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異界からあなたを追って - 暗  作者: Tongariboy


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Aのお話し - 1

【前回までのあらすじ】

暴発するゲートを収束させた技術を持つ何者かの存在に気づく

 ある異界調査の折り、転送魔法でその異界に機材を送り込むことになった。

しかし魔法が不安定になり、アンはその転送術に巻き込まれ異界へと飛ばされてしまった。


 今でも覚えているその姿は見るに堪えないものだった。

比較的近しい構成でできた世界なのはわかっていた。

そのためアンは幸か不幸か死んではいない。

出来るかわからないがこの異界の誰か、できれば赤子にアンの意識を結び付けようとした。

ちょうどいい素体を見つけ術を発動したが、すでにアンは息絶えており術は不発に終わった。


 私は彼女を失い正気を保てなくなった。

傍から見ればまともに見えただろうがその内心は混沌としていた。


 どうすれば彼女を救えるか。

どうすれば彼女とまた一緒に暮らせるのか。

私はそのためにあらゆる術を対象に彼女を救う魔法を探し始めた。

時間を巻き戻せないか、死んだ人間を再構築する方法はないかなど様々な研究に手を出した。


 それから随分長いこと研究を続けている。

時間はある。

自分の意識を移し替えることで延命する方法は以前から考案済みだった。

いつだったかアンがこの術を禁術に指定し、これは絶対に使うなと怒っていたものだ。

他人を犠牲にすること、そして人間の倫理観を狂わせるから。

でも、知ったことではない。

アンのいない世界に意味などない。

私は実用的な段階になるまであらゆる実験を進めた。

人体実験も含めて。


 禁術に関しては転移術が大いに関係している。

自分の意識と相手の意識、記憶の交換。

召喚と転送の応用でそれは可能となる。

そして禁術の完成に大きく貢献した人体実験のお陰で転送術も随分進歩した。


 転送術が不安定になった原因は明確になってはいない。

当時こちらの技術はある程度確立されており事故率は低かった。

過去の事例を参考に出された結論は、転送先の異界に影響された可能性があるというもの。


 それ以来、転送術の使用は安全性という観点から使用が控えられるようになった。

こうして同じ転移術の中で召喚術と転送術の進歩は次第に埋めがたい差が生じることになった。

だから大きく後れを取った術をいかに早く完成度を上げていくかが課題の1つになっていた。

そうして私は転送術の研究も続け、様々な実験を行いこの禁術を確かなものへと作り上げた。


 あの事故の時にここまで研究進んでいたなら、もしかすれば。

ああ、もしかしたら。

そればかり考えてしまう。

彼女の言葉に従わなければよかった。

しかし何かの拍子に生前の彼女との会話を思い出してしまうと、そうせざるを得なかったという結論になってしまう。


 よく思い出すやり取りがある。

「人間がもつ概念や倫理観は簡単に出来ている。受け入れるか否かが基準になっているだけ。例えば善悪の定義。ある物事に対して良いなと思えば善であって、それはちょっと、なんて思えば悪なのだ。肯定か否定。それ以上は定義できないのよ。だって人間の感情は流動的で瞬間的に価値観が変わるもの。そこを含めて定義づけるなんて不毛だわ。まあ議論することは有意義な結果につながることもあるけど。他の例を出すならそうね、幸不幸も同様。自分に都合のいいことは幸であり、受け入れがたいことは不幸に分類される。人間って複雑に思考することはできるけど根の部分は単純な動きしてるよね」

「いきなり、何が言いたいんです?」

「そう。でね、何が言いたいかっていうとね、エイゼット。あなたは周囲に馴染もうとせず、しかも皆のことをバカにして拒んでいる。つまりあなたにとって世界は悪であり、あなたにとってのあなたは世界で一番不幸な存在なのよ。だから幸せになることを目指して周りを受け入れることをしましょ」

「いやです」

「ほらすぐそう言う。まずは試してみましょう」

「不要です。今の状況に困っていません。なのでそれをする意味がありません」

「なるほどね。意味があればいいわけだ。じゃあ作ってあげる。まったく、そのままだとチームから追い出されちゃうぞ」

「なら1人で研究すればいいでしょ。利便性を考慮してここにいるだけですから」

「もう。あ、でも会話をしてくれてるってことは言うほど嫌じゃないのか。よしよし」


 私のことを気にかける人間など彼女以外にはいなかった。

人気者に声をかけられることは疎まれていることを自覚する者にとって辛いほどに煩わしいだけ。

しかしその気持ちと同じくらい好意を寄せてしまった。

その好意に引きずられ、もしくは利用されたのか少しづつ変わる努力をしてしまった。

結果は芳しくはないけれど応援してくれるアンの姿に励まされると悪い気は起きなかった。

期待に応えたかった。


 そんな彼女が、あんなに酷い最後を迎えるなんて納得がいかなかった。

運命というものを心底恨んだ。

だから運命とやらを私の意識で操作できるようにしてやろうと決めた。

考えがあったのだ。

次回「Aのお話し - 2」

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