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姫と村娘、ぺたをめぐる狭間

戦の足音が聞こえ始めた都で、俺の心は妙にざわついていた。


斎子姫と小夜――

ふたりのぺた娘のことが、同時に頭を離れない。


それは決して、いやらしい意味ではない。……たぶん。

けれど俺の心は、胸の大きさではなく、二人の“強さ”と“優しさ”に揺れていた。


「……どちらも守りたいなんて、虫が良すぎるか」


そんなことを呟いていたその夜、小夜から届いた文に、ある一節があった。


『もし都で、加藤様の大切な方がいるなら、その方のことを、大切にしてあげてください。

私は、胸を張って、ぺた道を歩いておりますゆえ。』


その一文に、胸が締めつけられた。


(小夜……お前は……)


村に残った彼女は、俺よりもずっと“大人”だった。


「なにしけた顔してる、ぺた殿」


そう声をかけてきたのは、斎子姫だった。


「姫……どうしてここに?」


「加藤殿の顔を見に来ました。まるで、誰かを“置いて”いこうとしている顔をなさっていたので」


「……それは、姫を巻き込みたくないだけで」


「言い訳になっておりませぬよ」


斎子姫は、扇で口元を隠しながら微笑んだ。


「わらわ、知っております。小夜という娘の存在を」


「……!」


「わらわは姫君で、小夜殿は民。けれど、あなたの眼差しは、どちらも等しく温かい」


「……すみません」


「謝られることではありません。

むしろ……そのように、人を“愛せる”貴方だからこそ、わらわは、あなたを信じるのです」


その言葉に、俺は何も返せなかった。


ただ――


「姫。俺は、誰かを選べるほど強くない。

でも、誰も見捨てずに、全部を守るって……そう決めたんです」


「ならば、わらわも選びましょう。

加藤殿を、信じて、共に行動すると」


姫は、はっきりと言った。


戦が始まるなら、その前に“立場”など投げ捨てても構わない――

そんな覚悟が、瞳に宿っていた。


(こんな姫が、政略の駒として扱われるなんて……俺は絶対、許さない)


その日の夕刻。


清盛が、焦った表情で駆け込んできた。


「来たぞ、正式な命令だ。“兵の動員”が発令された」


「……ついにか」


「戦の準備が始まった。院の命で、白河院派の動きを抑えるとか何とか……でも実質、クーデターみてぇなもんだ」


「俺たちは?」


「“命令書の伝令役”だ。裏で動く兵の経路を、抑えに行く。ま、雑用だな」


けれど、それは――最前線の一歩手前でもあった。


「よし、やるしかないな」


「……でさ」


清盛がぽりぽりと頭をかいた。


「斎子姫、来る気満々なんだけど。どうすんだ、これ」


「……え?」


「文もくれたぞ。“戦において、扇は剣よりも効く時もございます”ってさ」


(完全に乗り気じゃねえか……!)


「小夜には?」


「もう手紙出した。……お前の代わりに、俺がな」


「え」


「ぺた戦士は、多忙だからな」


そう言って、清盛は悪戯っぽく笑った。


風が変わっていた。


まつりごとという名の渦の中で、俺はふたりのぺた娘を思いながら、己の覚悟を確かめていた。


戦は、もう止められない。


でも、守るものがあるなら――俺は、変態でも英雄でも、何にでもなる。


(第22話へつづく)



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