ハートは作らないはずだった - 8
【前回までのあらすじ】
魔法の相殺に関する真相に気づくアン、そしてAZに歩み寄る
「エイゼット、私たちの世界は本当に希望に満ちているのよ。そうよ、そうなのよ。どこかの世界は成功しているのよ」
なんて言いながら興奮したご様子のアンさんが俺に抱きついてきた。
そうよそうなのよーと言いながら俺の胸におでこを押し付けている。
更に何かがこらえきれないのかコブシでどこどこ叩いていらっしゃる。
なにこれ?
嬉しすぎて正気を失ったのか?
俺も同様に失いそうだ。
「ちょ、ちょっと、どうしたんだ。まずは、どうしたのかというかどうしたいのか、そうそう、このままでいいからどうしたいのか教えてくれたらもっと嬉しい」
「何って私たちの目的である対魔法の魔法が作れる可能性があるのよ。わかる?」
「わかる、もちろん」
「そうよね、わかるわよね、さすがエイゼット、さすが。もう大好きよ。そうなのよ、明の世界は明かるいけど、どの世界にだってそれぞれの光源が瞬いている。光り方が違うだけなのだと、それに気づけばいいだけのことだった。絶望なんてしたらもったいない。もう、全ての私に早く教えてあげたい。このことに気づけた今日という日がどんなに素晴らしいか。あなたの協力には本当に感謝してる、んだけど、エイゼット?聞いてる?」
明の世界は明かるいけど、のあたりですでに離れてしまった彼女からの言葉がただの音になってしまうほど、俺の頭は外部からの情報の一切を受け入れられずにいた。
さっきはなんて?大好きって言った?
誰を?俺を?
頭の中で響き渡るフレーズ
大好きよ、大好きよ、もう大好きよ。
いやいや、いかん。
思考停止している場合じゃない。
これは聞き間違いではないのだから。
なぜならこれだけ頭の中でリピートされているんだから聞き間違いなんてそんなはずないだろう。
数多の並行世界のあらゆるアンを見てきたがここまではしゃいでいる姿は初めて見た。
そんな彼女が抱きついてきた上に嬉しそうに言ったのだ。
もう、とは、すでにという意味であるから進行形の気持ちとして受けとって問題あるまい。
これはあらゆる並行世界をつぶしてでも上手く進めなければならない重要事項だ。
ふふふ、そうか悟ったぞ、これが俺たちの使命なのだ。
世界の命運は俺の手にかかっている。
そうだ、ここは俺もだよと同意を返さねば。
「ぉれも」
間抜けな発声になった上に満足げなアンはその場から離れてしまっていたので言いそびれる結果となった。
いいさ。
レアな君の姿を見れただけで俺は十分さ。
千載一遇のチャンスとやらを逃したのだとしても。
きっと分岐したどこかの千年に1人のラッキーボーイは幸せになっているさ。
過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
世界とはそういうもの。
俺の世界がつぶされただけのこと。
そうさ。
いいのさ。
職場で一緒にいられるだけで幸せさ。
「なんか安心したらお腹すいてきちゃった。エイゼット、一緒に帰ろ」
次回「世界の落差が半端ない - 1」




