幕間「チョコの日、若しくは混沌」
幕間「チョコの日、若しくは混沌」
里奈は、物陰に隠れて一部始終を観察していた。
最近、三日に一回ほどの頻度で一緒に帰ることのある健太と美穂が、一緒に帰った今日、丁度タイミングの重なった里奈は、二人が分かれ道で不自然に立ち止まっているのを目撃していた。
里奈としても、友達の会話を盗み聞きするのは良くない、ということで少し離れたところから盗み見だけをしていたわけだが、少しすると何やら様子がおかしくなってくる。
美穂はあっけからんとするいつも通りの表情ではなく、どこかほおを紅潮させ、照れ顔になっている。健太も、その様子を見て雰囲気にあてられたのか、美穂を直視できていない。
そういえば、と里奈は思い出す。
―――今日は二月十四日だ!!
そこで、里奈は現状の不自然さの要因を、その聡明な頭脳で導き出す。
里奈が〝結論〟に辿り着いたのと、美穂がリュックサックから小さな箱を取り出したのはほぼ同時であった。
里奈は声が聞こえないほどの遠くからでも、それが何なのかを目視する。
ラッピングが丁寧に施された箱である。いい意味で雑な美穂にしては凝った装飾が施され、中に入っている物の特別さを強調している。
そして何より!!
この状況自体が、素晴らしき空間の演出装置になっていた。
里奈もドキドキしながら様子を見守る。
少し躊躇いがあるのか、美穂が箱を手に持ったまま、視線を逸らす。健太も、状況を理解してはいるものの、動声を掛けてよいか分からない、といった様子でまごついている。
じれったいなぁ……と心の中でもどかしく思いつつも、里奈は声を上げることなく彼らの様子を見守っていた。そして、その瞬間が訪れる―――。
「シュガー君、このチョコあげる……!!」
「え……あ、ありがとう」
ぅおっしゃぁぁぁ、と声を上げそうになるのを堪えつつ、里奈はガッツポーズをした。
ここまで長かった……と対して長くもないこれまでを想起する里奈。
しかし、どこか違和感がぬぐえない。
ふぅ、良いものを見た、と帰路に就く里奈だが、ふと空を見上げてん?と声を漏らす。
『マッケルさん・ジャックンソンさん、本日電撃結婚を発表!!』
「どゆこと? ってか、飛行船!!?」
空を見上げた里奈が近くに健太や美穂がいるということも忘れて驚愕の叫びをあげる。その視線の先には、電光掲示板に電撃結婚の報せをでかでかと映し出した飛行船が浮かんでいた。
そもそも、日本において飛行船なんて見ることはない。そして、そもそもマッケルさんとジャックンソンさんって誰だ!?
電撃結婚の報せを飛行船に映し出しているということはかなりの著名人だろう、と予想できるが、里奈はその両名の名前を知らない。
「いやぁ、マジでなんやったんやろ……」
飛行船にしてはとんでもない速度で飛行し、何処かへ飛び去った飛行船を見送って、里奈はえぇ……と声を漏らす。
しかし、それだけでは終わらない。
ふと、里奈は周りの状況が明らかに変わって居るのに気づいた。先程まで現代日本のと海人も否かともいえないような住宅地の中であったはずなのに、西部劇さながらの荒野の建築群の景色が周りに広がっている。
へ?と小さく声を漏らした里奈だが、目の前を枯れ木がボールになって転がる名称不明の現象を見て更にはぁ?と声を漏らす。
―――パンッ、パパンッ
突然、響き渡った銃声。
里奈はその爆音に驚いて悲鳴を漏らしながらその場にしゃがむ。
日常生活で銃声を聞くことなどそうない。
何が起こったのか確認しよう、と里奈が周りに視線を飛ばした瞬間―――、
「きゃーーぁぁぁああ、里奈ちゃんー、怖いんやけどぉぉ」
「誰!?ってか先輩!!!?」
『陸上部部長―――参戦!!!』
「飛行船まだいたんや! そんで、何で状況分かってんの!?」
『マッケルさんとジャックンソンさん、電撃結婚の三秒後に電撃離婚して役目無くなったんで別のことやろうかなぁと』
「いや、会話が地味に成立しきってへんなぁ!!」
銃声に怯える里奈に突然抱き着いてきたのはまさかの陸上部先輩であった。
里奈が美術部に転部してくる前の先輩である。
しかし、電光掲示板の衝撃も大きすぎて里奈には突っ込み切れなかった。
確かに、良く抱き着いてくるような人だったけれども!!と思いながら、先輩を引き剥がそうとする里奈。しかし、地味に先輩の力が強い。
「怖いよぉ、里奈ちゃん~、陸上部もどってこないぃぃ?」
「いやいや、明らかその顔怖がってないでしょ!! あと陸上部もう関係なくないですか!?」
最早開き直ったのか、部長はにやにやとした表情を全く隠さず、怖いよぉ、銃声こわいぃ、と抱き着きながらふにゃふにゃにゃと動き続ける。
「クソッ、しつこいやつやなァ!!」
「いや、ほんとにそうやけど、流石に言いすぎ!!」
どこかから聞こえてきた叫び声と砂を蹴る音。
突然現れた人物の人影にちょうど重なるようにして舞い上がった砂煙が晴れると、そこにいたのはまさかの祐介であった。
「祐介!? 何やってんの!?」
里奈は突然の祐介の登場に叫び声を上げる。そして、何時の間にか抱き着きの部長はどこかに消えていた。
「I’VE FINALLY FOUND! I’LL GUN YOU!!」
「何!? 祐介狙われてんの? ってか、撃つって言われてるし!!」
何故かカタコトで話し出すいかにもな西部の男、そしてその意味を何故か理解できている傍観者の里奈。最早、無法地帯もいい所だった。
「GOODBYE YUSUKE!!」
―――パンッ
響き渡る銃声と、弾丸を胸に受けて勢いを殺し切れずに後ろに転がる祐介。
視界が明滅したような感覚だった。
出会って長いのか、と問われるとあまり長くない、と答えるしかない。
命を張って護ることが出来るか、と問われても明確な返事は出来ないだろう。
だが、そうだとしても―――、祐介は、里奈にとって明確な友達だ!!
