第26話「接続、観客」
ペンライトが、揃う。
---
赤。
青。
白。
黄色。
無数だったはずの光が、 完全に同じ速度で動いていた。
---
誰も合わせていない。
---
なのに。
---
ズレがない。
---
歓声も。
---
手拍子も。
---
呼吸さえ。
---
会場全体が、 一つの巨大な生物みたいに脈動していた。
---
勇希の背筋を、 冷たいものが走る。
---
(……おかしい)
---
熱狂している。
---
ライブは成功している。
---
なのに。
---
“自由”が消えていた。
---
腕の端末が震える。
---
SYNC RATE : 67%
---
「っ……!」
---
数値が跳ね上がる。
---
その瞬間。
---
ステージ床へ、 光の線が走る。
---
一本。
---
また一本。
---
会場全域へ広がる。
---
まるで神経だった。
---
観客席。
---
通路。
---
天井。
---
壁。
---
全部が発光する。
---
「なにこれ!?」
---
誰かが笑う。
---
誰かがスマホを向ける。
---
誰かが叫ぶ。
---
だが。
---
誰も逃げない。
---
逃げようとしない。
---
むしろ。
---
熱狂が加速していた。
---
地下監視室。
---
警告音が鳴り止まない。
---
「SYNC RATE急上昇!!」
---
「制御値超えます!」
---
「海外接続側もリンクしています!」
---
研究員達の顔色が変わる。
---
画面上の波形。
---
数万人分の脳波。
---
それが、 一つへ重なり始めていた。
---
政府職員が叫ぶ。
---
「遮断しろ!」
---
「配信を止めろ!!」
---
だが。
---
研究員が震える声で答える。
---
「止まりません……!」
---
「配信元が増殖しています!」
---
「ミラー数、確認不能!」
---
別モニター。
---
SNS。
---
動画サイト。
---
海外配信。
---
全て同時に拡散していく。
---
ライブ映像。
---
だが。
---
映っているものが、人によって違った。
---
「え?」
---
「今、巨大ロボ映ったよな?」
---
「違う、女の子だった」
---
「怪物じゃね?」
---
コメント欄が混線する。
---
認識が一致しない。
---
なのに。
---
熱狂だけは同期していく。
---
チーフが静かに呟く。
---
「……始まったか」
---
モニター中央。
---
新しい表示。
---
■CONNECTING
■PILOT : UNDEFINED
---
研究員が息を呑む。
---
「搭乗者、未確定……?」
---
チーフは首を振る。
---
「違う」
---
低い声。
---
「多すぎて、特定できないんだ」
---
沈黙。
---
その意味を理解した瞬間。
---
全員の顔色が変わる。
---
会場。
---
勇希は周囲を見る。
---
観客達。
---
全員が、 同じ方向を見ていた。
---
ステージ中央。
---
光。
---
巨大な光の柱。
---
そこから、“何か”が生まれている。
---
形が安定しない。
---
ロボット。
---
少女。
---
騎士。
---
怪物。
---
アイドル。
---
次々切り替わる。
---
観客の認識によって、 姿が変わっている。
---
(まずい……!)
---
勇希は理解する。
---
これ。
---
“みんなで見てる”んじゃない。
---
“みんなで作ってる”。
---
その瞬間。
---
天井全体へ、 巨大な文字が浮かぶ。
---
■MAIN SYSTEM ACTIVE
■COGNITIVE SYNCHRONIZATION : ACCEPTED
---
会場が揺れる。
---
いや。
---
揺れたのは現実の方だった。
---
ステージが、 ゆっくりと変形を始める。
---
床が割れる。
---
壁面が展開する。
---
照明タワーが移動する。
---
観客席そのものが、 再構築されていく。
---
誰かが、 小さく呟いた。
---
「……操縦室?」
---
その言葉。
---
その認識。
---
会場全体へ伝播する。
---
次の瞬間。
---
ビッグサイロ全域が、 “操縦席”へ変わった。
---
続く。




