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王都の錬金術師  作者:
第二章 北の遺跡と呪われた古城
111/136

★第一幕

 此処より先は王国の文献に記された内容からの比率は激減し、主に時の経過を経ても尚、慚愧の念に悩まされ続けた当時の人間たちが救いを求め神殿に告解した……言わば懺悔を綴った禁書を下地としている為に調査団によって纏められた内容も極めて主観的なモノとなる、と注釈を付けて置く事とする。


 仮に漏洩した情報が公表されたとて、王国も神殿もそれら書物の存在を公には否定するだろう、風化された歴史の暗部に触れる、これはそうした類いの物語である。


                 ★★★


 この地に残ったフェルミナ姫の下には伯爵家の騎士たちのみならず、王国により粛清された貴族家の家臣たちもが集結し、統合された勢力は千の単位にまで及んだとされている。実数においては諸説あるとは言え、それだけ王国の過剰な粛清に不満と憤りを抱く者たちが当時、少なからず居た事だけは確かな事実であろう。


 結果として反王国の旗頭として担がれる事となったフェルミナ姫の心情が語られる記述は一切残ってはいないのだが、実の両親や兄弟たちが王都で辿った末路を思えば投降した上で酌量を求めると言う選択肢は心情的な面を踏まえても難しいかったのだろう、と推察する事は可能ではある。


 だが、抗ったとて勝ち目の無い戦に身を投じた姫と騎士たちの覚悟と信念は揺るぎ無く本物で、それを示す証言が複数残されており、事実としても決して史実では語られる事なき、この地で繰り広げられた対王国との実に三ヶ月に及ぶ壮絶なる攻防戦が何よりもそれを物語っていた。


 当時、この地を攻めた王国軍の全容や規模は把握仕切れぬ部分ではあるが、比較する必要すらない圧倒的な戦力差を前にして通常であれば数日と持たず陥落する筈の城をこれだけの歳月持ち堪えさせた騎士たちの獅子奮迅ぶりと勇猛果敢さは軍学の素人である私でも容易に考察が可能であり……だがその奮戦が逆に王国の怒りに拍車を掛けさせ後の虐殺にまで至る事を思えば何とも居た堪まれぬ皮肉的な運命ではある。


 三月に渡り騎士たちが王国の攻勢を凌いだ事実は当時の証言者の告白からも明白ではあるのだが、同時にその期間の長さは王国側の戦術の変更ゆえと言う側面を併せ持ち……所謂、兵糧攻めと呼ばれる持久戦への転換である。


 城下町の住民たちを近隣の村々へと避難させ覚悟の籠城ではあったとしても、長期間に渡る果てなき飢えと乾きを精神論で補える期間など残念ながら高が知れている。そして思い返して見て欲しい……現象の第一段階とはどの様な事象を現していたのかを。


 そう……例えるならばそれは歴史の再現である。


 大量の餓死者を出しながらも尚奮戦するも、結果として三月の後に城は陥落しフェルミナ姫は虜囚の身となり生き残った騎士たちも全て捕縛され内乱とすら記録される事のない戦は此処に終焉を迎える。


 のだが……虜囚となった者たちのその後の末路は凄惨の一言に尽き、餓死者を含めた全ての騎士たちは木の杭で身を上下に刺し貫かれ丘の上に死後も遺体を晒され続け、軈て腐肉を喰らう鴉の群れに覆われた丘の光景はまるで地獄絵図であったと語られている。


 これがこの地の鴉が悪魔の眷属と忌み恐れられる由縁となっているのだろう。


 そして最後に残った虜囚であるフェルミナ姫の扱いが如何様であったかは……この時点で存在せぬ者とされている身目麗しい姫君に対して男共が何を求めたかなど……吐き気を催す程に分かりきった話で、家畜小屋へと監禁された姫君はその日の内に男共にその身を嬲れ欲望の捌け口としてだけの道具とされる。


 自決する機会を逸したのか、或いは阻止されたゆえか、結果生き長らえた事で彼女の地獄の日々が始まりを告げるのだ。


 逃げ出さぬ様にと手足の腱を切り、その瞳の輝きが生意気だと目玉を抉り、泣き叫ぶ声が煩いと舌を抜いて情欲のままに姫君を嬲り続けたその男共の所業は狂気の範疇すら逸脱していたと……されている。


 後悔し懺悔すれば許してくれるお優しい神様とは異なり、私などは女性に対するこの余りの暴虐を決して許す気にすらなれぬのではあるが……最早それは取り返す事が出来ぬ過去の幻影であり、今の私には何も成すべき術はなく……そしてまだ話は終わらない。


 そんな地獄が幾晩と幾日と続き……撤収作業が進む陣営では軈てフェルミナ姫の下を訪れる者は居なくなっていたのだと言う。


 理由は簡単である。


 録な食事すら与えられず病的に痩せこけた肢体は家畜の糞尿や人糞にまみれ、嘗ての容貌は見る影もなく悪臭を漂わせる女に欲情する男は早々居ない……と言うことだ。ゆえにある日を境に家畜小屋に通う者の姿は途絶え、フェルミナ姫は撤収のその日まで食事すら与えられずに放置される事となる。


 そして最後の日、生きていればその首を撥ねるべく家畜小屋を訪れた兵士たちは、その惨状に驚愕の余り立ち尽くしていたとされている。


 フェルミナ姫は死んでいた……だがその遺体の状態は異常で、膨れた腹が縦に裂けある筈の臓器すらも全て消失していただけでなく小屋の内、全ての家畜が獣に食い荒らされ死骸が散乱している異様な光景であったと言うのだ。


 遺体の状態からも姫が子を孕み生んだのは間違いない……と禁書には記されているがそれは生物学的にも有り得ぬ話。フェルミナ姫が子を孕んだ可能性は状況的に拭えぬとしても子が成長し生まれるまでの時が道理に合わぬのは誰が見ても分かるゆえに。


 だからこそ、その日よりこんな噂話が真しやかに囁かれる様になる。


 フェルミナ姫の怨嗟が、騎士たちの無念が地獄より獣を呼び寄せたのではないのか、と。


 姫は獣と目合ひ(まぐわい)、王国に災いあれ、と悪魔の種子を我が身に宿したのではないのか、と。


 こうして現象の悪魔は世に誕生する。


 決してその名を呼ぶ事なかれ、と畏怖される半獣半魔……。


 その名はヴァラク。


 これが現在に至る忌まわしき伝承の全てである。





出来れば年内にもう一話……更新予定であります。

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