「お前……祐介に……!!」
「ハッハッハァ!! 丁度胸ポケットに〝当たり判定はあるけどプレイヤーには破壊することが出来ない謎のスマホ〟入れといてよかったァ!!」
覚醒展開に移りそうだった里奈を横目に、がばり!! と祐介が跳び起きる。
へ?と里奈が声を漏らすよりも早く、祐介が目にもとまらぬスピードで自分に銃弾を撃った刺客の元へと迫る。
「おりゃぁあ!! 〝当たり判定はあるけど破壊不可能で攻撃力カンストの剣〟だぁぁぁ!!」
「いやマジで、アイテム名どうなっとんの!?」
里奈のツッコミも虚しく、次の混沌が始まる―――。
「さて、それでは開廷します」
「次は何??」
里奈が声のした方に向きなおると、そこには大輔がいた。
「本日の裁判は裁判員制度による第一審となります。あーー、めんどいので止めよっかな」
「いや、素が出てもうてる!!」
「冗談です。えぇっと、祐介氏の罪状は……アイテム名が謎に長い罪、ということで―――」
「いや、もうどういう罪かさえ理解できん!!」
「いたっ、あっ、ごめんなさい!!」
「いや、ごめん、俺も前見てなかったから」
「もぉぉ、次は何なん!!!」
大輔が頭のねじを数百本ほど失った様子だったのにも驚いた里奈だが、もうそろそろ体力の限界を迎えようとしていた。
「―――ってか、俺の制服にピーナッツバターがァァァァァァ!!」
「―――!! 私のスカートに超激辛ピーナッツバターがぁぁぁああ!!」
お互いがピーナッツバター(片方は意味わからん)をつけた食パンを咥えながら恋愛王道の角でぶつかるやつをやらかした二人の高校生が絶叫を上げる。
最早、知ってる人でもない状況で、里奈は突っ込むのを諦めた。
「シュガー君、私の手作りチョコ食べて」
「うん、ありがとう……!!」
「ってか、こいつ攻撃力カンストの剣で死なへんねんけど!!」
「I WON’T DIE! HAHAHA!」
「では、証人尋問を始めます。目撃してないけどなんか呼ばれた石井美緒さん」
「はい、そもそも状況分かりません」
「あぁぁ、ピーナッツバター取ろうとしたら手にもついたァァァ!!」
「このピーナッツバター辛いィぃィ!! 何これ!!」
「よし、今日も空が青くて綺麗や―――あっ、ちょっ、鳥のフンが……目、目がぁっぁぁ」
「もう!!! マジで何やねん!!!!! 最後初登場の奴居たし!!」
◇
「―――、と、そこで起きたんよ」
いやぁ、大長編の夢やったなぁ、と語る里奈。
聞いていた祐介と大輔―――美穂には聞かせづらいので委員会のタイミング―――は自分達のとんでもない扱いに突っ込むべきか、いや突っ込み始めたら全部ツッコむのめんどくさいな、と逡巡していた。
「えぇっと……全部ツッコむのめんどいので、一つだけ―――、バレンタインっていつの話ですか?」
今、もう夏休みってときですけど、と大輔がほんとに疑問、という様子で尋ねる。
そもそも、時系列の時点でおかしいやろ、と祐介も一緒になって反論する。
「いや、そりゃ夢やから」
「「あっ、そっか」
二人は納得した。
流石に、ふざけすぎた気がします。
夢の中だからってはしゃぎすぎた気がします。
怪作というか、珍作ですねw
ちなみに今回の投稿が今まで1番文字数多いです。




