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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第2章 こわい先輩編
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第24善「そんなこと言いましたっけ?」


 異世界。

 まさか、このテロリストの男も異世界帰りだったとは。

 無精髭の男は淡々と語る。


「オレは、今年の三月の終わりに異世界に召喚された……勇者としてな」


 三月下旬となると、聖母先輩と同じ時期じゃないだろうか?

 となると同時に二人の勇者が召喚されていたと言うことになるが、先輩からはそんな話聞いた覚えはない。


「だがオレは……魔王討伐に失敗したんだ。それの罰として課せられたのが、この『一日一善さもなくば割と酷めの頭痛』だ」


 魔王討伐に失敗? 罰?

 次々と与えられる情報に理解が追いつかない。そんな俺の様子は意に介さず、彼は言葉を続ける。


「初めは真面目に一日一善したさ。だが数日経つうちに段々面倒になってきてな。ある日、サボッちまった。そんで『割と酷めの頭痛』の罰を喰らうことに。これがマジで割と酷めでな……」


 どれくらい割と酷めなのか割と気になる。


「『割と酷めの頭痛』状態になると、仕事も何も手が付けられない。薬も効かねぇ」


 それは割と酷めだ。


「そうなると悪循環だ。頭痛が割と酷めで善行なんかやってる場合じゃない。そうすると次の日も割と酷めの頭痛だ。だんだん仕事も休みがちになり、ついにはクビになった」


 それは割と……いや、かなり酷めだな。


「だけどオレはめげずに頑張ったさ。割と酷めの頭痛状態で善行をして。頭痛に怯えながら来る日も来る日も善行をして。たまに失敗するとまた割と酷めの頭痛に襲われる。そんな生活を一ヶ月以上続けた……だけど、もう限界だった」


 似たような呪いを受けた身。

 俺にはこの男の辛さが分かる。


「だから、テロを起こすことにした」


 なんでそうなるかは分からん。


「オレは……善行なんか向いてる人間じゃなかったんだ。善行をすればするほど、悪い事をしたくなる。鬱憤が溜まってたんだ。今まで積み重ねた善行の分、何かドデカイ悪行をやりたくなった。分かるだろ?」


 分からん。俺もできることなら善行なんかしたくはないが、だからと言って悪行をしたい訳ではない。……だが、善行生活を続けていけば俺もいずれそう思う日が来るのだろうか。


「金髪。お前、異世界から帰ってきてどれくらいだ?」

「まだ一週間経ってない」

「そうか……。いずれお前もオレと同じ道を辿るさ。何せ同じ呪いを受けた身だからな」

「……いや、厳密には、俺はあんたと同じじゃないんだ」


 俺の言葉に、無精髭男はキョトンと間の抜けた表情を見せた。


「『一日一善さもなくば割と酷めの頭痛』じゃないのか? だったら何だ?」

「一日七善さもなくば死」

「死!? 重すぎんだろ! 」

「ただし週末は三倍キャンペーン」

「何やらかしたんだよお前……」


 化け物でも見るかのような目を向けられる。犯罪者にそんな目で見られたくないぞ。


「あの人も異世界帰りの元勇者なんだが……」


 化け物を見るような目の矛先を本物の化け物(せんぱい)に向けてやろう。そう思って彼女の方に目を遣る。するとそこには悲惨な光景が繰り広げられており、思わず『うわぁ』と声が漏れてしまった。


 海老反り状態のドレッドヘアーの男。彼の下で四肢をホールドする先輩。吊り天井固め、いわゆるロメロ・スペシャルがガッチリと決まっている状態だったのだ。


「ヒッ!? な、何んだよあれ!?」


 ロメロ・スペシャルを決められているドレッドヘアーは既に失神しているようで、ぶくぶくと泡を吹いていた。ミシリ……ミシリ……ボキ!と聞こえてはいけない音が断続的に聞こえてくるのは気のせいだろうか。


「うふ、うふふふふ」


 聖母先輩、満面の笑みで楽しそうだ。それがより狂気を引き立てている。狙ってか狙わずか、先輩はモールの柱の影で技をかけていたため、遠くでこちらの様子を窺っている信者達にはその正体が見えていなかった。


