あなたは前世を信じますか?
プロローグ
小さい頃から不思議な記憶があった。
自分が違う姿でしかも見知らぬ環境で活動している。
しかし夢や空想ではないと確信できる強いイメージ。
誰かに言っても理解はしてもらえそうにない遠い世界の記憶。
それが何かを知ったのは学生時代、召喚展示会に行った時のこと。
展示会へ行ったことでこの記憶が別人のものであると理解していく。
自分のものではないこの記憶の主は、中年というよりはまだ若手と呼んだ方がよさそうな年頃。
健康だけが取り柄な人物で正直こんな記憶を植え付けた存在が許しがたかった。
せめて教養のある人間の記憶を入れるべきである。
あとこの記憶には不可解な部分がある。
記憶の最後は人生の終わりだ。
その終わりが不自然なのだ。
不自然な記憶、それはおよそ一般的な最後ではなかった。
務めていた会社のどこか薄暗い部屋でこいつは倒れて苦しんでいた。
そばには1人佇んだまま息絶える記憶の主を見つめている者がいる。
こいつは会社の後輩だ。
こいつに殺されたのだろうか?
それが気になり魔法研究者の道を目指していくことになる。
そして知らない内に自分に課せられた使命に巻き込まれていたのだ。
使命には必要となるものがあった。
魔法だ。
そう、この世界には魔法がある。
魔法研究者になるには重要な要素だ。
魔法とは何なのか、ぜひその定義を教えてほしいと常々思う。
その魔法の扱いに長けたものは待遇のいい環境で働くことが多いらしい。
国家資格など段階的に用意されているが、取得には魔法の繊細なコントロール技術のみならず該当魔法の知識について高い教養を求められる。
更に魔法の扱いは厳重に管理され日常生活においてはほぼ使用禁止とされており関連する法の罰則も重い。
そのためなのかあまり魔法の資格を取りたがる人は多くないという。
つまり資格保有者の絶対数が少ないがために重宝されることから待遇がいいのだ。
中でも顕著なのが魔法学者。
魔法を扱う他の職業に比べ就業者の割合が少ない。
理由は魔法学者になるために必要な条件のハードルが高いこと。
まず当然ではあるが学者である以上、選んだ学問に精通していなければならない。
それだけでも十分条件としては高いはずなのに、加えて魔法学者になるためには国家資格である魔法技術資格証中級以上の取得などが義務付けられている。
研究者として身を立てるならより高い資格、もしくは複数の魔法の資格を有する必要がある。
よくやるものだと思うのだが、研究者たちはむしろ好んで取りに行くらしい。
取得すれば世界的な身分証明証になるし、何よりその魔法が好きなのだとか。
前者がついでで後者が本命というものが多数を占めるのがこの業種。
要するに変人ばかりが集まっているわけだ。
それがこの世界の魔法学者というもの。
まともなはずの俺たちが進んでいく道だ。
魔法にもともと興味があったわけではないが、先に触れた通り関わるきっかけがあったのだ。
この魔法学者になったことで自分を取り巻く環境は大きく変化していく。
そのうち運命というものを考える機会が訪れると、全ては召喚術の展示会に行ったことがきっかけであり、そこから静かに、大きく動き出したのだと考えていた。
そしてその先にある未来への道はこの手で紡いでいくものなのだと。
しかし俺たちはいずれ思い知らされるのだ。
運命とは自らが作り上げていけるものである。
そう勘違いしたまますでに出来上がった数多の道を辿らされているだけ。
そして、俺たちは所詮、暗い影の存在なのだと。
次回「あっちと違って頭がいい」