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あっちと違って頭がいい - 2

【前回までのあらすじ】

親子の絆、そして召喚物展示会へ

 休みの日。

展示会場に行ってみると見事に閑散としている。

誰もいない、というわけでないだけましか。

入ってみると大きな展示物がある。

不規則に穴の開いた巨大な物体だ。

確か、この世界に無い物質で構成されているものは存在できない、だったか。

召喚術については学校の授業でもあまり触れなかったからな。

うろ覚えだ。


 しかし、その法則のおかげであんなにも複雑な造形になったのだと考えると中々面白い。

工芸品としての価値を持たせることも出来るように思える。

同じものを作ろうとして果たしてできるだろうか。

どうやってくり貫く?

接合して組み上げるか。

だがその断面もうまく処理しないといけない。

しかもあれだけ複雑なものだ。

不可能ではないかもしれないが相当手間のかかる代物になる。


 ああ、考える要素があるのは面白い。

この展示会、興味が沸いてきた。


 そんな調子で会場をぐるりと見て回っていると、あるショーケースの前で足が止まった。

なんだ?

何が気になったのか。

覗き込んで考えていると記憶に一致するものがあることに気が付いた。

集中して記憶にある情報を探る。


「ああ、これ確かスマホだったか。遠距離通信用の携帯端末だ。いや、なんだ?この端末何に使うんだ?なんだこれ、用途が煩雑で何といっていいかわからんぞ」


 しかし、そうか。

やはりこの記憶は異界のものだったようだ。

いいぞ、他にもないか確認してみよう。

父さんには感謝だな。

思いのほか楽しいことになった。

近くにいた会場の監視役はこちらを見ていたが何も言ってこない。

独り言、変人に思われたくらいだろう。


 一通り見た結果、残念ながら俺の知る異界のモノはあれだけのようだ。

それでもいくらか満足して会場を出る。

帰り道、人気のない公園のベンチに座って考える。

誰かがいると気が散るから人気が無いのは丁度いい。


 俺にはなぜか異界の知識がある。

これを調べるには転移学、なかでも召喚術を専攻するのがいいかもしれない。

欲しいものを持ってくる。

いい術だ。

幸い学業においては特に問題はない。

記憶力には自信がある。

おかげで進路は幅広く選ぶことが出来る。

研究者というのも性に合っていそうだし、他になかやりたいことがあるわけでもなし。

少なくとも人間なんて面倒なモノを相手にする営業なんて仕事は御免だからな。

父さんのことは尊敬しているが同じ仕事をしようとは思わない。


 よし。

進路は決まった。

今からでも専門分野の勉強を始めよう。

どの道大学にはいけない。

学費を賄うとなれば父さんは今より働かないといけない。

自分も働けば負担を減らせるが学業との両立は難しい、というかやりたくない。

少しの油断で破綻しかねないし研究に集中したいからな。

努力はいくらでもするが苦労は最低限でいいだろう。

何より進路は明確なのだ。

わざわざ準備期間を作る必要もない。

働けば収入もあるわけだし現場の方が得られるものも多いはずだ。

要はその研究についていけるってことを示せばいいんだろう。

他のボンクラよりできるってことを示してやる。

あの展示会で得た印象から察するに特定の異界とはいえ知識面で俺に勝る奴はそういないはずだ。

これを武器に研究所へ入り込む。


 そしてこの記憶の正体を必ず掴んでみせる。

死に際の光景、あの状況は不自然だ。

かつての俺、いや、彼は健康体だった。

そして倒れた直後、周囲に人はいなかったはずだ。

確か食事前だし何かに毒物が含まれていたということも考えにくい。

はて、やけに鮮明に覚えているな。

まあいいか。

まずはあの世界の魔法の有無についてだ。

記憶の中の死、あれが魔法によるものだとしたら不可解ではなくなる。

だがあの世界に魔法はなかったはず。

超自然的な力に願望を抱く奴が多かったくらいだし。


 対してこの世界にはそもそも超自然なんて言葉はない。

あって当然、魔法は天然のエネルギーと考えられているからだ。

魔性の法則、魔法。

かつて存在した魔法の創始者、魔王の力だったか。

魔王ね、この現代においてファンタジーな名前が史実に残っているのは妙な心地だ。

いや、今更か。

そういえば魔法が無い世界で魔法を行使することはできるのだろうか。

ああ、そのあたりをテーマにしてみるのもいいかもな。

純粋に楽しめる題材だ。


 どこの誰の記憶なのか。

なぜその記憶が俺にあるのか。

解明したらどうするか。

ま、解明できた後のことはその時考えるか。

今は考える材料もないことだし。


 研究者か。

父さんは喜んでくれるだろうか。

いや、必ず祝ってくれるだろう。

母さんが生きていたらなら、きっと一緒に祝ってくれる。

うん、これでいい。

この道を進もう。


次回「シュールな場面がそぐわない - 1」

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