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決起の檄文、血煙る比叡路

比叡山の麓に重い雲が垂れ込めた朝、平清盛は山荘の仮本陣で檄文を書き上げた。

「このままでは白河院方が兵を倍に膨らませ、都を包囲する。援軍なしでは持たん」

 筆を置き、清盛が巻紙を清光へ差し出す。

「東国の坂東武者、南都の僧兵――動かす鍵は“正義”だ。お前の言葉で懸け橋になれ」

「変態の俺に?」

「変態だからこそ、貴族でも武士でもない“第三の声”を届けられる」


 檄文を託された清光は斎子姫と小夜に見送られ、比叡の山道を駆けた。険しい坂は昨夜の戦の疲労を嘲笑うように足を重くする。折れない黒檀木刀は背に縛り、胸に密書を抱え込む。

 途中、若い僧兵の一団が道を塞ぐ。「白河院に味方せぬ者は通さぬ」と矛を構えるが、清光は檄文を掲げ叫んだ。

「胸の大小でも、院の黒煙でもない! 人の心を平らかにする火を共に灯してくれ!」

 僧兵たちは互いの顔を見合わせ、隊を割って道を開けた。


 午後、南都の外れ、興福寺の院家に着く。館には武装した学侶が集まり、乱世の行方を占う議論が続いていた。清光は板敷に正座し、檄文を広げる。

「平家は剣でなく政で都を治めると言った。源氏も心で道を決めると誓った。――戦はまだ止まらない。でも、血の雨の下に笑う者はいない。共に“平らかな心”を掲げよう」

 沈黙のあと、老僧が口を開く。「胸の話ばかりすると聞いていたが、随分と大きな器だな」

「胸はぺたんこでも、器は無限です!」

 堂内に微かな笑いが広がり、やがて拍手が起こった。檄文には十六の花押が添えられ、比叡へ戻るころには僧兵三百が同行を誓っていた。


 山中の帰路、薄闇に矢が走る。白河院方の伏兵だ。清光は咄嗟に木刀を抜き、次の矢を叩き落とす。背後の僧兵が経を唱えながら盾を上げ、矢を跳ね返した。

「我らは胸の大小にこだわらぬ!」

 僧兵隊長の豪声が響き、伏兵は戸惑いを見せる。清光はその隙に谷へ迂回し、隊を導いた。


 薄曇りの空を紅に染めて夕陽が沈む頃、平家陣へ帰還。清盛は僧兵の列を見て目を見開き、檄文に押された花押を確かめて笑う。

「大仕事だ、清光。これで兵力は五分に近づく」

 そこへ義朝の使者が現れる。巻物を差し出し、「源義朝、夜明けの決戦を望む」と。

「義朝……」

 清光は巻物を握り、胸の高鳴りを抑えた。平らかな心を掲げる最後の関門が、目前に迫っている。

 夜半、斎子姫は清光の木刀に白布を巻いた。「血で染まっても、心まで染まらぬよう」

 小夜はその布の端を結びながら言う。「帰る場所はここにあります。必ず戻ってください」

 清光は二人にうなずき、火の残る焚き口を見据えた。

(全て守ると決めた。今さら倒れるわけにはいかない――)


(第18話につづく)



次回予告

第18話「暁の決戦、ぺたの旗の下で」

夜明けと同時に始まる源氏・平家の総力戦。義朝の太刀と清光の木刀がもう一度交差し、斎子姫と小夜も運命の渦へ。平らかな心の旗は戦火を越えて翻るのか? 血煙の彼方で、ぺたが示す未来が試される!

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