王城①
そのダークウルフの頭。
それを撫で、ジークは閉ざされた門へと向かう。
そして閉ざされた鉄扉に手を触れ、「収納する。扉を」と呟き、扉を消失させ、中へと踏み入った。
背後で響く、断末魔。悲鳴。ナニかが飛び散る音。
それに表情ひとつ変えず、淡々と。
響く、ジークの足音。
それに呼応し、魔物たちもまた城内へと進入していく。
王城の最後。
それが刻々と迫る。
逃げ惑う、高貴な者たち。
私腹を肥やし、ジークの故郷さえもその私欲の為に利用した者たち。
その声が、ジークたちの足音を掻き消すように響き渡る。
「どッ、どうなっておる!? なッ、なぜッ、ここに魔物の群れが居るのだ!?」
「ゆッ、勇者殿はなにをしているの!?」
「へッ、兵士共!! はやく我らの退路を確保するのじゃ!! 我らがココで死ぬことなど許されぬ!!」
「助けろッ、誰か!! 助けた者には褒美をやるぞ!!」
慌てふためき、血相を変える高貴な者たち。
もはや逃げ場等ないのその姿。
それは、狼に追い詰められた羊そのもの。
今にも飛びかからんとする魔物たち。
それを制し、ジークは彼等の元へと歩みを進めていく。
「ひっ、ひぃ」
「くッ、来るな!! この化け物!!」
「わ、我らに手を出せばどうなるかわかってーーそ、そうだ。わ、我と取引をせぬか?」
こちらへと近づく、ジーク。
その姿に後退りをしながら、一人の白鬚を蓄えた老人は下手な笑顔を浮かべる。
「わ、我はあらゆる方面に顔がきく。こ、ここでお主が我を見逃せば、そうじゃな。う、うむ。我の領地の三分の一をお主にくれてやろう」
「……」
あらゆるモノを剣にする力。
それをもって、大気を剣にするジーク。
「に、二分の一ッ、二分の一でどうじゃ!?」
「……」
表情を変えず、ジークは歩みを進めながら剣で空を切る。
「えッ、えぇい!! 全てじゃ!! 我の領地を全てやる!! こッ、これなら満足じゃろ!!」
立ち止まり、興奮する老人。
目を血走らせ、老人は肩で息をする。
老人の数歩前。
そこで立ち止まる、ジーク。
それに老人は安堵し、頷く。
「ふ、ふぅ。取引成立じゃな。ほ、ほれ。はやく我を外へと連れ出せ。こう魔物が多くては外にも出れんからのぉ」
そう呟き、ジークの肩に手を載せようとする老人。
しかし、次の瞬間。
「シね」
無機質な声。
それと共に、老人の首は刎ねられる。
軽く、ジークが剣を振るっただけで。
血が噴き出し、よろめき、力無く崩れ落ちる老人の身体。
それを踏みつけ、ジークは「全員、殺す」と声を響かせ、残った高貴は者たちを見渡す。
その眼差し。
そこには、宿っていた。
混じり気のない、殺気。それに彩られた闇がはっきりと。
「たッ、助けてぇ!!」
「まッ、まだ死にたくありませんわ!!」
「えッ、謁見の間に行くぞ!! あッ、あそこには王国最強の近衛兵が居るはずだ!!」
叫び、蜘蛛の子を散らすようにその場から忌避を図る者たち。
しかし、ジークはそれを許さない。
「収納する。目を」
途端。
目を失い、彼等は発狂する。
互いにぶつかり、罵声を響かせ、転倒し、転げ回る、高貴な者たち。
その様。
それはまるで、殺虫剤をかけられ悶える虫のよう。
その一人一人を、ジークは踏み躙っていく。
魔物たちと共に。
「た、助けッ」
「ぐぎゃ!!」
「へぐぅ」
ある者は錆びた短剣で全身を弄ばれ。
「わッ、わたくしは高貴なる者!! このようなところでッ、し、死ぬわけには」
「ガルルル!!」
ぶちぃ
「ひぎぃッ」
ある者はダークウルフの鋭い牙で肉を裂かれ、内臓を貪られ。
「死にたくないッ、この僕はッ、こんなところでーー」
「グァォォン!!」
グシャッ
またある者はオークの足で顔面を踏み潰されて。
ジークもまた、返り血を浴びその頬を赤く染める。
しかしその眼光は衰えず、「謁見の間はあの先か」そう呟き、足元の亡骸を踏み躙り、【光の格子】に守られた鉄扉を見据えたジーク。
【光の格子】
それを破るには、中からの【開錠の意思】が必要。
しかし、ジークの力をもってすればーー
「収納する。あの守りを」
闇に包まれ、光の格子は瞬時に消失してしまったのであった。