第71話「ランドフィア王都攻防戦(1)」
今日は2話、更新しています。
本日はじめてお越しの方は、第70話からお読み下さい。
──コーヤ視点──
「精霊たちは上空に待避! 王都の兵士たちも離れろ!!」
王都から現れたのは大量の『不死兵』だった。
数は……50から60。こちらの5倍以上の戦力だ。
敵の『不死兵』……ややこしいから敵 (ENEMY)の不死兵で『不死兵E』と呼ぶことにしよう。
『不死兵E』はまっすぐこっちに向かって来る。
自分たちと魔王の間に、王都の兵士がいることも気にしていない。
剣を手に、全速力で突進してくる。
「王都から不死兵が!? ばかな!!」
「……どうしてこのようなことに。ナタリア殿下は和平を求めていらっしゃるはず」
宰相エドガーと魔法使いダルサールが青ざめている。
『不死兵E』が出てきたことは、彼らの予想外だったらしい。
「ランドフィアの宰相および魔法使いダルサールに告げる! 兵士たちに退避命令を出せ!!」
俺は声をあげた。
「敵は『不死兵』だ。こっちもなりふり構っていられない。王国の兵が待避しないのなら、こっちの攻撃に巻き込むことになるが、それでいいのか!?」
「そ、それは……」
「魔王どののお言葉に感謝を。退避命令を出します!」
魔法使いダルサールが両腕を挙げる。
数秒間の詠唱のあと……空中に光の球が浮かび上がる。
色は赤。数は3つ。
「「「──承知しました!!」」」
光を見た王都の兵士たちが、左右に分かれて走り出す。
今のが退避命令の合図だったらしい。
「感謝する。王家の魔法使いよ」
「……ナタリア殿下からは、魔王と和平を結ぶように命じられている」
魔法使いダルサールは、苦々しい表情で、一礼した。
「これはその一環だ。それに、こちらも兵士を死なせるのは不本意ではある」
「ああ。それで構わない」
俺は魔法使いダルサールに答えた。
それから、側にいるアリシアとティーナにうなずきかける。
意図を察したティーナが、俺の前にやってくる。
俺の胸に背中を預け、俺の手を取って、自分の胸に当てる。
「集団魔法を使うのね。マスター」
「ああ。それと、精霊たちの視界を借りたい」
「了解なの」
ティーナは俺にすべてを預けるように、目を閉じる。
俺は精霊王にモードチェンジ。
それから、集団魔法を詠唱する。
「精霊王の名において命ずる! 我が前方に、敵を防ぐ防壁を展開せよ! 『ギガンティック・ストーンウォール』!!」
「「「『ギガンティック・ストーンウォール』!!」」」
精霊たちが防壁魔法を発動する。そして──
ずどんっ!!
『不死兵E』の前方に、巨大な石壁が出現した。
石壁に、『不死兵E』が激突する音がする。
俺は上空にいる精霊の視界を借りて、壁の向こうの状況を確認する。
……よし。『不死兵E』の動きが止まってる。
『ギガンティック・ストーンウォール』の横幅は百メートル前後。
それを避けて進むのか乗り越えるのかで、『不死兵E』は迷っているようだ。
「王家は『不死兵』を使うのに慣れてないらしいな」
「わかります。これまでは、王家に刃向かう者なんかいませんでしたから」
俺の言葉に、アリシアがうなずく。
王家はマジックアイテムの力で人々を支配してきた。
だから、あいつらは『不死兵』を動かす必要がなかったんだ。
『不死兵』が無敵の兵士なのは周知の事実だったし、『不死兵』はそこに存在しているだけで、他者を威嚇することができた。
だから、王家は実際に『不死兵』を使ったことがないんだろう。
やみくもに大量投入してきたのはそのためだ。
しかも、『不死兵E』のまわりには指揮官がいない。
王家は『不死兵E』を兵士ではなく、自動で動く殺戮兵器として使うつもりなのかもしれない。
「俺は前に出る。アリシアは『不死兵』の指揮を頼む」
「承知しました。それで……コーヤさま」
「ん?」
「前にも申し上げましたが、わたくしの魔力結晶を身に着けた『不死兵』がはしたないことをしても、気になさらないようにお願いします」
アリシアは真っ赤な顔で、そんなことを宣言した。
「あれは『不死兵』自身の意思であり、わたくしは人前であんなことをいたしません。ええ、いたしませんとも!」
「わかった。わかったから!」
「本当です! たとえ命令されてもいたしません!!」
「わかってる。アリシアが人前であんなことするとは俺も思ってないから」
「本当ですか!?」
