王都③
〜〜〜
「ほ、報告です。たった今ッ、勇者様の結界そして王都を覆う壁が消失!! その為にッ、まッ、魔物たちが王都に大挙して押し寄せております!!」
謁見の間。
その絢爛豪華な空間。
そこに、場に似つかわしくない声が響く。
そして、更に続く音と声。
けたたましい足音。
それと共に、転がり込むように謁見の間に現れたもう一人の兵。
先に片膝をついていた兵のすぐ側。
そこで立ったまま、兵は声を響かせた。
「ふふふッ、再び壁が現れた模様!! しかしその壁は闇に包まれッ、まるで王都と外を断絶するかのようであります!!」
二人の兵。
その顔は焦燥に満ち、畏れに満ちている。
二人ともかちかちと歯を鳴らし、たった今見てきた光景に怯えきっていた。
そんな二人の報告。
それを受け、しかし王の表情はどこか余裕に満ちている。
そして、玉座に座ったままアレクは声を響かせた。
「慌てるでない。この城には勇者様がおられる。きっとまた結界を張ってくださる。それに。魔物共も勇者様の前ではただの雑魚。必ずや一掃していただけるはずじゃ。壁など、また建てれば良いのじゃからな」
アレン。
その存在がこの城に居る。
その安心感がアレクの中にはあった。
「それに、既に剣聖殿と魔聖様。そのお二方も、この場に現れる。お二人とも、【転移】の手段はお持ちであるからな。しかし、よかった。お二人がこちらに来る日。それが、今日この日であることが」
「しッ、しかし!! 既に幾人もの臣民が魔物の手によりその命を奪われております!!」
「ここは王としてッ、臣民の命をお守りする覚悟!! それをお見せになる時!! 外からの支援!! それをお待ちなられるべきではありません!!」
響く、兵の微かな怒気の宿った声。
アレクはしかし、鼻で笑うのみ。
「ふんっ、死んだ者たちはそれが運命だったまで。命を守る覚悟? 我の命さえ守られれば、それで良い。さすれば、また。この国を建て直すことができるのじゃからな。それとも、なんじゃ? お主らはこの我の言葉に不満があるのか? あると言うのなら……この事が済んだ後。お主とお主らの親しき者。それらを全て、反逆罪で処罰することになるが」
「「……っ」」
アレクの言葉。
それに唇を噛み締め、首を下げる兵たち。
その姿をアレクは笑い、意気揚々と玉座を立ち上がった。
そして。
「反転攻勢に打って出る。勇者様をここにお呼びしろ。そして、剣聖殿と魔聖様。その到着を待ち、一気に魔物共を一掃するのじゃ」
「か、かしこまりました」
「仰せのままに」
兵たちをは頷き、その場に立ち上がる。
そして謁見の間を後にしようと、踵を返した瞬間。
「勇者様とッ、ジュリア様!! そッ、そしてイライザ様が姿を消しました!! この国に旨みが無くなった。そう言い残して」
駆けつけた、側近。
その焦燥声が響く。
「なんじゃと!?」
目を見開く、アレク。
更にその頭の中に、響く声。
"「其方には行けぬ。この地で俺は、奴を迎え撃つ」"
"「わたしの目的はココネの仇。貴方の国を守る為に戦う意味はありません」"
冷淡な剣聖と魔聖の意思。
それが一方的に響き、アレクは梯子を外された格好となってしまう。
歯を食い張り、怒りに満ちるアレク。
その額には血管が浮き、今にも怒鳴り散らすかのような勢い。
わなわなとその身を震わせ、アレクは命ずる。
「我が城の全兵力ッ、それをもってこの我の命を守る為に抗うのじゃ!! そしてその後ッ、あの勇者と剣聖ッ、そして魔聖の地へと兵を進めよ!!」
絶望的な命。
叶うことのないアレクの命。
それを虚しく響かせ、アレクは再び玉座へと座する。
そして、「この我を舐めよって。許さぬ。許さぬぞ」と呟き、歯軋りを繰り返すのであった。
〜〜〜
「守りを固めろ!!」
「ここから先に奴等を通すな!!」
王城の入り口。
その前で剣を抜き、震える兵たち。
門は固く閉じられ、ジークに微かな抵抗を試みようとその意思を示している。
そんな彼等の視界。
そこでは煙があがり、火の手まであがっていた。
震える、面々。
刹那。
「出てこい、下等魔物たち。俺に続け。血と殺戮の宴だ。存分に殺し尽くせ」
染み渡る、ジークの声。
それに呼応し、闇の中から続々と姿を現す、ゴブリンの群れ。
皆、その目をギラギラと輝かせ、その口からは興奮に彩られた唾液が滴っていた。