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ぺたと風、動き出す時代

朝の光がまだ優しい頃。

俺は内裏の庭で、斎子姫と向かい合っていた。


「……加藤殿。昨夜、定信の手の者が加藤殿をつけていたそうです」


「ご存知で?」


「ええ。“ぺた”が思想とされるのは……おそらく、想像以上に都では“波紋”なのです」


斎子姫は、やや申し訳なさそうに視線を落とした。


「姫のせいではありません。俺が勝手に突っ走ってるだけです」


「けれど……もし、わらわが“象徴”とされてしまったら……」


「それは……覚悟しています」


姫がはっとこちらを見た。


「……わらわを、巻き込むおつもりですか?」


「違います。守るつもりです」


「それが、余計に困るのです……!」


姫の声がわずかに震えていた。


「貴方に守られてしまったら、わらわは……この檻の中で、自分を殺すことができなくなってしまう」


(……斎子姫もまた、自分の意思と立場の間で揺れている)


それでも俺は、口にした。


「姫。俺は、ただのぺた好きです。でも、ぺたには信念がある」


「……なんと困った変態なのでしょうか」


そう言いながらも、斎子姫は微かに微笑んだ。


「――お心、受け取りました」


日が昇る頃、清盛が俺の部屋へ飛び込んできた。


「来たぞ、ついに!」


「なにが?」


「鳥羽院が動いた! 白河院に仕えてた左大弁が更迭、代わりに忠方が任命された!」


「……マジかよ」


「これ、完全に権力のバランス崩れ始めてる。近衛天皇がどう出るかはわからんが……」


清盛は地図を広げると、京の要所に丸を描いていく。


「軍事拠点が、全部“鳥羽院派”で固められてる。白河院側は、ここ数日で一気に冷や飯食らいになった」


「つまり……」


「戦が始まるぞ。“内乱”ってやつが」


ぞくり、と背中を風がなぞる。


「でも、こんなに急に?」


「いや、ずっと根っこで火種がくすぶってた。

加えてお前の“ぺた演説”が、実は妙な火の粉を巻き起こしてるらしい」


「俺のせいかい!」


「定信が言ってた。“変態は思想になる”ってな」


どこか誇らしげに言う清盛を、ぶん殴ってやりたい気分だった。


でも――それだけじゃなかった。


「小夜からまた文が来てた」


差し出された手紙を開く。


『戦の噂が、山の村にも届いております。

都に近い村は、徴兵の声も上がっております。

加藤殿。くれぐれもご無事で。

ぺた、信じております。』


小夜の文は、どこまでもまっすぐだった。

都の騒乱が、既に地方にまで波及していることが、重く響く。


「……戦が始まる前に、守れるものは守らなきゃならない」


「姫か、小夜か、それとも“ぺた”そのものか?」


「……全部だ」


清盛が、にやりと笑う。


「じゃあ覚悟決めろ。“全部守る”ってのは、なかなか骨が折れるぜ?」


「上等だ」


空を仰げば、雲が流れていた。


季節の風が、変わろうとしている。


そしてそれは、都の空気だけじゃない。

俺の中の“信念”も、今――時代と一緒に動き出していた。


(第21話へつづく)



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