「本当だってば」
「では……灰狼に戻ったあとで、試していただけますか?」
「……ん?」
「ふたりきりのときに、命令してみてください。コーヤさまの前で、わたくしがあのようなことをするかどうかを!」
「えっと……」
「お願いします。臣下としての願いです。コーヤさま!」
「…………う、うん。わかった」
「あ、ありがとうございますぅ……」
胸を押さえて震えるアリシア。
それから彼女は、ぐっ、と拳を握りしめて、
「それでは『不死兵』をお預かりいたしました。ティーナさまは、コーヤさまをお願いいたします!」
「了解なの!! じゃあ魔法を! マスター!!」
「わかった。せーのっ」
「「「『アルティメット・フライ』!!」」」
俺とティーナは飛行魔法で高速飛行。
まっすぐに、『ギガンティック・ストーンウォール』に向かって飛行する。
重要なのは速度だ。
『不死兵E』が対応する前に、間合いを詰める。
そして、俺たちが着陸したのは石壁の手前、十数メートルの位置。
安全距離を考えたら、このあたりがぎりぎりだ。
「ティーナは離れて。精霊たちも」
「はい。マスター!」
「「「承知なのですー!!」」」
俺は魔王モードにチェンジ。
魔王剣ベリオールに魔力を注ぎ、その刀身を伸ばす。
黒い刃の最大の長さは、100メートル前後。
ここからなら、壁の向こうまで届く。
「……まさか王家の『不死兵』と戦うことになるとはな」
正直、かなり怖い。
敵の『不死兵』に触れれば管理権限を奪えるけれど、その前に殺される可能性もある。
それでも戦うのは、守らなきゃいけない人がいるからだ。
俺は灰狼の人たちに協力を求めた。
アリシアを共犯者にして、魔王の称号を得て、王家と渡り合うことを決めた。
その結果、俺にはたくさんの、守らなきゃいけない人ができた。
俺の背後にはアリシアやティーナ、メルティがいる。
灰狼侯のレイソンさんも、灰狼の人たちもいる。
黒熊侯代行のカリナさん、カナール将軍、黒熊領の人たちも、今は俺の味方だ。
魔王をやっている間は、後ろにいる人たちを守るって決めた。
『王位継承権』スキルを使ってできることがあるなら、やる。それだけだ。
「精霊たちは壁の向こうを見て、攻撃のタイミングを指示してくれ」
「「「了解なのです。それでは……」」」
精霊たちが上空から『不死兵E』の動きをうかがう気配。
そして──
「「「今なのです! 魔王さま!!」」」
「よっしゃ」
俺は身体を回転させて、魔王剣ベリオールを──真横に振った。
伸びきった刀身が『ギガンティック・ストーンウォール』に触れる。食い込む。
そして……ほとんど抵抗を感じないまま、刀身が石壁を通り抜けた。
魔王剣ベリオールは、別格のマジックアイテムだ。
その刀身と『ギガンティック・ストーンウォール』を比べれば、魔王剣の方が強い。
伸びた刃は石壁を魔法的に通り抜けて、貫通する。
だから──石壁の向こうにいる『不死兵E』を切り裂くこともできる。
精霊から報告が来る。「1体まっぷたつなのです!」「2体目もいけるです!」「3体」「4体」……5体、6体……12体……と。
もちろん、すべてを一刀両断できるわけじゃない。
『不死兵E』は意外と賢い。
仲間が斬られたら、すぐに回避運動を取るらしい。
俺の位置からは壁の向こうの『不死兵E』が見えない。
狙いは精霊たち任せだ。
魔王モードだと精霊たちの視界を借りられないからな。
だから──
「よいしょ、っと」
──俺が魔王剣を鞘に戻した。
この時点で、倒せた『不死兵E』は15体。
まだ40体以上が残っている。
『ギガンティック・ストーンウォール』は、土台部分に裂け目ができただけ。
石壁そのものは崩れることもなく、維持されている。
その向こうで『不死兵E』たちは、壁をよじ登りはじめている。
壁を迂回するのはやめたらしい。
最速で俺を排除すると決めたようだ。
「それじゃ、一度後方に下がろうか」
「はいなの。マスター」
俺は精霊王モードにチェンジ。
『アルティメット・フライ』で、『不死兵E』から距離を取る。
ここまでは予定通りだ。
俺たちが生き残るだけなら、ずっと空を飛んでればいいんだけどな。
『不死兵』には飛行能力がないから。
だけど、それだとカナール将軍や黒熊領の兵士たちが犠牲になる。
王家の『不死兵』は俺と……俺に協力する者を殺すように命じられているかもしれない。
