揺れる旗、友と敵の境界線
夜明け前、平家館の土間で包帯を握り締める加藤清光の耳に、甲冑を結わえる音が重なった。折れた木刀の痛みを思い出しかけた頃、平清盛が戸を開けて告げる。
「白河院方が再編を終えた。源義朝が正面に立つ。来い」
少し遅れて斎子姫が現れた。「戦支度を」と促す瞳は静かだが強い。小夜は新調した黒檀芯入りの木刀を差し出し、「今度は折れません」と笑う。清光は二人へ誓った。
「必ず戻る。全部守ると決めたから」
未の刻。鳥羽院御所北西で赤い平家旗と白い源氏旗が対峙する。源為義の大軍の先頭に立つのは義朝だった。互いに馬を下りて向き合い、 義朝は太刀、清光は新しい木刀を構える。
「胸ではなく心で都を救う覚悟、剣で示せ」
「望むところだ!」
真剣と木刀が火花を散らし十合を超え、黒檀の芯は折れずに耐えた。清光の柄頭が義朝の籠手を打ち、間隙で言葉を叩き込む。
「武士の誇りより人の命が軽いはずない!」
「ならば貴様は誇りを捨てるのか!」
「捨てても守るものがあるなら、それが誇りだ!」
木刀が胴をなぎ、義朝の太刀が宙を舞う。清光は折れた柄先を胸に当てて問う。
「剣を拾うか、手を取るか。選べ」
角笛が鳴り、白河院方左翼が崩れたことを知らせる。義朝は刀を納め、「父の軍を退く」と宣言した。追撃を望む兵を清盛が制し、平家は御所を死守。戦は一時休戦となる。
夕暮れ、朱雀門前で平家・源氏・姫・小夜がかがり火を囲む。清盛は「剣より政で勝つ時だ」と告げ、義朝は「胸ではなく心を平らかに」と誓う。斎子姫と小夜は清光の手を取り、三人の絆を確かめた。
折れぬ木刀を掲げた清光は星空へ叫ぶ。
「平らかな心に誓う! 平家も源氏も、ぺたも巨も、皆が笑う都をつくる!」
火の粉が闇を照らし、乱世に小さな狼煙が上がった。
(第17話につづく)
次回予告
第17話「決起の檄文、血煙る比叡路」
休戦のわずかな静けさを破り、白河院派は比叡山山麓に大兵を集結。平清盛は援軍要請の檄文を放ち、源義朝は父の命に背き独自の道を模索する。加藤清光は“平らかな心”を掲げ、血煙の戦場へ再び向かう――胸の壁を越える新たな誓いが試される!




