四十四話「生徒会本部、魅せるは乱入芸」
「いやしかしさぁ……くるみが来るとは思わんかったよな」
「そうですね――まぁ、納得といえば納得ですけど」
「――。ほんとは驚いたのに驚いてないフリするの、厨二病やって聞いたぞ」
「やめてください、それは即死級の範囲攻撃ですよ」
始業式の日の放課後であっても、生徒会本部は仕事をしている。とはいえ、半分は雑談をしているだけだ。まあ、仕事は殆どないのに無理やり暇つぶしの為集まっているから、というのが主な原因なのだが。
そこで話題に上がったのはやはり、今朝の式で発表された転校生の存在、特に大輔や里奈にとっては記憶も新しいくるみの話だった。
「あれ、二人はあの転校生と知り合いやったん?」
そして、くるみを知らないものが一人。
美緒が、毎度おなじみの生徒会ニュースを書きながら大輔と里奈に問う。沖縄旅行に参加していない唯一の生徒会本部メンバーである彼女には当然、くるみとの面識がなかった。
「美術部の方で沖縄旅行に行ったときに会いましたね」
「高橋の妹なんやってさ」
「妹やのに、転校生……? なんか複雑な――」
「違う違う、議長――あいつは俺の妹やないって……いうか誤解も勘違いもないはずやろ」
里奈が当然のように嘘をつけば、生徒会室の扉から祐介の声が聞こえてきた。全員がそちらを振り返り、同時に美緒は――、
「また来たかっ!!」
手には太鼓のバチ。立ち上がって臨戦態勢。祐介にとっては、結構リアルにピンチ。
「いや待ったほうが良いで。今俺はどこにいる? 生徒会室の扉、やろ。学校内は自分の学年のフロアは原則自由に行き来できる。そして、ここは二年生のフロア――廊下を通ってて聴き逃せない話が聞こえたから指摘しに来ただけの俺を、強制的にどうこうする権限があるん?」
「ぐぬぬ……正論、やな」
「んで、ちなみに高橋くんは何のためにここの廊下へ?」
「ん? そりゃ、生徒会室に乱入しに」
「石井さん、言質はとりましたよ」
「よくやったぁ、副会長ぉ!!」
祐介、語るに落ちる――。
***
して、閑話休題。
「一旦、休戦と行きますか? 高橋くん、石井さん」
激しく白熱した攻防戦を繰り広げ、今は疲労困憊の様子で睨み合っている美緒と祐介に、ペンを置いた大輔が提案する。
美緒が書いていた生徒会ニュースを引き継いで書き終え、大輔が諸々を片付け終わったタイミングだった。
「生徒会室に本部役員でない生徒が入ってはいけないのは、本部のみ知り得るような情報が漏れてはいけないから。そうでしょう、石井さん?」
「――他にも理由ある気はするけど、まぁそうなんやろな」
「では、書類等全て片付けましたので。門番お疲れ様です」
「門番言うな」
「いやぁ、流石お兄さん。助かるわ」
「高橋くんも、懲りないもんよね」
「あれ、お兄さんは特に俺の味方やない感じ?」
大輔が引いた椅子に、美緒と祐介も座る。美緒が見渡した限り、本当に生徒会本部のみ知り得るような書類や情報は隠されているらしかった。
先生が来たら面倒なことになるんじゃないか、と懸念はありつつも、副会長の顔を立ててやるだけだと自分に言い聞かせ、美緒も落ち着くことにする。
「――さて、と。高橋くんが生徒会室に乱入しに来るのは何だかんだ久しぶりやけれど」
「っていうか、乱入するっていうのが当然のようになってる時点でおかしいんちゃうの?」
「いやいや、乱入芸こそ、俺の十八番やねんから」
なんてものを芸にしてくれたんだ、と美緒は短くため息を付く。そしてふと視線を逸らすと里奈がこちらの会話には一切気を散らさずに黒板アートを仕上げていて、そちらからもまた、視線をそらした。
副会長である大輔に加え、議長である里奈までもが半ば祐介の乱入を黙認している状況もあって、美緒としても諦める必要がある、というのは理解している。二対一な状況の時点で、こちらの負けは必然――と、そこまで考えて自分の考えに首を傾げる。いや、よく考えてみたら乱入している祐介が悪いだけではないか。
この時、美緒はやはり祐介を追い出してやると心に決めた。
「しかしまぁ、そろそろ三人やと難しくなってきそうですからね……高橋君の乱入にかまけていられるか、甚だ疑問ではあります」
「そろそろ体育祭の季節やからな」
「おや、議長先生。黒板アートは出来上がりましたか」
「今のうちに見ときや。そろそろ美術館のオーナーが買い取りに来るやろうからな」
「それは凄い。確かに、なんというか……浅学の私には議長先生の芸術も、ピカソの芸術も理解できないものです」
「褒めてるようで褒めてないやろ、お兄さんそれ」
里奈の黒板アートの出来は、そういうことで。筆舌に尽くしがたいので割愛する。
まあ、大輔の表現から推して知るべし、という話だ。
「しっかし……体育祭かぁ」
美緒が、静かに漏らす。生徒会本部役員になってからで数えれば、最初の大仕事と言ってもいいイベント、それが体育祭だ。生徒会本部主催で行われる行事はいくつかあるけれども、その中でも特段の盛り上がりを見せるイベントで、一部の生徒や先生方からすれば、この企画を成功させられるか否かがその年度の生徒会本部の力量の判断基準になる、とまで言わしめる。
現状、生徒会本部役員は三名。あまりにも人数が少なく、このままでいけば当然のように人手不足で行事は成功しきれない。生徒会長がいないままでの本部役員なんて、当然のように信頼されていないのだ。行事まで失敗するとあれば、流石に悪評を避けられない。
「人手を、探さないと――ですね。木村先生にも話はしておきます」
「――――」
「体育祭、成功させへんとこの麗しの里奈様の名声も轟かんしな。人手探し、私も手伝うわ」
「――! ――!!」
「私としても、成功させたい。そのためにも人手は必要よな。里奈の名声は……まぁどっちでもいいけど」
「――!!! ――!!!!!」
本部役員三人がそれぞれ人手について言及する――と、その視界の端で、力強く手を上げている祐介がいた。その意図は、明々白々。
「やけど、却下。――本部役員の四分の三美術部とか、もはや侵略やろ」
里奈の言葉で、祐介の生徒会本部役員化は阻止されたのだとさ。
【祐介】えぇ〜? 生徒会のお手伝い頑張るで? 俺こう見えて結構有能やで?
【大輔】例えば?
【祐介】外から乱入してくる部外者を止めたり、
【美緒】部外者お前やん
【祐介】生徒会の中に入り込もうとしてる人を排除したり
【美緒】お前以外おらんって
【祐介】いや…………でも、
【大輔、里奈、美緒】不採用で