そうだとすると王家の『不死兵』カナール将軍たちを殺して、そのまま黒熊領や、灰狼にまで攻め込んで来る可能性もある。
俺たちが空中で危険を回避している間に、地上は地獄絵図になる。
王家の連中なら、それくらいやりかねない。
奴らは『不死兵』のあつかいに慣れてないし、それで宰相や魔王使いダルサールを巻き添えにするくらいだからな。
だから、ここで止めるしかない。
「こちらは安全な距離まで離れた! 次の作戦に移行する。アリシア!!」
「承知しました! それではお願いいたします。『不死兵』さんたち!!」
そして、アリシアの指揮で灰狼『不死兵』が動き出す。
魔力結晶のペンダントを装備した『不死兵』たちだ。数は10体。
それが槍を手に、前進を始める。
先行しているのは緑色のバンダナをつけた『不死兵』たちだ。
彼らはティーナの魔力結晶を装備している。
それら5体は風をまといながら、前方に向かって走り始める。
その後方を進むのは、赤いバンダナをつけた『不死兵』たち。
こちらはアリシアの魔力結晶を装備している。
走り出しているけれど、ティーナの『不死兵』よりは動きが遅い。
……と、思っていたら、
「先陣を切るのはあなたたちです! 行きなさい! わたくしの魔力を得た『不死兵』たち!!」
アリシアは胸を押さえて、『不死兵』に呼びかける。
「は、はしたなくても構いません。ありのままの力を、コーヤさまにお見せするのです!!」
『『『オオオオオララララララィィィィ!!』』』
アリシアの『不死兵』が、吠えた。
そして──
『『『オ──────ラァ────────!!』』』
──甲高い声と共に、その身を覆う鎧をすべて、脱ぎ捨てた。
「──な、なんと!?」
「──『不死兵』が鎧を脱ぎ捨てた、だと。そんな能力は知らぬぞ!」
宰相エドガーと魔法使いダルサールが声をあげる。
対照的にアリシアは、真っ赤な顔でうずくまってる。
鎧を脱ぎ捨てた『不死兵』はのっぺりとした人型をしてる。
顔もなにもない、デッサン人形のような姿だ。
俺とアリシアはこの姿を素体と呼んでる。
防御を捨てた『不死兵』の、高速移動モードだ。
だから──
『『『オオオオオララララララィィィィ!!』』』
ズドドドドドドドドドドッ!!
全裸 (仮)になった『不死兵』は、すさまじい速度で走り出す。
風で高速化したティーナの『不死兵』を追い越し、『ギガンティック・ストーンウォール』の前へ。そのまま地面を蹴り、石壁の上へ飛び上がる。
真下にいるのは王家の『不死兵E』だ。
敵を発見した全裸『不死兵』は槍を手に、『不死兵E』に襲いかかる。
精霊王モードになった俺は、精霊の視界を借りて、それを見ている。
全裸『不死兵』は防御を捨てる代わりに、通常の数倍の速度を手に入れている。
『不死兵E』の剣を避けながら、高速で槍を突き出す。
『『『ウゥゥアラララララォォォォアアアア!!』』』
『『『グヌゥアアアアアア!!』』』
全裸『不死兵』と『不死兵E』の攻撃が交錯する。
優勢なのは全裸『不死兵』の方だ。
なんといっても動きが速い。『不死兵E』が一度攻撃する間に、数回の攻撃を繰り出している。
槍を受けた『不死兵E』が吹き飛び、地面に転がる。
けれど、全裸『不死兵』も無傷ではいられない。
すべての攻撃をかわせるわけじゃない。それに、こっちは鎧を着ていない。
むき出しの腕に、脚に、脇腹に、『不死兵E』の剣が食い込む。
──もちろん、それはアリシアがフォローしてくれるんだけど。
「私たちを守るために戦う『不死兵』に癒しの光を! 『ヒール』!!」
直後、アリシアの治癒魔法が発動した。
傷ついた全裸『不死兵』が、即座に回復していく。
これがアリシアの魔力結晶を身に着けた『不死兵』の能力だ。
──鎧を脱ぎ捨てたことによる加速。
──アリシアが治癒魔法を使うことによる、即時回復。
このふたつの能力により『高速機動型不死兵 (回復能力持ち)』に進化している。
それだけじゃない。
全裸の『不死兵』たちは、次々に『不死兵E』に抱きついていく。
彼らは胸に魔力結晶のペンダントを着けている。俺とアリシアの魔力を含んだ結晶体だ。
全裸『不死兵』はそれを、『不死兵E』の身体に押しつける。
魔力結晶は俺の分身だ。
それを『不死兵』が身に着けると、常に俺が触れられているのと同じ状態になる。
じゃあ、俺の魔力結晶を、敵の『不死兵』にくっつけたら?
