二十九話「皆人間、奇しくも混ざるエイリアン?」
沖縄弁というものは、祐介の言う「ないちゃー」には理解しがたいものである、ということを全員が理解した。
特に、これまで運動以外であれば何でもそつなくこなしてきた大輔にとって、その事実は大きかった。
「沖縄弁、恐ろしや……」
「韻踏んでたりしてて聞くだけやったらおもろいのになぁ」
「沖縄の人はなんか知らんけど韻踏もうとしだすしな」
おばぁの借りてきたレンタカーに乗って移動中、改めて大輔と里奈が沖縄弁の恐ろしさを認識していた。
そして、そこに祐介の豆知識が突っ込まれる。
「ま、切り替えて楽しんでいこ―――まずは美ら海やで」
そう言って、祐介が大輔の肩を叩く。
レンタカーの中での座席はほぼ必然的に決まっていた。
まず運転手はおばぁである。というより、それ以外の選択肢が存在しない。
そして、助手席はおばぁと隣になっても気まずくない、つまりは以前から関わりのある祐介かくるみに絞られる。
しかし、助手席に座らないということは大輔ら中学2年組に放り込まれるということ。流石にそれではくるみも可哀想、という祐介の提案でくるみが助手席となった。
『私は複雑です、お兄ちゃんが私のことを心配してくれて嬉しいけど、お兄ちゃんの隣には座れなかった……!!』
―――というのは席が助手席に決まった時のくるみの言である。
そして、もう一つ必然なのは健美ペアの存在である。まさか隣でなくする、という選択肢は当然ない。よって、健美ペアは隣。
残った大輔、里奈、祐介の三人を隣にするとすれば唯一の三人席である最後部に三人を押し込めなければならない。となれば健美ペアは中列となり、今の席順しかありえないのである。
証明終了
「美ら海かぁ……有名なとこよな」
「そうですね〜、いわゆる『ないちゃー』らしい僕達でもよく耳にしますし」
「水族館とか、小学校の頃に美穂と一緒に行ったとき以来かもしれん」
「あー! 小四の頃のやつな〜」
ずっと健太と話していて里奈たちの会話には久しく参加していなかった美穂が会話に入ってくる。
中列の美穂と健太が後ろの席側に軽く身を捩る形だ。
「俺は……水族館はあんまり好きじゃ無かったなぁ」
「おや、佐藤くん、それまたどうして」
「水族館って薄暗いやん、やからちっちゃい頃に親と逸れて……絶妙にトラウマなんよ」
健太の言葉に、全員の顔色が変わる。
今のクールを全面に出している健太の様子からは想像もできないような幼少期エピソードに、全員の気が和んだ。
「逸れんの嫌なんやったら、手でも繋いだろか?」
「いやぁ……子供じゃないし、あと……うん、いいかな」
美穂の言葉に健太が曖昧に返事を返した。
折角の健美ペア手繋ぎチャンスだったわけだが、今回ばかりは大輔らも健太の判断に賛同する。
「ていうか、美穂の方が方向音痴やねんからな?」
「あ……オブラートに包んだのに……」
健太の気遣いを無意識のままにぶち壊す。それでこそ里奈である。
その通り、美穂は生粋の方向音痴なのである。家から数百メートル直進して少し曲がるだけで到着するコンビニに行く時ですら迷うほどの。
もしも、健太が美穂のガイドに沿って水族館を進めば、いつのまにやら水槽の中でサメに追われていたりするかもしれない。
それだけは、何が何でも避けねばなるまい。というか、迷われては色々困るのである。
「ま、美穂の見張りは佐藤に任せて私も遠くから監視ってことで」
「監視されんの? 私……」
「今の言い方やと俺も監視されるん?」
「もちろん、当然、オフコース」
里奈がこう言い出してしまえば健太一人でやめさせることなど不可能に近い。大輔と美穂も連れて行って五分五分の戦いである。
