第五十七話「体育祭、魅せるは例外」
時々暴走する本文担当、村右衛門です。投稿予定を勘違いし、定期投稿が出来なかったことをここにお詫び申し上げます。エイプリルフールでもないのに本文担当としての仕事を放棄するなど、あってはならないことでした。今後、同じことのないよう、スケジュール管理を徹底してまいります。この度は申し訳ございませんでした。
――木村先生が、焼き鳥とベビーカステラを食べて……お腹を壊した。
その、いろんな意味で信じられない報告を受けて、大輔はその事態に強く歯噛みする。もともとから既に苦肉の策だったのだ。本来ならば生徒会本部だけで回さなくてはならない体育祭を、先生に任せるというのは。
だが、現状はそれよりも悪い。木村先生が夏祭りセットでお腹を壊した以上、このままでは学年別リレーの実況がなくなってしまう。
「……それだけは、避けなくちゃならないよ」
大輔の呟きに拓也の頷きが続いた。
急遽のことだが、仕方がない。大輔はこういう非常事態のために決めていた行動を取る。
「――第二体育倉庫からの機材準備が遅れております。次の競技まで、もうしばらくお待ちください」
急いで放送を入れる大輔。ほんの少しの時間稼ぎだ。そして、視界のなかで二人ほど、明らかにほかの生徒とは違う動きをしているものがいた。里奈と美緒である。
第二体育倉庫と言うのは確かに存在するのだが、かなり古く、マイナーな機材しか置かれていないのでそこから機材を準備する予定はなかった。そのことを、生徒会本部役員ならば知っている。これは時間稼ぎであると同時に、生徒会本部の面々にだけは非常事態を伝えるための合言葉でもあったのだ。
「何があったんや、副会長」
「第二体育倉庫って……結構な非常事態やろ」
異常事態を放送から悟って、里奈と美緒が駆け込んだ。そして、すぐさま状況把握に努めようとする。
ちなみに、第二体育倉庫は『非常事態』を示し、第三体育倉庫は『不審者』、第四体育倉庫で『体調不良者あり』、第五体育倉庫が『副会長お腹減った』である。その、大事件だらけの合図のなかにあって、第二体育倉庫は最上級だった。
「木村先生が――落ちたそうですッ」
「意訳すると、木村先生が焼き鳥とベビーカステラを食べて腹を壊したらしい」
「木村先生が……?! ってことは、次の実況を誰か別の人に任せないとあかんやん」
「放送部か……? それか、あとで先生に怒られる前提で私らの誰かがここに残るか……?」
状況を把握し、的確にこれからの対策を講じる二人に、大輔が二人の案を頭の中で試案する。しかし、どちらにせよ少し難しいであろうことはかわりなかった。放送部を今から集めることはそもそも難しいだろうし、ここの機材は放送部で使っているそれとは機種が違う。説明もなしに使ってくれ、ではうまくいくはずもない。
ここに一人残る、というのもよくない。今回の体育祭で、明らかに人手不足であることは理解しながら、しかし唯一これだけは妥協しないと決めたのは、全員が正しく体育祭に参加するということだ。その理念を覆すのは、本当の最終手段にしたいというのが大輔の考えだった。
「……頼れそうな先生を、今からでも探しましょう。機材を扱うのが苦手な先生ばかりとはいえ、セッティングをこちらで終わらせればどうにかなるかもしれません」
「副会長、冷たいことを言うけど――今、どこにその先生がいるん?」
美緒が、周囲を指し示す。本部テントに常駐していたのは木村先生だけで、ほかの先生はそれぞれの持ち場にいる。生徒会本部が人手不足なら、先生方についても同じだ。
もう、時間がない。万事休すだ。どれか一つの理念を覆さなくてはならない。
「……仕方ありません。では――」
「俺は?」
「え――ぇ?」
そのとき、雑音にしか聞こえていなかった車椅子の駆動音が、途絶えた。何の音かなんて、気にしていなかった。まさか、自分たちに関係のあるものだとは思っていなかった。
だから、目線少し下、声をかけてくる人影に、全員が驚いたように勢いよく視線を向ける。
「だぁかぁらぁ……ひとり残る役、俺は?」
――高橋祐介。
決して表舞台にだけは立とうとしなかった、『裏』に立ちて『裏』そのものたる男。『裏』に徹することで在り続けた彼が、悪戯っぽい笑みを浮かべたままに大輔と拓也を見上げていた。
「いや、放送部にも任せられへんかったのに……一般生徒に任せられるはずないやろ」
拓也がそう言って断じる。名誉門番長である美緒もその意見には賛同している様子で何度か頷いていた。大輔や里奈も、祐介と同じ部活であるという贔屓目をなしに考えれば拓也の言い分は正論だと思える。
「蒼井くんの言うとおりやな。――ここは、僕が残る。運動は苦手やし、ちょうどいい。誰かに二回走ってもらうわ。クラス委員長には負担をかけるけど……」
仕方がない、と大輔は諦念のままにそう言う。その場にいる全員、その意見に賛同の意を示すことこそしなかったものの、それに異議を唱えて代替案を示せる人もまた、いなかった。――否、二人だけいた。
「メガネ教授も頑固ですねー。お兄ちゃん、こう見えても大勢の前で話すの得意なんですよー?」
「くるみの過剰な褒めはひとまず置いておくとしても、お兄さんより俺のほうが適任やと思うよ?」
自分のほうが適任だ、という発言に大輔が口を結んだ。大輔も自分のスピーチ力というところには自信を持っている部類の人間だ。そこに言及されると、場違いなのは理解していながらほんの少しの対抗心が生まれ――そして、「そういう意味じゃなくて」と続けた祐介がその対抗心を吹き飛ばした。
「お前らは、分身出来ひんやろ? 実況をするのも、体育祭を楽しむのも、どっちも取るのは無理。なんやったら、取るべきは後者やんか。――足りない裏方は、『例外』の俺に任せとけ! どうせ、俺は骨折して不参加なんやし、な?」




