第31話「変形、開始」
18:32。
地下監視室。
警告音は、もう鳴っていなかった。
代わりに。
低い駆動音だけが空間へ響いている。
ビッグサイロ全体が、脈動していた。
富野はモニターを見続けている。
世界同時配信。
海外ニュース。
SNS。
全部が、同じ空を映していた。
東京湾岸上空。
赤黒い巨大存在。
世界中で、既に“現実”として扱われ始めている。
その時。
チーフの個人端末が震えた。
着信。
非通知。
だが、声で分かる。
『……お前、本当に流したのか』
白髪交じりの男だった。
背後では怒号が飛び交っている。
官邸側の混乱。
回線越しでも伝わってきた。
チーフはモニターを見たまま答える。
「もう隠せん」
『CIAが動いた』
『EUも映像解析へ入ってる』
『中国側も衛星を回した』
『全部、お前の動画経由だ』
富野の表情が固まる。
チーフは冷めたコーヒーを口へ運ぶ。
もう味はしなかった。
『鳥羽宏に、どこまで渡した』
数秒の沈黙。
チーフは静かに言う。
「観測記録全部だ」
電話の向こうで息が止まる。
『……お前な』
責める声ではない。
呆れ。
理解。
諦め。
全部が混ざっていた。
チーフは低く続ける。
「どうせ消される」
「なら、一度くらい世界へ残す」
長い沈黙。
その直後。
監視室全体が、大きく揺れた。
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18:34。
会場上空。
巨大存在が、腕を動かす。
ゆっくり。
だが。
空そのものが押し潰されるみたいに、雲が歪む。
報道ヘリが悲鳴みたいなノイズを吐く。
『高度維持!』
『近づきすぎるな!!』
カメラがズームする。
赤黒い外殻。
王冠のような頭部。
巨大な肩。
背後へ広がる“何か”。
翼。
煙。
マント。
見るたび形が変わる。
だが。
“敵”という意味だけは、完全に固定されていた。
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SNS。
コメント欄。
世界中の投稿が流れ続ける。
『MOVE』
『IT MOVED』
『OH GOD』
『RUN』
『GIANT DEMON』
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その時。
東京湾岸全域が停電する。
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18:35。
光が消える。
ビル群。
道路。
観覧車。
広告モニター。
全部。
一瞬で暗闇へ沈む。
悲鳴。
ざわめき。
車のクラクション。
だが。
ComicMall会場だけは違った。
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ビッグサイロ。
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白い外壁のラインが、ゆっくり発光していく。
一本。
また一本。
巨大な発光線が、施設全域を走る。
富野が息を呑む。
「……始まる」
モニター中央。
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■COUNTER IMAGE LOADING
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研究員が叫ぶ。
「内部構造、再編開始!!」
「施設全体が変形しています!!」
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会場。
勇希は揺れる床へ踏ん張る。
観客達が悲鳴を上げる。
だが。
逃げない。
逃げられない。
全員が、“見てしまっている”。
床が動く。
壁面が展開する。
照明塔が上昇する。
客席が、回転する。
まるで巨大な機械内部みたいに。
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18:36。
ビッグサイロ外壁。
巨大な亀裂が走る。
違う。
開いている。
白い装甲が、左右へ分割される。
内部。
黒い巨大フレーム。
無数の駆動骨格。
光。
蒸気。
熱。
世界中の配信が、その瞬間を映していた。
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『THE BUILDING IS OPENING』
『TRANSFORMING!?』
『GIANT ROBOT!!』
『NO WAY』
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地下監視室。
富野が画面を見る。
表示が切り替わる。
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■MAIN FRAME RECOGNITION START
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その瞬間。
富野の視界が揺れた。
一瞬だけ。
ビッグサイロが別の形へ見える。
量産型兵器。
重装甲。
無骨な頭部。
現実的な関節。
ミリタリー色の強い巨大機動兵器。
富野は息を止める。
(……見えてる)
だが。
隣の研究員は違うものを見ていた。
勇者型。
騎士。
光の巨人。
全員、反応が違う。
なのに。
モニター上の質量数値だけは一致している。
チーフが低く言う。
「観測者ごとに、対抗イメージが違う」
「だが、“戦う存在”という意味だけ共有される」
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18:37。
上空。
赤黒い巨大存在が、ゆっくり腕を持ち上げる。
その動きだけで、空気が震える。
東京全体へ影が落ちる。
そして。
初めて。
ビッグサイロが、上を向いた。
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続く。




