Zのお話し
【前回までのあらすじ】
分岐魔法を行使し世界の一部になったオリジナルAZ
「ただいま」
「おう、おかえり。展示会はどうだった?」
「大した事はなかったよ」
「そうなのか?まあまあ繁盛してるってきいたぞ」
「繁盛してるって、どこで聞いてきたんだ。召喚術なんてマイナーな魔法の展示会、人気でるわけないでしょ」
「そうなのか?」
「そうそう」
「ふーん、大きな展示品が目を引いてインパクトあった、って会社の人は言ってたけどな」
「インパクトがあってもそれ以外に言えることは無い。わかりやすい評価だ。まぁ美術品としてなら人気が出なくもないかもね」
「なんだそりゃ。でもお前が監修したんだろ?ならきっと面白いはずだ」
「お客様、そう思うならぜひ足をお運びください」
「ははは、そのうちな」
「はいはい」
父さんと話すのは気が楽だ。
なぜだか安心できる。
家族か。
「ちなみに俺がやったのは知り合いにスポンサーとの仲介を頼まれて、それで上司のテテツさんとツテを頼りに歩き回っただけだよ。監修なんてしていない。まあチケットは置いておくから気が向いたら行ってみて」
「おう。それにしてもまさか巡り巡ってお前が運営側になるとはなぁ」
「そうだね。父さんからもらったチケットがきっかけだったからね、懐かしい。ところで今日は、急な帰宅でごめん。展示会の開催で近くに来てたから」
「いいさ。昼間みたいに連絡くれたら問題ない」
「そう。ところでその、えっと、晩ご飯はどうするの?」
「俺が作る。ここ数年は自分で作ってるんだ」
「へえ、そうなんだ。楽しみ。えっと、ああ、俺の部屋は空いてるよね?」
「もちろんそのままだ。喚起と簡単にホコリを払うくらいはしているが、そこまで掃除できていない。悪いな」
「ああ、いいよ。急に来たんだし、ありがと。その」
「エイゼット。どうかしたのか?」
「それは、その。そう。父さん、今度の休みは家にいる?」
「多分いるぞ。それで?」
「実はその、実は、紹介したい人がいるんだ」
「そうか。そういうことなら、わかった。家で待ってるよ」
「ありがと。じゃあ俺、部屋に荷物置いてくる。他にも話したいことがあるんだ」
「ああ、まあゆっくりしていけよ」
「うん」
部屋の中は暗く、廊下の明かりを受けて輪郭がささやかに艶をだしている。
ドアを閉じると静かな空間になった。
しばらく前のこと。
何者かが俺に魔法でメッセージを送ってきた。
差出人は不明。
しかしこのメッセージの送り主には見当がついていた。
彼のメッセージは簡単な挨拶から始まり、本文には俺たちの世界は魔法により分岐しているという内容だった。
分岐世界はそれぞれで違うが大きく分けると3つになる。
1つ目はひたすら先へと続く道。
それと観測できない道が2種類。
魔法の干渉を防ぐ魔法を構築したことで観測できなくなった世界。
あとは何かしらの理由で分岐からもぎとられた世界なのだそうだ。
そして、文末はおおむねこんな感じで締められていた。
これらの分岐する世界は可能性に満ちているようでしかしすでに決まった結末を持っている。
分岐世界の行く道はすべからく暗闇にある。
その中にある俺のいる世界の行く末も見ている、と。
俺にどうしてほしいのか、その意図がわからない。
その言葉通りなら俺はすでに決まった道を進むだけだ。
彼の分類でいう観測できない世界にでもしていけばいいのだろうか。
なぜこの世界に、なぜ俺に?
