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ハートは作らないはずだった - 6

【前回までのあらすじ】

対魔法の研究を進め、明の世界の特異性を見つける

 アンと合流し研究の進捗を互いに報告した。

「俺の方はまだ進展はない。学会の情報はあらかた調べ終わった。成果はなし。あとは以前話した業務上魔法の使用がある現場の調査結果をまとめてみたんだが参考になるものはなかった。魔法の不発はそこまで多くないし、問題視されていないからほとんど報告もされていない。現場では笑いごとで済ませ、それをたまに冗談半分でレポートに書いた程度。どちらかというと不発より誤発動の報告が多い。実際、意図していない魔法の発動の方が危険だからな」

「なるほどね。それならどこか顔の利く所に報告書へ明記するよう協力を仰いでみましょう」

「ああ、それならいくつかの企業や役所に頼んであるよ」

「そう。じゃあ待つのみか」

「そうだな、あとは資格試験会場にも通ってみるかな。現場で見られるかもしれない」

「ええ、よろしくね。私の方は、魔法の発動方法の違いついて少し。あなたの情報をもとにいくつかの分類に分けてみた。その分類ごとにチーム分けして調査してもらってる。それくらいね。まだこれからといったところだけど、その前世の記憶が随分助けになったわ」

「ははっ、あっちでは物語の中でしか存在しないからな、魔法なんて。それだけにあの世界の人間は想像力が働いていたんだろう。ああ、思い出すと懐かしく感じるな」


 随分昔のように思える。

以前の俺は魔法なんて映画で見かけるくらいだったが、友人たちはゲームや漫画で慣れ親しんだ設定とかでよく話していた。

魔法陣がどうとか呪文で発動とか、色々言っていたな。

他に何かあるだろうか。

集中して思い出してみるか。

アンのためになるなら。


「だから私はね、世界が分岐する原因はもしかしたらあなたじゃないかって、そう思っているのよ。ちょっとエイゼット、聞いてる?」

「ああ、ごめん。何?」

「何でもないわ。でもやっぱり気になるわね。ねえ、なぜ転移学の研究を始めたの?あなたはどの世界でも必ずこの研究に携わっている。まるでそうなるように仕向けられているかのよう。もしかしたらあなたの前世とやらには何か使命でもあったのかな」

「どうなんだろうね。使命か。以前考えたことはあるよ。前世の記憶を植え付けたやつがいて俺に何かさせようとしているのでは、と。他の俺を見てからもきっとそうなんだろう位には思っていた。だが、肝心のその使命が何かわからないんだ。気にする必要もないだろう」

「どの世界でも共通していることといえば召喚術よね。そこに関連する何かかしら」

「かもね。どっちでもいいさ。ここにいる俺の邪魔さえしなければ。何が気になっているんだ?」

「ゲート越しに沢山の世界、異界を見た。なのに並行世界があるのは私たちの世界だけ。異界にはないように見える」

「それは異界のことをこの世界ほどに理解できていないからじゃないかな。違いがあっても気づけない」

「なるほどね。そうかもしれないけど」

「そういうアンだって同じだろう。どの世界でも君も研究員だ。君にも何か特異性があると考えられるんじゃないか。例の明の世界でさえ同じだったんだろう?まぁ、さすがに俺たちという存在が何かのキーになっているということはないだろうけど」

「そうかな。俺たちというかあなたには何かあると思うけど。あとあの世界の私は私じゃない。だって名前が」

「観察対象としてずっと見ていたからそう思うんじゃないかな。その明るさへの期待から自分との違いを見つけてしまう。いつか自分もとそう願うがしかしそもそも自分自身はその期待に応えられないと思い込み、同一人物に対し不一致を感じているのかもしれない」

「ずけずけと言ってくれるわね。今日は窓から帰ろうかしら」

「いやいや、悪かったよ。分析時には私情を挟まないようにしてるから、つい。も、もしもだけど、アンは違う仕事をするならどんな仕事がいい?」

「違う人生を歩むならか。私は、教師という立場に憧れる。未来を担う子供たちを育てる。有意義だし子供たちの取り留めのない感性に触れることによって私の人間性を豊かにもしてくれる」

「今の仕事でも十分できることじゃないか。研究者であっても教鞭をとる人はいる」

「もっと寄り添いたいのよ。未知数の未来に抗う術を知らず、無邪気に生きながらもそれ故に不安を抱えながら生きている。そんな子供たちの助力になれたらって」

「そうか、それで先生になりたいんだな。アンらしい」


 彼女がいつも抱えている不安。

助けられない自分を子供にみたて、先生になることで子供を通して自分を救いたいのだろうか。

俺は彼女の力になれているのか。


「今からでも遅くないんじゃないか?この研究所を出て教師になってもいいと思うよ」

「あら、私はいらないってこと?」

「そんなことないさ、もちろん。いないと困るっていうか、動機が、ああ、うん、自分だけでこの研究はさすがに無理だよ」

「あなたならできると思うけど。ふふ、でも辞める気はないわ」

「そ、そうか。それは嬉しいが、いいのか?」

「ええ。私はこの世界が彩り豊かで希望に満ちていると信じたい。そんな世界を意固地な奴の思い通りになんてさせたくはないのよ」

「意固地なやつね。わかった。その決意の強さを改めて理解したよ。じゃあ君がいつか先生になれるように俺も尽力しないとな。とはいえ、魔法のない世界か。もしあるならその世界に移住でもできたら話は簡単なんだけどな」

「それじゃ意味がないでしょ。全ての世界で対策してほしいんだから。目的の魔法が完成したら全平行世界に共有するわよ。大体、魔法がないんだから行きようがないじゃない。異界をつなぐパスは魔法なんだから」

「まあね。入港許可証もないのにどうやって入るんだって話しになるよな」


 そこまで話してアンは何か考え始めた。

次回「 ハートは作らないはずだった - 7」

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