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龍神の詩5 - 七色の羽根  作者: 白楠 月玻
三章 翡翠の羽根
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三章六節 - 夜更と翡翠の羽根

「とりあえず、僕は一度(ナギ)のところへ戻るよ。急患に備えて誰かが起きてるだろうし」


「……凪ちゃんの両親、帰って来とるで」


 少しキレが悪いものの、与羽(よう)はそう言って口の端を釣り上げた。


「知ってる」


 比呼(ひこ)もいたずらっぽく笑んで応える。

 この短いやり取りが、さっきまでの重い話を終わらせる合図になった。与羽はさらに笑みを深め、いつもの何かをたくらんでいるような笑みを浮かべる。


「下手なことして追い出されないように」


「クス……、気を付けるよ。

 でね、与羽。明日、――もう今日かな。朝一で太一(たいち)と二人、城主に報告することになると思う。その時、君もおいでよ。話、聞きたいでしょ?」


「うん。乱兄(らんにい)たちが気ぃ遣ってくれとるのはわかるけど、行く」


「迎えに来れる時間はないと思うから、ちゃんと自分でおいでよ?」


「わかっとるもん」


 少し()ねたように言う与羽。耳なれたとげのある調子だ。

 ほんの二、三ヶ月会わなかっただけなのだが、その声が懐かしくて比呼は無意識にほほえんでいた。


「じゃあ、これ以上君の眠りを妨げないように僕は帰るよ。おそくに本当にごめんね。おやすみ」


「ありがと。おやすみ」


 与羽はそう応えて、横に置いてあった燭台(しょくだい)の火を吹き消した。月明かりの中、比呼は立ち上がって開けられたままの戸口を目指す。


「ああ、比呼」


 その背に与羽が呼びかけた。ふと思い出したことがあったのだ。


「なに?」


 振り返って淡い光に浮かぶ与羽の顔を見る。


「おかえり」


 (ねぎら)うように。

 やさしくほほえみかける与羽の顔を、比呼はしばらく無言で見つめていた。


「おい、ちゃんと応えてやれよ」


 開け放された戸の脇に座っていた雷乱(らいらん)が小さくそう声をかけて、やっと我に返った。


 逆光になった与羽からは見えないだろうが、比呼は笑んだ。今にも泣きそうな顔で。


「……ただいま」

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