「あの人の呪いはもっと凄いぞ。『一日五十善さもなくば家族・友人もろとも死』だ」

「マジで何やらかしたんだよお前ら……。『一日一善さもなくば割と酷めの頭痛』くらいでテロを起こしたオレがバカみてぇじゃねぇか」


 そこで俺達の視線に気が付いたのか、先輩はドレッドヘアーを解放し、おもむろに立ち上がってこちらに歩み寄ってきた。


「どうかしました〜?」

「なんか、この男も異世界帰りの元勇者らしいッス」

「えぇ!? そうなんですか!?」

「『一日一善さもなくば割と酷めの頭痛』という呪いを受けてるらしいッス」

「えっショボ」

「「すんません……」」


 なんか俺も釣られて謝ってしまった。

 いやちがう、謝る必要なんてない。俺達だって十分大変なんだ。先輩が別格なだけだ。


「あちらの逞しい方も異世界帰りなんですか? それなりに折り甲斐がありましたけど」


 折り甲斐って。


「そうだ。アイツも同じく元勇者。魔王討伐に失敗して罰を受けた身だ。『一日一ゴミ拾いさもなくば定期券の感度がめっちゃ悪くなる』だったかな。可哀想な奴だよ。改札通るたびに止められて」


 ショボ過ぎんだろ! 神、絶対ふざけて呪いかけただろ!


「他の仲間は?」

「オレら以外はただの一般人だ。犯罪者仲間を紹介してくれる組織があってな。そこで『モール占拠するけど来たい人〜?』って呼びかけたら沢山集まった」


 そんな遊ぶ人募集〜みたいなノリで。とんでもねー組織もあったもんだ。俺も友達欲しいし紹介してもらおうかな。もうこの際、犯罪者でいいから友達欲しい。


「一応、オレのサポート魔法で身体能力を向上させておいたんだが、お前らの前では無力だったな」


 ちなみに銃は魔法で作り出した偽物とのこと。弾は飛ばず、本物っぽい銃声が出るのみ。時間が立てばそのうち消えるらしい。爆弾も真っ赤な嘘だそうだ。


「ダメじゃないですか。異世界の能力を犯罪に使ったりしちゃ」


 異世界の能力で人体の破壊と再生を繰り返す人間が何を言うか。


「ククク。お前らも善行なんかより悪行に力を使えよ。仮に捕まったとしても、脱獄なんか余裕だぜ?」


 それはその通りだ。刑務所に入ったとしても、勇者の力があれば余裕で逃げ出せる。そのせいか、コイツは捕らえられたというのにどこか余裕さが垣間見える。


「それはいけませんね。ちゃんと罪を償ってください」


 言いながら、男の頭を鷲掴みにする聖母先輩。そして、


「《スキルドレイン》」


 そう呟くと、男の額が淡く輝き、その光がゆっくりと先輩の腕の中に吸い込まれていった。


「こ、これは……」

「《スキルドレイン》。相手のスキルや魔法を奪い取る魔法です。犯人さん、あなたの能力を頂きました」


 知っている。俺も異世界を旅していた時、この魔法を使う敵に苦しめられた覚えがある。

 奪い取ったスキルを自身の力とする禁忌の魔法。そうか。だから先輩は、ああも多種多様な技を持っていたのか。


「これで貴方はただの一般人です。刑務所で大人しく罪を償ってください」

「う、うそだろ……」


 男は身をよじって俺の拘束から抜け出そうとするが、先程のパンチからは想像もできぬほど非力になっていた。《スキルドレイン》は彼のパワーやスピードまでも奪い去ってしまったようだ。

 これで、力を失った無精髭は刑務所からの脱獄が不可能となった。それはいい。しかし、俺の頭を一つの疑問が支配する。


 ——《スキルドレイン》は、魔族しか使うことのできない禁断の魔術なのだ。


「先輩……なんで元勇者だった先輩が、《スキルドレイン》を使えるんスか?」

「えっ? わたくし、元勇者だったなんて、そんなこと言いましたっけ?」


 あっけらかんと。

 まるで、些細な問題でもないと言いたげに。

 先輩は、いつもの聖母のような微笑みを浮かべて、ゆっくりと言葉を発した。


「わたくし、元魔王ですよ」


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