聖女②
途方もない衝撃。
それを受け、殴り飛ばされたマリア。
大地さえも沈ませる、天賦の拳。
それをモロに受け、マリアの身体はステンドグラスを突き破り外へと飛ばされる。
血肉と肉片。
それを残滓とし、その音さえも置き去りにして。
しかし、ジークは目を逸らさない。
闇を帯びた拳。
それを下げ、空中で静止しこちらを見据える神を睨むジーク。
本来なら、跡形もなく消え去るはずのマリアの身。
だがその身は原型を留め、未だその眼窩に宿る金色は衰えることはない。
「ジーク、じーく。罪、多きモノ」
「なれば、その罪を償え。その命をもって、償え」
響く重く低い声。
それに倣い、マリアの背に現れる半透明の双翼。
それは闇の中で金色に輝き、揺らめく。
その姿。
それを見た者はこう言うだろう。
【天使】が現れた、と。
この世界に神の使いが顕現した。そう叫ぶだろう。
しかし、ジークは呟く。
そのマリアのカタチをした神を見据え、忌々しく吐き捨てるようにーー
「ヤれるものなら、やってみろ。神」
「収納する。オマエの」
刹那。
ジークの身に穿たれる、金色の槍。
それは、天賦の肉体さえも貫く神の武器。
「償え、償え」
更に声が響き、無数の武器がジークを襲う。
剣。槍。双剣。斧。三叉槍。
それは全て金色に輝き、この世界において【神器】と崇め称えられるモノ。
"生身の人間"がそれを受けたなら、認識する間もなく死を与えられる神の裁きそのもの。
双翼。
それを揺らし、ジークを見下ろす神。
そして、呟いた。
「何故、潰えぬ」
倒れぬ、ジーク。
その全身を貫かれ、なおもソコに佇む存在。
それを、神は忌々しく見つめる。
それに、ジークは嗤う。
そしてその目を見開き、声を響かせた。
「全ての命。オレの中にある、全ての命」
「ソレを全てコロすつもりで来い」
同時に、ずるりとその場に現れるは金色に穿たれた世界中の魔物の亡骸。
その数は大聖堂の内陣を埋め尽くし、なおも増え続ける。
しかし、ジークは止まらない。
【収納物】
あらゆるモノを治癒する力
メティスから収納した、力。
それを取り出し、ジークはその大量の亡骸を見渡す。
刹那。
魔物たちはその身を起こし、再びジークの闇に同化していく。
咆哮。或いは、愉しそうな鳴き声。
それを響かせながら。
その光景。
もはや、人智を超えたジークの所業。
命を無限に収納し、それを取り出し身代わりにする。
神が人間を前に退くことなどない。
だが、確かに神の身は僅かだが後退していた。
ほんの僅か。しかし、それは確かに神が人間を己と同じ境地だと認識した証。
「よかろう。オマエを、我が障害とミトめよう」
「この世界の全ての命、それを滅する程に。我がオマエを裁いてミセよう」
「来い、神。相手になってヤる」
「下す。裁きを」
「収納する。オマエの力を」
嗤う、神とジーク。
そして、二人が互いの力を行使し金色と闇色がぶつかり合おうとした瞬間。
めきッ
マリアの身。
それが力の行使に耐えきれずひび割れ、粉々に砕けていってしまう。
呼応し、マリアに宿った神の意思もまた拠り所を無くし消え去っていく。
「脆い。やはり、人の身ならば。コレが限界か」
轟く神の声。
それに、ジークの闇もまたその勢いを収めていく。
「いずれまたアイまみえようぞ、人間。そのトキは、我の真なる身をもって」
消えゆく、神の意思。
それにジークはなおも力を行使せんとした。
「収納する」
己の命。
それさえも贄にして、神そのものを収納せんとした。
刹那。
"「ジーク。また、いっしょに遊ぼうね」"
"「またお花のかんむり。つくってあげる」"
漏れ出す、収納したはずの故郷の記憶。
それに頭を抑え、ジークは力の行使をやめる。
そして、呟いた。
「ふくしゅう。復讐。ふく、しゅう。ソレを果たすまで、俺は死なない。ジュリア、アレン。俺の故郷を、壊したモノ。全てに復讐するまで、俺は」
己の胸中。
そこで、復讐の焔を煌々と揺らめがせながら呟いたのであった。




