三章五節 - 夜更と影の報告
「まぁ、本気でつぶそうと思うたら、華金みたいな大国は何万でも出せるだろうし、まだ一応甘く見てくれとるんかな……」
「華金は戦ばかりで国力を蓄える時期がないからね。五千は結構本気だよ。まぁ、華金王にも彼なりの誇りがあってね。中州みたいな小国ごときに本気になっているように見られたくないんだ」
中州の総人口は十五万人ほど。そのうちの三万近くが中州城下町とその近郊に暮らしている。一方の華金は人口百万を超える大国だ。その王都だけでも数十万の人が住むという。規模が違いすぎる。
「華金には敵が多くてね。どれか一つの戦に夢中になってたら、不意を突かれてほかの国から攻め込まれるのは目に見えてる。もしくは、内乱か。華金王は傲慢だけど、愚かじゃないから、それくらいは把握してるんだ。だから、本気になっても夢中にはならない。
賢いよ。能力の使いどころは間違えてるけど……」
かつて華金王に仕えていた暗殺者はそう語る。その顔に表情はない。ただ事実を私情抜きで伝えているように見えた。
「比呼……?」
与羽がそう声をかけてやっと比呼の表情が動いた。淡く、弱々しく笑む。
「それで、戦の話に戻るけど、一応、形式上の宣戦布告はある、と思う」
しかしその笑みもすぐに消えて真面目な顔になり、再び中州にもたらされる脅威について話しはじめた。
「でも、それは十数日前もしかしたら、もっと遅いかもしれない。進軍と同時かそれよりも遅いか――」
「まだ戦まで一ヶ月くらいあるのは確実なの?」
「確実とは言えないけど、高確率でそうだと思うよ。これからも華金にいる人たちが何か情報をつかみ次第、送ってくれるしね。うん。僕からの情報はだいたいこれくらい」
最後ににっこりほほえんで、比呼からの報告は終わり。
「……それで与羽。もう一つ話があるんだけど」
「何?」
比呼の口調がまた硬いものになったのを感じて、慎重に問い返す。
「与羽さ、僕が帰ってくること知らなかったよね?」
「知っとったら寝とらんよ」
不機嫌な声で答える。
「だよね。送れる情報量に限りがあったから、戦が確実なことと僕と太一が中州に帰ることだけ先に伝えたんだけど……」
「…………」
与羽は何も言わない。布団の上に右ひざを立てて座り、それを抱きこむようにしながらつま先を見つめている。
いつもなら竜月の兄であり、辰海の乳兄弟、兄のようにやさしく接してくれる太一の帰還を喜ぶところだが、今は素直にそうできない。
「でも、与羽が気にすることじゃない。城主や他の人が君に伝えたくなかったんだと思う。僕も君を巻き込まない方がいいんじゃないかって思った。でも、結局君の耳にも確実に入るし、それなら真っ先に教えておこうと思って来たんだ。夜遅くにごめんね」
比呼が優しく与羽の頭を撫でた。