俺に何を求めているんだ。
召喚術発展のために異界の調査しかやってこなかった俺になんの価値があるのか。
アンなら可能性はあるだろうが俺が役に立てることなんてない。
何より今の俺は。
研究所のみんなからすれば俺は優秀な人材ということらしい。
だが、俺は以前のような熱意を保てなくなっていた。
アンから魔法の危険性を上手にコントロールし、その上で発展させていきたいという話しに賛同した頃から、どういうわけかそれまであった異界の記憶に対する興味が薄れてしまった。
彼女の力になりたいのに次第に召喚術への興味もなくなってしまい、俺は目標を見失ってしまったのだ。
今なお研究者として実績を積み上げる彼女と今の俺では最早住む世界が違う。
そんな俺をたきつけても何も起きはしない。
どうなるかなんてわかっているだろうに。
ずっと感じていたことがある。
自分の進む道になぜ疑問が生まれないのか。
本当に無数の運命を作った奴がいるのかわからないが、もしいるとしたら俺たち自身には興味がないんだろう。
自分の創作意欲に任せて面白半分に道を作っているだけ。
もしもこうなったらと考えては悦に入っている。
その道を行く俺たちがどう考えるのかなんてお構いなしだ。
疑問を持っても強制的に選ばさせられる。
そこに自由はない。
だから無意識に選ばないようにしているのだろうか。
並行世界について俺たちはすでに発見していた。
そのことを知った時、始めは驚いて好奇心が働いたが見ている内に段々息苦しさだけが残ってしまった。
無限に近い並行する世界があるのに似たような状況にいる俺たち。
何かの目的のために様々なアプローチを試す、そんな実験の被験者にしか見えなかったのだ。
それがエイゼットという人間。
そんな姿を見ていられなかった。
俺が進む世界は彼の言う暗い道をたどっているのだろう。
いや、明るいか暗いかなど関係はない。
進路が光に照らされているのかそれとも暗がりを歩むのか、どちらにしても俺たちの運命はいくら分岐したところで特定の状況になるよう定められている。
そう、運命とは始めからすでに決まっているのだ。
ああ、実験ならもしかしたら終わりから作られているのかもしれないな。
ずっとこのことで悩み、どうしていいのかわからなくなっていた。
俺たちの在り方とは。
ふっ、それが今はどうだ。
そんなことどうでもよくなっている。
どうせ先はわからないし、使命とやらも何か知らない。
だったら好きなように進んでやるまで、その使命とやらが邪魔してくるなら上手く使ってやる。
自分に都合がいい選択をするために先々のことをよく考えて進めばいい。
どの道を進むかは委ねられており、定められた無限の選択肢の中で俺の足跡は一本の道にしかできない。
選ばされていたとしてもその道を辿ったのは自分の足だ。
どう進んでも自分だけの道、どうやったって他の奴はたどり着けない俺の道。
だから暗かろうと決まっていようと関係ないのだ。
結末は決まっていても、俺がどんな想いでそこに至ったのかまではコントロールされていない。
無限の脚本を書き続けるなどできないだろうからな。
どうせ魔法で自動的に分岐するような方法でも取っているんだろう。
ああ、そういえばどこかのエイゼットがこの世界を気にしていたっけか。
あの魔法で送られてきたメッセージはよくわからない締め括り方をしていたな。
世界は無限に枝分かれしている。
分岐の中から彼らはどの道を行くか選ぶことが可能だ。
その選んだ運命を進めるには暗く見通しが悪い道を進むしかない。
しかし暗い道に足を踏み出すと確かな感触を得るだろう。
なぜなら使命を持った彼らの道はすでに作られており、その全てに定めが待っているのだから。
そんな世界の片隅であなたはどう生きるのか。
私はあなたの選択した未来に興味がある。
異界からあなたを追って、その行く末を楽しみに見させてもらっている。
あなたの選択がより良いものとなることを祈って。
何を見たいのか知らないが、ならご期待通り俺が選択した世界を見せてやるよ。
決まりきったこの世界の行く末を。
簡単に部屋を整えてから居間に行くとご飯の支度が出来たところだった。
2人で食卓を囲む。
今回の帰宅はこの人からアドバイスを聞くために帰ってきたのだ。
俺の選んだ道。
「ねえ父さん。実は俺、今は研究所を辞めて彼女と一緒に営業の仕事をしているんだ。父さんの得意分野でしょ。いいところを見せたいからアドバイスしてほしい」
次回「明の方もよろしくお願いします」




