表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍神の詩5 - 七色の羽根  作者: 白楠 月玻
五章 紅の羽根
31/69

五章四節 - 雨煙と中州の作戦

雷乱(らいらん)、入っていい?」


 外からそう声をかける。

 すぐに「……おう」という返事があり、与羽(よう)は慎重に戸を開けた。


 部屋は四畳半。使用人棟の部屋の中では最も狭い部類に入る。

 雷乱は小さな机の上に火のついた油皿を置き、その火で刀の手入れをしていた。


「……戦に、出るつもり?」


 与羽はそう尋ねた。


「当たり前だろ。オレはお前に忠誠を誓ったんだ。お前を守らなくてどうする?」


 雷乱の言葉に迷いはないように聞こえた。


「…………」


 与羽はしばし言葉を探した。

『本当に大丈夫?』『無理しなくていいよ』『祖国と戦うのがつらければ――』

 様々な言葉が脳裏を駆け巡る。与羽は口を開きながら、雷乱の目を見た。


「……じゃぁ、とりあえず今の状況を話しとく」


 彼女の口から出たのは、そんな無愛想な言葉だった。


「ああ、頼む」


 そう言って、手入れ中だった刀を脇にどけた雷乱の目には、強い覚悟の光があった。与羽の言葉は、そんな彼に戦をためらわせる言葉をかけるべきではないと感じたゆえのものだったのかもしれない。


「……うん」


 そして与羽は、自分が聞いてきた戦の内容を丁寧に話しはじめた。


 中州の行動は早かった。

 華金(かきん)の動向を詳しく探るため、比呼(ひこ)太一(たいち)のような間者がこっそりと華金と中州を行き来して情報を運ぶ。

 少数精鋭の選抜隊は城下町の南部にある湿地帯に広がり、華金の軍を足止めする準備にかかった。まだ華金軍が中州に向けて進攻を始めたという話は聞かないが、先手を打って罠を仕掛けるのだ。


 城下民はもちろん、城下町の近くに住む農民にも情報をまわし、城下町よりも北にある村や町に避難するよう促しもした。すでに、非戦闘員の半数以上は荷物をまとめ、北に住む知人や親戚を頼る準備をしているだろう。今日が雨だということもあるが、城下町はいつもよりひっそりとしている。

 最終的には、町人の六割ほどが、中州城下町を離れるはずだ。残るのは、自分の店や家を守ろうと意気込む若者や、頼る当てのない人々、旅ができないほど体が不自由な人や老人だ。中州城下町には、地下に数百人規模で避難できる空間があるので、彼らはそこや城内にかくまわれる予定になっている。


 与羽は中州の戦の仕組みから、作戦、兵の配置までつまびらかに説明した。

 人数の差を補うために自分達のよく知った土地、ここ中州城下町を陸から切り離している中州川で迎え撃つこと。そして、万が一中州川入口の水門が壊れたら、鉄砲水が来て何もかも流されてしまうので必ず素早くあがること、など細かいところまで指示した。

 最終手段として、わざと水門を全開放し、すべてを流す作戦もある。そして、この作戦はほとんど毎回使われていた。それだけ毎回中州が追いつめられるということだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