたんだ? ユリウス」


 学術誌を物色しているさなか、突如後ろから声を掛けられた。


「……?」


 一体誰が、と疑問に思い振り向くとそこには、セカイ先生が書物を片手に立っていた。


「あ、セカイ先生。実は、少しきっかけが掴めたのでその裏付けとなる資料を探しているので自主休講させていただいているというか、何というか……」


 気まずさから口ごもる僕に、彼は苦笑いを浮かべた。


「まあ、あと少しで何か掴めそうって時に(はや)る気持ちは良く分かるよ」


「す、すいません」


 気を使ってもらったようで、余計に気まずくなる。

 先生はそう言いながら、僕の隣の椅子を引いて腰かけた。


「それで、何を探しているんだ?」


「相談に乗っていただけるんですか?」


 前に会った時は結構そっけない態度だったので、少し不思議に思いそう聞いてしまった。

 彼はやはり苦笑しながら言う。


「一応先生だからな。生徒の相談にぐらいは乗るさ」


「あ、ありがとうございます。探しているのは魔術の威力と魔力の相関関係に関する書物なんですが……。威力と術式の相関関係に関する記述はあっても魔力量そのものに関する記述が見当たらなくて……」


 先生は僕の言葉を聞いて、ふむ、と少し考えた後に言う。


「なるほど……。もしかしたら、学術誌にはそれに関する記述はないかもしれないな」


「え? それはどうしてですか?」


「発動した魔術の魔力を定量的に測定する方法がまだ確立されていないんだよ」


「え? そうなんですか?」


「勿論魔力を感覚的に感知することはできるから、定性的に大まかにどの程度の魔力が込められているかは分かるけど、それを明確な数値として出力できる方法はまだ模索中の段階だな」


「な、なるほど。定量的な測定方法がないから文献が無いんですね……」


「でも、その代わりの研究はされていたはずだな」


「本当ですか!?」


 代わりでもなんでも、僕の考えに間違いがないことさえ証明できれば十分だった。


「魔力量を測定する水晶があるのは勿論知っているよな?」


 僕は苦虫を噛み潰したような表情で答える。


「ええ。対象者の魔力量や属性の適性や性質を測定する機械ですよね」


 僕はその水晶の測定により、魔力の伝達速度が異常に低い値になっていたことから停滞と言う魔力特性に認定されたのだ。


「そうだ。その水晶の解析項目に、魔力の持ち主の魔力伝達速度があるよな?」


「はい」


「その魔力の伝達速度が速い程、魔術の威力が上がるとされているんだ。そして、魔力の伝達速度に比例するように魔術に込められる魔力量も定性的に増加すると言われているな」


「っ! なるほど」


 魔力の伝達速度と魔術の威力は比例する。そして、魔術に込められる魔力も定性的にであるが増加することが分かっている。

 やはり、魔術の威力には個人差があることは明白だ。そうでなければ、僕の魔術の異常な威力の低さが証明できない。

 だけどもしも、僕の立てた仮説が正しければその法則を覆すことができる。

 僕は魔弾を一つ取り出し、既に魔力が込められ停滞したままのそれに対して魔力を上書きするように流し込んだ。


「それは……っ!」


 先生は僅かに息を呑み、驚きの声を上げた。


「やっぱり、上書きできた……」


 僕は自身でやっておきながら正直少し驚いていた。

 僕がやったことは単純で、既に完成された魔術に魔力を継ぎ足したのだ。

 今までの僕の魔弾は、魔力が術式に満ちた瞬間、つまり魔術が発動する直前で保存していたのだが、それでは僕の異常な魔力伝達速度の遅さにより殆ど魔力が込められていない状態になっていた。

 微弱な魔力のみが込められた魔術など、術式の数以前に威力が低くて当然である。

 どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのか、理解に苦しむ。


「銃弾の表面に魔術式を刻んであるのか。底面に刻まれているのは銃弾を射出するための風と火の複合術式で、底面以外に刻まれているのは水属性の術式か。君の魔力特性なら発動直前で保存できるし、即座に発動することもできるな。面白いことを考える」


 感心したように頷く彼に、僕は驚く。


「一目見ただけで……」


 クレア先輩以外は、僕の武器を見て嘲笑を浮かべていた。でも、この人は違う。それどころか武器の特性すらも一瞬で見抜いてみせた。


「あぁ、まあ、これでも一応現代魔術学の教授だからな」


 そう言って、少し得意げな笑みを浮かべるセカイ先生。


「銃の方も見せてくれるか?」


「は、はい!」


 セカイ先生は鈍色に光る銃を照明にかざしながら、興味深そうに眺める。


「なるほど。銃自体には魔術式は刻まれていないのか。でもこの形状に意味があるな。この銃と言う形だからこそ、指向性が安定するし、照準を合わせやすい。魔術が刻まれた紙を用意するよりも手軽に使用できる。それに、射出と同時に次弾を装填するように作られているな」


 彼は言いながら、マガジンを取り出して観察する。

 次の瞬間、彼は僕には理解できない何かを呟き始めた。


「地球で言う自動拳銃と似ているな。でも、彼の武器のことを考えれば、自動拳銃よりも――」


 そこまで呟いたところで、彼はハッとして口を閉ざした。


「先生……?」


「ああ、いや、何でもない。見せてくれてありがとう。面白い武器だな」


 そう言って、銃を返してくれる先生。

 先程の呟きはよく分からなかったが、口ぶりから察するに改善点はまだあるという事なのだろう。


「それじゃ、引き続き頑張ってな」


 セカイ先生は席を立ち、出入り口の方へと歩き始めた。

 

「先生!」


 僕は遠くなっていく彼の背中に向けて、反射的に声をかけた。


「何だ?」


 不思議そうな顔をして振り返る彼に対して、僕は――


「必ず、クレア先輩に一発いれてみせます」


 ――今までの自分とは思えない程、大それた宣言を発した。

 それを聞いた彼は一瞬目を丸くした後、


「ああ。期待してるよ」


 薄く笑みを浮かべてそう言った。


いつも読んでいただいてありがとうございます。

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