そして、今の一瞬で里奈は健太と美穂をくっつけつつ、その観察をしていてもおかしくないような理由付けまでしてしまったのである。
その事に気づいた大輔と祐介はそれぞれ苦笑を浮かべるばかりだった。
そんなこんなしていたら、いつの間にやら美ら海水族館、到着である。
「とうちゃ―――――――――かふっ」
「伸ばし過ぎで息続いてへんやん」
美ら海水族館を前にして、早くも窒息死しようとしている里奈を祐介が小突く。
大輔はその様子を見て、そして少し視線をずらして、くるみがぐぬぬ、と悔しげな表情を浮かべながら祐介の下へ走っていくのを見てから、もう一度視線をそらした。
視線を180°ひっくり返せば、真後ろから祐介の叫び声が聞こえてくる。
「さてさて、では美ら海水族館へ参りますよぉ〜!! 一階は全員で行って、その後はグループに分かれま〜す」
祐介がそう言いながら全員を美ら海水族館の中へと先導する。
チケットを購入し、いざ中へ。
「はぁ〜い、先ずは真後ろをご覧下さぁ〜い」
バスガイドを意識しているのであろう祐介の間延びした声を聞きながら、全員が回れ右をして後ろに目を向ける。
一度に視線を受けたおばぁが不思議そうに首を傾げた。
「よく考えたらまだ自己紹介をしてなかった今回の保護者、おばぁでーす。んじゃ、おばぁも一言うにげぇ」
「改めてゆーうーとくーるーのおばぁです、ゆたしく〜」
ゆっくりと小さく会釈をするおばぁに、大輔たち中二組もお願いしま〜す、と会釈を返す。
「そして、ムードメーカーどころかムードクリエイター、お騒がせ者のくるみでーす」
「はいっ!! 改めて比嘉くるみです!!!!」
「色々……気にしないの?」
紹介のされ方には少しばかり、ほんの少しばかり嫌味と皮肉が入っていたのだが、くるみはそんな事を気にしない、と言わんばかりの満面の笑みで祐介の言葉に返した。
「んじゃ、中二組も軽く一言ずつってことで」
「はぁい!! 一応生徒会議長、伊藤里奈です!!」
「じゃあ、一応生徒会副会長してます、鈴木大輔です」
「一応図書委員長、高橋祐介〜」
「一応次期部長候補、渡辺美穂です〜」
ここまで、全員が全くの打ち合わせなくして「一応の」役職を同時に紹介してきた。
そして、残りは健太だけである。ちなみに、彼は残念ながら何の役職にもついていない。
それ故に、どうやって自己紹介したものかと悩んでいるのだ。彼は何も悪くない。悪いのは全て、里奈である。
「え、えぇっと……一応人間です、佐藤健太です……」
「…………!?!?」
「まさか……『見た目は人間、中身は―――』的なそういう事!?」
「あぁっはっはぁ!!! 面白いなぁ!!」
「まさかのエイリアンでしたか、一応人間の先輩」
「だ、大丈夫!! 悪いエイリアンじゃないはずやし!!」
まさに地獄絵図である。
とんでもないことになった。健太の戸惑いの末の迷言により、全員が腹を抱えて笑うことになったのである。
いざ、エイリアンとともに美ら海水族館へーーー!!
【健太】なんか、さっきから祐介の隣あたりから「エイリアンエイリアン……」って聞こえてくるねんけど
【祐介】あぁ……なぁ健太、某RPGのキャラのセリフに「ボク わるいスライムじゃないよ。」ってセリフあんの知ってる?
【健太】あ〜、なんかアニメでネタにされてたから知ってる……けど、急に何?
【祐介】あのスライム何体かいるんやけど、そのうちの一人に便利ボタンっていうまぁショートカットみたいなのを教えてくれたのがいたらしいけど、それ教えてもらったら用済みやからな。多分くるみも、いじるの飽きたらエイリアンネタはやめるやろ
【健太】(なんか複雑………)




