四章四節 - 朝曇と墨表紙の歴史書
「本当なら、君にそんなもの読ませたくない」
乱舞は瞑目してささやくように言った。
「君には暗いことは何も知らない、無垢なままでいて欲しいから。辰海君や絡柳が止めようとするのも良く分かる。でも、中州の官吏ならほとんどの人が知っている歴史だ。
無理に読めとは言わない。でも、中州の汚い面も受け入れられるような人じゃないと、戦に参加させてはあげられない」
「歴史書は、それを含めて五冊ある。それを書写したら俺のところに来い。続きを貸してやる。ちゃんと覚えるように書き写すんだぞ」
「……はい」
与羽は返事をして、逃げるようにその場を立ち去った。
辰海が立ち上がって追おうとするが、卯龍が腕を差し出して止める。
与羽の軽い足音が、次第に小さくなって、消えた。
* * *
――千夜十二年。如月(きさらぎ:二月)七日。中州女城主星舞暗殺未遂。夫死亡。主犯、珍しき小太刀使ひたるに、之を問ふ。
「…………」
結論から言えば、彼は華金の間者だった。
そのことと、他に中州にいる間者について聞き出すために、指関節を順番に脱臼させていくという手法がとられた。
結局彼はすぐに自分が知る限りの情報を流し、捕まった間者たちとともに一生を城下町から遠く離れた山村に軟禁されることとなった。
これはとても平和に解決した部類に入る。
人によってはひどい痛みや苦しみが伴う方法で気がふれるまで何十日も拷問されたり、辱めを受けたりした。
中には冤罪もある。
本当に知らないことを延々と問い詰められ、体中を傷つけられ、最後には死に至らしめられる気持ちを与羽は知らない。想像したくもない。
生贄として与羽よりも若い少女の命が理不尽に奪われたのも数回ではない。
ずっと協力し、一枚岩だと思っていた中州の名門家の中にも、城主にとってかわろうとした人はいたらしい。彼らに対する刑罰は、今の中州が採用している正式な罰の最も重いものよりもさらに悪い。
罰というより、ただ自分たちの恨みを晴らそうとしているだけのようにさえ感じられた。
与羽は読みながら、時代によって拷問方法や残酷な刑罰に差があるのを感じた。
火責めを好む時代、水責めを好む時代。刃物を使う時代、脱臼や骨折によって苦痛を与える時代。軟禁、監禁を好みできるだけ殺さずに済ませる時代があれば、官吏が少し城主一族へ反意を抱いただけで斬首になる時代もある。
この二択ならば、どちらかと言えば後者の方が多いようだ。
「そんなに自分が大事、か……?」
与羽は斬首を命じたであろう当時の城主たちに問いかけた。もちろん答えはない。
自分が裏切られる側だったらどうだろう。
与羽は目を閉じた。
もし、自分が中州城主で、仲間だと思っていた官吏に殺されそうになったら――。
一番に浮かんだ官吏は幼馴染の文官――辰海だ。
――君には無理だ。僕が代わるから、死んでよ。
うまく想像できないが、そう言って刀を振り上げてくる辰海。
できることならその理由を聞いて、話し合いたい。それがだめなら甘んじて――。




