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ルーシア①

〜〜〜


「ゆ、勇者殿!!」


王の側近の慌てふためいた声。

それが響く、勇者の居室。

時は、朝。

未だ日が昇りきらぬその時に、その声は響いた。


それに、しかしアレンとイライザは動じない。


「死んだか、あいつ。あんなに威勢よく負け組を倒すと豪語してた癖に、殺られちまったみてぇだな」


「まだ確証はもてません。しかし、念話回路がつながらず一切の反応も伺えないところを鑑みるにおそらく」


「で。大聖堂はどうなった?」


「わかりません。ですが、おそらく」


部屋の窓際。

そこに立ち、会話を交わす二人。

その背に側近の声がかかる。


「大聖堂のす、全てが闇に包まれ、外から干渉ができません」


その声に振り返る、アレンとイライザ。

そして続けた。


「あのジーク、か。おい、イライザ」


「はい、勇者様」


「あのゴミ。まだ利用価値があると思うか?」


「利用価値。それは、勇者様を求める声が更に大きくなる為の悪。としてでしょうか?」


「あぁ」


「それでしたら、十二分に。聖女様までも屠ったあの存在。それが魔王にとって代わる存在になる可能性は大いに高いと思われます」


「そうか。なら」


頷き、アレンは側近へと声をかける。


「王に伝えてくれ。なにも心配はいらない。大聖堂の件は、俺が事にあたる、と。あぁ、それと」


アレンの言葉。

それに押し黙り続きを待つ、側近の男。

そしてアレンは、声を発した。

なにひとつ躊躇うことなく、はっきりと。


「今までの10いや、100倍だな。俺に対する富の配分。大聖堂の件が解決した暁には、それぐらいの対価が必要です。それを約束いただけなければ、この件について勇者オレは静観を保ちます……ってな」


「は、はい。そのようにお伝えいたします」


アレンの言葉。

それに何度も頷き、部屋を後にする側近。

その背を見送り、イライザはアレンに問う。


「勇者様」


「なんだ?」


「なぜ貴方はそこまで財にこだわるのですか? 今でも十二分にその富はーー」


「わかってねぇな、イライザ」


踵を返し、窓際へと向かうアレン。

そしてそこで足を止め、イライザを仰ぎ見、アレンは言った。


「これが俺のやり方だ。それ以外になにもねぇ。勇者としての誇り? 立派な勇者? んなもん、俺にとっちゃどうでもいい。あるのは自分の果てのない欲。それを発散してぇっつう思いだけだ」


アレンの瞳。

そこに宿る光とも闇ともいえない瞬き。

それに、イライザはたじろぐ。


滲む、汗。ゴクリと唾を飲み込む、イライザ。

その姿。

それにアレンはちいさく笑い、鼻歌を囀りながら窓の外へと視線を向けたのであった。


〜〜〜


大聖堂の地下。

そこで、ルーシアは歓喜に満ちていた。


「死んだ。死んだ、死んだ。マリア、しんだ」


走り回る、ルーシア。


「これで出れる。ルーシアはココから出れる」


「皆殺し。みんな殺す。人間、みんな。ころして、たべる」


「ひッ、ひぃぃぃ!!」


ルーシアの歓喜。

それに呼応し影のような漆黒があたりに充満する。

倣い、囚人たちの身が溶けていく。

否、それは喰われていた。


捕食の闇。

あらゆるモノを喰らうその闇。

それがルーシアの意に応え、次々と光景を捕食していく。

呼応し、ルーシアの嗤いが更に大きくそして耳障りになっていく。


「ルーシアは食べる。全部、たべる。あらゆるモノを食べて、ルーシアは強くなる」


ごきッ

メキッ


人の身。

そして、周囲の光景。

それを喰らい、ルーシアはその場で胡座をかく。

自身のお腹。そこをさすり、「お腹。ルーシアのおなか。なんでも、はいる。なんでも、なんでも」そう声を発するルーシア。


「この世界も、ルーシアは食べる。ぜんぶ、ぜんぶ、ルーシアが」


そこで、ルーシアは見た。

視線の先。

そこに存在する、上へと続く階段。

それを駆け下り、「力。力を。ルーシア、わたしに力を」と呟き、ジークに対する怒りに身を震わせるメリルの姿。

それをはっきりと。


「ルーシア、ルーシア」


ふらつき、ルーシアの元に近づくメリル。


「あのゴミ。聖女様と、クリス様。それさえも屠ったあのクズを殺す為の力。それを、わたしに」


そのメリルの姿。

それにルーシアは、嗤う。

そして立ち上がり、呟いた。


「餌。負の感情に染まった、おいしい、餌」


その声に気づかず、メリルは叫ぶ。


「はやくッ、はやくッ、わたしに力を!! あのゴミを殺す力ッ、それをはやくーーッ」


「いや」


「えっ?」


「オマエ。さっき、ワタシの声を無視した。無視した。無視した」


刹那。

メリルの背後。

そこに現れる、捕食の闇。

震え、その闇を仰ぎ見るメリル。


目を見開き、メリルは悲鳴をあげようとした。


「いッ、いやぁーーッ」


瞬間。


ぐちゃッ

ごきぃッ


首から上。

そこを闇に貪られ、宙ぶらりんになるメリルの身。

ぼたぼたと滴る、肉片と血。

染まるメリルのローブ。

だらんと垂れ下がった、メリルの全身。


それを見つめ、ルーシアは嗤う。


「おいしい。おいしい、えさ。ふふふっ。これで、ルーシアは、もっと。もっと。強くなりました」


膨れ上がる、捕食の闇。さすられる、ルーシアの腹。

その中でルーシアは外へと意識を向けようとした。

マリアの枷。それが無き、今。

ルーシアをソコに留めるモノなど--


「あ、れ?」


ルーシアは感じる。

己の身。

そこにのしかかった、異様な力。

それを鮮明に。


そして、ルーシアは感じた。


頭上から染み落ちる、闇の気配。

その、ジークの存在をその身に。


聖女ゴミの玩具」


響く声。

同時に、ジークは現れる。


漆黒に包まれ、「一匹残らず、消す」そう呟き、ルーシアの眼前に、その手のひらをかざしながら。


ジーク、闇、闇。たべ、たい」


ジークの姿。

それに呟き、ルーシアはジークに手を触れようとした。

捕食の闇。

それをその手のひらに纏わせながら。


だが、ジークはルーシアの口に手のひらで押し付け、吐き捨てた。


「収納する。お前の力を」


【収納物】

 ルーシアの力×∞

 

刹那。


ルーシアのあらゆるモノを吸収し、自身の力と為す力が消失。同時に、ルーシアの腹が常人のソレとなる。

途端、ルーシアは腹を抑え、口から血反吐を吐き、その場に蹲る。


だが、捕食の闇は止まらない。

周囲の光景。

それを喰らい続け、ルーシアの中へとありとあらゆるモノを送り届けていく。


「ぁ……ぐっ」


苦悶の表情。

それをたたえる、ルーシア。

そのルーシアを、ジークは見下ろす。

冷酷な眼差し。それをもって、無機質に見下ろすのであった。

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