王城③
頬についた、返り血。
それを拭うことなく、ジークはアレクの姿を見下ろす。
あらゆる拷問。アレクがジークの村に対し行った、数多の凄惨な処刑法。
それを全てアレクに施し、そして小刻みに痙攣するアレクの身を無機質に踏みつけ、死を戻しトドメを刺すジーク。
そのジークの表情。
そこに宿るのは、混じり気のない殺意のみ。
城内に響く、魔物たちの咆哮。
そして、城に残った者たちの悲鳴と絶叫。
ジークの意。
それに従い、魔物たちは王城を血の海へと沈めていく。
「皆殺し」
呟き、ジークは視線をあげる。
そして、玉座の後方に続く通路の先にある扉へとジークの視線が向く。
【収納物】
透視×1→0
透視。
それを取り出し、扉の向こうを見つめるジーク。
そのジークの視界。
そこには、震え抱き合って蹲る二人の姿があった。
王妃と王子。
一目に、ジークはその二人の身分を悟る。
そして、ジークは扉へと向かう。
血で汚れた靴音。それを響かせ、己の表情を無から一切変えることなく。
「収納する。扉を」
染み渡る、ジークの声。
応え、視線の先の扉が消失する。
途端。
顔をあげ、泣き叫ぶ王妃と王子。
しかし、ジークの表情は変わらない。
ただ淡々と。
「殺す」
そう呟き、二人へと歩み寄っていくジーク。
その手を握り、そこに闇を纏わせながら。
そのジークに、王妃は懇願した。
「おッ、お願いします!! この子だけはッ、この子だけは助けてあげてください!! わッ、わたしの身はどうなっても構いません!! どうかッ、どうか!!」
しかし、表情を変えないジーク。
代わりに、ジークは王妃の記憶を収納する。
"「あの古臭い村を焼き討ち、ですか。ふふふ、素晴らしいご決断。流石、我が王。わたくしも賛成ですわ。勇者様の進言。それに間違いなどないのですから」"
うすら笑い。
それを浮かべ、アレクの決断を賞賛した王妃。
そしてその傍らで、"「あの村の跡地。そこにぼくの別邸を建てていただけませんか? お父様」"そう声を発し、微笑んでいた王子。
「収納する。距離を」
距離を収納し、王妃と王子の数歩前に現れたジーク。
それに、「ひぃっ」と漏らし、王妃は顔を青ざめさせる。
その姿。
それは、刑を執行される寸前の罪人そのもの。
そして、ジークが更に力を行使しようとした瞬間。
「かッ、母さんはぼくが守る!!」
震えながら立ち上がり、王子は王妃を守る為にジークの前に立ち塞がる。
己の小さな拳。
それを握りしめ、
「くッ、来るならこい!! お、お父様の仇。そ、それを僕がうつ!!」
そう叫ぶ、王子。
そして王子はジークの腹に拳を叩き込む。
無意味な抵抗。
泣き叫び、ジークへと拳を叩き込んでいく無様な王子。
その姿。
それに、ジークは吐き捨てた。
「シね」
王子の顔面。
そこに躊躇いなく拳を叩き込み、首を飛ばす。
そして、その残った身体の胸ぐらを掴みゴミのように投げ捨てるジーク。
王子の首は転がり、王妃の前で止まる。
その王子の虚な眼差し。
それを受け、王妃は壊れる。
「ふふふ。は、ははは!! 終わりッ、終わりですわ!! 全てッ、もう、おわりですわ!!」
立ち上がり発狂し、頭を抱える王妃。
そして、王妃は鬼の形相でジークへと走り寄る。
「殺すッ、よくも我が子を!! わたくしの子と父を!! 許さない!! ゆるさーーッ」
「シね」
王妃の心臓を収納し、ジークは王妃の耳障りな叫びをかき消す。
倒れ伏せる、王妃。
その亡骸に群がる、魔物たち。
響く咀嚼音と、血肉がちぎられる音。
それを聞き、しかしジークの表情は一切変わらない。
闇を纏い、踵を返すその姿。
それはまさしく、闇に魅入られし復讐者そのものだった。