柴漬けのポテトサラダ
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入り口の開き戸がカラリと開いた。
「こんばんはー」
「いらっしゃいませ……って、なんだお前か」
「……お前かじゃないよ。来てやったんだよ。ありがたく思えよ」
カウンターの奥の年寄りたちが今来た客の若い女、悦子に声をかける。
「おお、こんばんは。エッちゃん」
「こんばんは、源さん、ロクさん」
男の客でほぼ占められているこの店の、貴重な若い女客の来店に常連の年寄りたちが相好を崩す。
「ご注文は」
「グラスビールちょうだい」
「……食べるものは?」
「お通しでだけでいいわ」
「お前な、たまにはちゃんと注文しろよ」
「お通しだけっていうのが会社帰りの一杯がちょうどいいんじゃないの。お腹にもお財布にも」
「やれやれ」
店主は肩をすくめると、ビールサーバーのコックを倒した。
◇
「へいお待ち」
店主は丸く小さなものの乗った小皿を悦子の前に出した。
「ありがとう……って何これ?」
「柴漬けのポテサラ」
「柴漬け?」
「そう、京都土産で定番の柴漬け」
「へえ。ポテサラに、柴漬けねぇ……形が丸いから、アイスクリームかと思ったわ」
「居酒屋のお通しにアイスを出すバカがどこにいるよ」
「いや、目の前のバカならそれもあるのかなって」
「さっさと飲め。食って帰れ」
「何よー。せっかく来てやったのに-」
年寄りたちが彼女に同調する。
「おいおい、大将。若い女の子追い出すなんてよくないだろうが」
「お店に若い女の子が来てくれると、客が増えるってもんなんだろ」
「そうさ、若い娘は大事にしないとな」
「しかも毎日来てくれるなんて、ありがたいじゃねぇか」
「こんな場末の居酒屋に」
「場末は余計だ」
悦子は割り箸を割ると、柴漬けだけが入ったポテトサラダに手を着ける。
「いただきまーす……あ、これ、美味しい」
「当たり前だ。まずいもの出してどうする」
「あんたってお通しのセンスだけはいいわね」
「お通ししか食ったことねえ奴に言われたかねえ」
悦子はグラスビールをグイッと開けると、財布から千円札を出した。
「はい。お勘定」
「おう、釣りはいらねえな」
「いるわよ!」
「……たまにはちゃんと注文してくれよ」
「そのうちにね」
「なんなら友達連れてきてくれてもいいんだぜ」
「えー、自分だけの隠れ家だからいんじゃないの」
「売上に貢献しろ、と言ってるんだ」
「じゃあ会社の人たち連れてくるよ」
悦子がにんまりと笑うと、店主は顔をしかめる。
「絶対連れてくるな」
「あんたが今は居酒屋やってるなんて知ったら、課長なんて言うかな」
「うるせえよ。さっさと帰れ」
店主から釣り銭を受け取ると、悦子は笑顔で帰る。
「じゃあね、また明日」
カウンターの年寄りがその後ろ姿を見送りながら言った。
「はあー、いい子だなエッちゃんは」
「いや本当本当」
「こんな愛想の悪い大将のもとに」
「なんで毎日毎日」
「うるさいわ」
「大将、熱燗お代わり」
「あ、俺も」
「あいよ」
今日は冷えるから熱燗がよく売れるな、と店主は徳利に酒を注いだ。
柴漬けのポテサラは、茹でたジャガイモに既製品の柴漬けを刻んで、汁ごと混ぜてマヨネーズで和えるだけでできちゃう、日本一簡単なポテサラです。




