Aのお話し - 2
【前回までのあらすじ】
失ったアンを取り戻すため、禁術に手を染める
私はある魔法使いを訪ね協議を重ねた結果、分岐魔法を構築するに至った。
もしもを可能にする魔法。
それを得るためと言って魔法使いが私に向けて何か呟いた。
断片的に聞こえたそれはよくわからないことを言っていた。
エイズィコン、セヌヴォック、という妙な言葉が聞こえたが正確にはもう少し違ったように感じる。
異界の魔法使いだったからだろう。
今思うとこれは呪文とやらだったのかもしれない。
私はアンを助けたい一心で分岐魔法を完成させ、ついに転移ゲート越しに自分のいる世界に向けて魔法を放った。
こちらと向こう。
線引きすることで世界という対象を捉える。
そしてゲートを通った魔法は再度このゲートを通り魔法がかかる。
こうして自動で永遠に魔法をかけ続ける仕組みが出来上がった。
魔法は正しく発動され今もって効果を発揮している。
そのことをずっと後悔している。
使命のために永遠無限に増殖する1つの異界。
果てなく増える世界を見続ける私という存在は世界に必要不可欠となった。
ゲートを開いた魔法の使用者である私の存命がこの分岐世界が存在できる条件。
私がいなくなれば今いるこの世界を含め全ての並行世界は消えるだろう。
術の開発に協力した彼がそう結論づけた。
実際にはどうなるのかわからないが、幸い延命する方法はある。
でもそのためにこの命を終わらせるタイミングを逸してしまった。
永遠に私は世界のために生き続けなけばならない。
彼女のいる数多ある世界の命運は私に預けられている。
分岐魔法には分岐する条件が設定してある。
最後の世界1-26にいた人間の情報をついでに利用した。
分岐には転移術の発展が必須であり異界を熟知する必要もある。
そのため私が前世と称して植え付けた記憶を継ぐこと、そして設定した使命から外れることがないようにしたのだ。
正しくは逃れられないと言うべきか。
使命とは、転移術に関する研究者となること。
それは絶対だ。
分岐を可能にするには他の並行世界と繋がる必要がある。
リンクすることで互いの世界を認識し、そして同じ結果が発生しにくいようにしたのだ。
そのために転移術の発展は必須。
故に分岐する条件として転移術師になることを定めた。
それと、分岐しやすいよう私とは少し違う人格をベースに組み合わせた。
前世に位置付けした彼の人格だ。
最後に、その人生はアンの為に生きることを目的とすること。
彼女のために分岐魔法なんてものを作ったのだから。
それが多くの彼女を苦しめることになるとは。
愛憎表裏一体とはよく言ったものだ。
悔みきれずいっそ世界を終わらせようと考えることもある。
しかし幸せな彼女もいる。
そんな姿を見つけてはこの術を止めることが出来ずにいた。
なぜなら、当然この私も分岐魔法の対象となっているからだ。
そう、私は彼女のために生きることを余儀なくされている。
その並列の世界において私が望んだものを形にしたような世界がある。
分岐をさせない特異性のある世界線。
私の変わりとなる意図して作られたオリジナルの代替世界。
そこは時間を見つけてはいつも見ている世界だ。
そこにいる彼はよく思い悩む。
彼には申し訳ないが、知性は狂気を生む。
彼が抱える問題は何もしなくとも解決されるのだが、どうやっても結果が変わらない世界なのでむしろつい手を出してしまう。
もっとこうならいいのに、そう思うと干渉せずにいられなくなる。
変えられないからこそ変えようとしてしまう。
もしもを考えてしまってもそれをさせない構造。
絶対的な世界線。
万一にも彼女の身に何かが起きることがないように。
別世界の私にも似たような者がいるようで邪魔をしたりイタズラしたり、もしくは助け舟を出すような者もいた。
暗がりの中から見ているこの世界は優しく暖かい。
どうか健やかに。
世界というものは目に見える通りではなくむしろ反転した姿こそが本質なのではないか。
彼らを見ているとふとそう思うことがある。
これらの使命に反する生き方を選ぶ世界線が存在するなら、そこは並行世界ではなく新たな異界と呼べるだろう。
その世界は分岐条件から逸脱した世界、私が定義した分岐した世界ではない。
分岐世界としてあり得ない条件で存在するのであれば、そこは別のルールによって動く世界。
つまり異界、この世界によく似た異世界だ。
例えその世界の始まりが私であったとしても。
該当する世界が1つある。
いつの間にかどこから生えてきたのかわからない世界。
その世界のエイゼットは分岐魔法のルールを破っていた。
些細なことなのだ。
しかし絶対条件を破ることができたことが未だ信じられない。
理由はわかっていない。
例えばオリジナルの代替世界を作ったことに影響され、固定化された世界線を維持するためルールから逸脱したとか。
まぁ魔法だから仕方がない。
圧倒的な力で何者をも揺るがし、それでいて不安定に弱々しく揺れ動くもの。
そしてあり得ないことを可能にする、それが魔法なのだから。
しかしそう、これはまさしく異界だ。
この世界の彼は私からすると希望に満ちている。
真に自由な素晴らしい光に満ちた世界に見える。
意図せず生まれたオリジナルの世界線。
私がいなくとも存在する、素晴らしい世界。
彼の選択がより良いものとなるように私は願っている。
そうだ、彼へ祝福の言葉を届けよう。
この異界から、あの光に満ちた世界に向けて。
次回最終話「Zのお話し」




