第44話「魔力に満ちた泉を調査する(1)」
俺たちが掘り当てた『魔力の泉』は温泉だった。
温度は、やや熱め。
効能は不明だが、豊富な魔力を含んでいる。
だから身体にはいいはず……というのが、ティーナの分析だった。
竜姫のメルティは『「魔力の泉」の近くには貴重な素材がある」と言ってたけど、それらしいものは見当たらない。
まずはメルティを呼んで、『魔力の泉』を見てもらおうと思っていたんだけど──
「魔力なのですー!」
「泉なのですー!」
「温泉なのですーっ!」
「「「そーれっ!」」」
ぽちゃーんっ!
気づくと、服を脱ぎ捨てた精霊たちが、『魔力の泉』に飛び込んでいた。
「あ、こらー! だめなのーっ!」
ティーナが止める暇もなかった。
精霊たちは気持ち良さそうに、魔力の泉に浸かってる。
「魔力の調査で、どろだらけになってしまったですー!」
「そんな姿で精霊王さまの側にいるのは、失礼なのですー!」
「精霊の誇りにかけて、きれいにしておく必要があるのですー!」
「「「ティーナさまもどうですかー!?」」」
「勝手なこと言って。もー」
ティーナは頬をふくらませた。
「ごめんなさいなの。マスター」
「別にいいよ。それより、精霊たちは大丈夫なの?」
精霊たちがきれい好きなのは知ってる。
屋敷でも、アリシアの服を洗濯してくれてたからな。
魔力探知のために地面を転げ回っていたし、身体を洗いたい気持ちはわかる。
「だけど、『魔力の泉』のことは、ほとんどわかってないだろ。精霊たちに害はないのか?」
「大丈夫なの。この温泉は、大地からの濃密な魔力を宿したお湯なの。健康になることはあっても、害はないと思うの」
「そっか。それならいいよ」
「でも、マスターが心配するなら、ティーナも……確認してみるの」
そう言ってティーナは、服の帯に手を掛けた。
細い指で、結び目を、しゅるん、とほどいていく。
ローブの襟元に手をかけたティーナは、不意に……顔を押さえて、
「あれ? あれれ? おかしいの。マスターに肌を見られるのが……恥ずかしいの」
真っ赤な顔で、そんなことを言った。
「マスターは精霊王さまなのに。お父さまのようなお方のはずなのに。あれ? あれれ?」
「あのさ、ティーナ」
「は、はいぃっ!?」
「俺は、そっちの木の後ろにいるから」
「は、はいなの。ごめんなさいマスター。本当はマスターに、温泉に入ったティーナにどんな変化が出るか、側で確認してもらうつもりだったのに……」
「気にしなくていいって」
俺は温泉の近くに生えた木の後ろに移動する。
ティーナはその反対側で、温泉に入る用意をしてる。
顔を上げると、ティーナのローブが見えた。
温泉に入っている間、枝にかけておくことにしたらしい。
それからすぐに、水音がして、
「……んー」
気持ちよさそうなため息が聞こえた。
「温度はどう?」
「少し熱いけど、ティーナはこのくらいがいいの」
「「「いいのですー!!」」」
ばしゃばしゃばしゃ。
精霊たち、楽しんでるなー。
封印が解けてからは、一生懸命、仕事をしてくれたからな。
温泉で身体を休めてくれるといいんだけど。
「ティーナ。『魔力の泉』に入ったことで、なにか変化は?」
「魔力が、身体に染みこんでくるような気がするの」
「なるほど」
「たぶんこの温泉は、魔力補給のポーションとして使えると思うの。集団魔法を使った後で飲めば、連続で撃てるようになると思うの」
「「「そうなのですー!!」」」
「……それはすごいな」
精霊たちの集団魔法は強力だ。
山の魔物をまとめて消し炭にしたり、巨大な防壁を作ったりできる。
「それが連続でできるようになるのか」
「この温泉の魔力補給能力は、たいしたものなの。お湯に浸かってるだけで、魔力が満ちていくのがわかるの」
ぱしゃぱしゃと、ティーナがはしゃぐ気配。
「精霊たちもパワーアップしてるの。きっと、強力な魔法が使えると思うの」
「試してみるですー!」
「お洗濯の魔法を使うですー!」
「ティーナさまの服を、洗って差し上げるですー!!」
「「「それーっ!!!」」」
枝にかかっていたティーナのローブが、宙に浮かんだ。
続いて、空中に巨大な水の玉が生まれる。
水の玉はローブを飲み込んで、勢いよく回転をはじめる。
精霊たちの洗濯魔法だ。
以前よりも強力になってる。水の量も桁違いだし、服を撹拌する速度も数倍。
洗ったあとは、竜巻のような温風を生み出してる。
それでティーナのローブをかき回して、乾かした結果──
「「「…………失敗しました」」」
ティーナのローブが、ボロボロになった。
力加減を間違えたらしい。
「……思ったより、パワーアップしてたです」
「……なのに、いつもの調子で洗濯魔法を使ってしまったです」
「……そしたら、布地の強度を超えてしまったです」
「「「ごめんなさい。ティーナさま」」」
「……う、うん。気にしてないの。でも……」
ティーナがとまどう気配。
「帰り道、どうすればいいの……?」
「「「精霊たち全員で、ティーナさまのお身体を隠すですー」」」
──精霊たちがあらゆる魔法を駆使して、ティーナの身体が見えないようにする。
──あるいは、ティーナの身体にしがみつくことで、肌を隠す。
精霊たちは、そんなことを話していた。
「俺の上着を使っていいよ」
俺は背広の上を脱いで、枝にかけた。
「帰り道は……飛んで帰ればいいよ。俺がティーナを背負うから」
「ありがとうございますなの。マスター」
「「「ありがとうございますーっ!! このご恩は命をかけてお返しするですー」」」
「そこまで気にしなくていいから」
『魔力の泉』の調査をお願いしたのは俺だからな。
というか、竜姫メルティを客人にしたのも俺だ。
彼女から泉の話を聞いて、調査して、その結果ティーナのローブがボロボロになったのなら、結局、その責任は俺にある。
一応、俺は精霊の王様だからな。
部下に責任を押しつけるのは違うと思うんだ。
「それより『魔力の泉』のことだけど、他に気づいたことはあるかな?」
「うーん……」
「メルティは『魔力の泉』のまわりには、貴重な素材があるって言ってたけど」
「……気になるものは、特にないの」
「そっか」
「あ、でも、マスターの存在を近くに感じるかもなの」
ティーナはふと、気づいたように、
「ほら、マスターとティーナは集団魔法を使ったり精霊に指示を出したりしてるの。そのときにマスターとティーナはくっついてるんだけど……それと似たような感覚があるの」
「俺とティーナがくっついてるのと、似た感覚か」
「理由はあるの。えっと……」
「この土地が、精霊王コーヤさまのものになったのかもしれないですー」
ティーナの言葉を、精霊たちが引き継いだ。
「──先代の精霊王のジーグリットさまから聞いたことがあるのです」
「──土地を開拓した王さまと、土地の魔力は結びつくことがあるそうなのです」
「──だから、この泉は、コーヤさまと結びついたのだと思うですー!」
精霊たちは、そんなことを宣言したのだった。
次回、第45話は、明日くらいの更新を予定しています。