当然、敵の『不死兵』に、俺が触れているのと同じあつかいになる。
そして、俺は触れることで『不死兵』の管理権限を奪うことができる。
つまり、俺の『不死兵』が『不死兵E』に抱きつけば、その管理権限を奪えるんだ。
うまくいけば敵を減らし、味方を増やすことができる。
とはいえ、そう簡単でもないようで──
「──精霊王さまー。なかなか難しいのです」
「──数は2体です。いえ、3体だけなのですー」
「──それでも、味方を増やすことができたみたいなのです!」
「いや、十分だ」
俺は精霊たちの報告にうなずく。
「それじゃ、俺が新たに支配した『不死兵』に命じる。『不死兵E』の動きを止めろ」
俺が管理権限を奪った『不死兵』が、動き出す。
彼らは、数秒前まで味方だった『不死兵E』に手を伸ばし、その身体にしがみつく。
同じ『不死兵』同士だ。力は同じ。
捨て身でかかれば、動きを止めることくらいはできる。
そうすれば──
『『『オオオララィィィィァァァァ!!』』』
動きの止まった『不死兵』に、アリシアの『高速機動型不死兵』が抱きつく。
魔力結晶を押しつけて、管理権限を奪う。
そしてまた、味方が増える。
増えた味方は『不死兵E』の足止めに使う。
足止めした『不死兵E』の管理権限を、アリシアの『不死兵』が奪う。
あとは、その繰り返しだ。
3体の管理権限を奪って──そいつらを足止めに使って。
足止めした相手の管理権限を奪って、味方を5体追加して。
8体増えた『不死兵』を足止めに使って──
味方は、次々に増えていく。
8体増えたあとは12体に。12体増えたあとは、20体に。
その分、敵はどんどん減っていく。
本当に、魔力結晶を作っておいてよかった。
それにアリシアと作った魔力結晶の効果がすごい。即時回復能力と、鎧をパージすることによる高速化なんて、予想もしていなかった。いや、鎧を脱ぎ捨てることについては、アリシアはわかっていたみたいだけど。
……なんでわかってたんだろうな。
うん……灰狼に帰ったら、事情を聞いてみよう。ゆっくりと。
「このまま行けばすべての『不死兵E』の管理権限を奪えるはずだけど……」
そこまで甘くはないだろうな。
こっちには精霊たちの魔法がある。王家の方も、それはわかっているはず。
となると、対策くらいはしてくるはずだ。
「「「魔王さま! 追加の『不死兵』が来たです!!」」」
と、思っていたら、精霊たちから報告が来た。
「──弓を持ってるです!!」
「──危険なにおいがするです!」
「あの弓も……マジックアイテムっぽいのです!!」
直後、精霊たちから報告が来る。
視界を借りて見ると……確かに、飛び道具を持った『不死兵』が出てきてる。
奴らが一斉に弓を放つと……。
轟音とともに、『ギガンティック・ストーンウォール』の側で爆発が起きたのだった。
来週は、ちょっとお盆休みになる予定です。
なので、次回、第72話の更新は、翌々週の週末を予定しています。




