剣聖②
穿たれる漆黒の剣。
そして、剣聖の斬撃。
それを一身に受け、しかしモナは即座に元の姿に戻る。
その様はもはや、人の為しえるモノではない。
「ねぇ、ジーク」
「わたしと貴方は一度、会ったことがある」
「覚えてるカナ?」
ジークを見つめ問いかけ、微笑むモナ。
「ワタシのお城に。今は、もう無いワタシのお城。そこで、目が合ったの、覚えてる?」
「収納する」
モナの問い。
それに額を抑え、ジークは力を行使しようした。
脳裏に浮かぶ、漆黒を纏いし者。
赤き双眸に、揺れる双翼。
玉座に座し、勇者に相対した闇。
その名はーー
「モナ。此度の魔王の名」
響く、ランスロットの声。
それに呼応し、響く幼いモナの嗤い。
「せいかい」
佇む、ランスロット。
その方向を仰ぎ見、モナは更に続ける。
「さすが、剣聖。ゆうしゃのつぎに、つよい存在。でも、今は」
モナの楽しそうな声。
それを遮るは、ジークの意思。
「収納する」
「オマエの存在を」
刹那。
モナの体躯を包む、収納の力。
そしてそれはジークの意思に倣い、モナという名の存在を空間へと収納していく。
だが、モナは嗤う。
「ジーク。じーく」
「よかった、よかった」
「ようやくこれで」
収納の力。
それに包まれ、ソコから消失していくモナ。
しかしその間際、声が響く。
「ワタシはあなたといっしょになれる」
その声の余韻。
それを聞き、ジークは呟く。
「俺の為に、オマエの力。使わせてもらう」
瞬間。
聞こえぬはずの幼い笑い。
ランスロットはそれを聞いたような気がした。
「勇者を殺す。その為に」
魔王の力。
それをナカに収納し、ジークの闇は更にその濃さを増す。
歓喜するは、ジークの内に蠢く魔物たち。
周囲に轟く、異様なまでの殺気に満ちた声ならぬ轟き。
真紅に輝く、ジークの双眸。
震える空間。
その中にあって、ランスロットはジークに問う。
「ジーク」
「なにを為す?」
「勇者を殺す。一人、残らず」
ランスロットの問い。
それに短く答え、ジークは歩みを進める。
後ろを振り返ることなく、ただその瞳に殺気のみを宿して。
「勇者に終わりはない」
なにかを知るランスロット。
その言葉が響くも、ジークの表情は変わらない。
「殺す。ころす。奴を、すべて」
闇を引き連れ、ジークは進む。
ランスロットはその姿を見つめ、剣を振るう。
「遮断」
と呟き、ジークへと剣の斬撃を。
しかし、それは意味を為さない。
「収納する」
視線すら向けず、ジークは呟く。
刹那。
ランスロットの斬撃は何事もなかったかのように消失。
そしてーー
「返すぞ」
吐き捨てられ、【遮断の斬撃】がランスロットへと撃ち返される。
「……っ」
それをランスロットは身を逸らし避け、そして悟る。
斬撃を受け、崩れ落ちる壁。
その破片の中、外からの光に照らされ、自分如きではジークを止めること等できぬと悟ったのであった。
そのランスロットから意識を逸らし、ジークはその場を後にする。
「殺す。勇者を一人残らず」
そう思いをこぼし、その双眸を赤々と輝かせながら。