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26話 やっぱり、意識低い系パーティ

「……何だ……その話は。情報量が多すぎる……」

 

 怪我の治療が終わったあと、カイルがグレンさんに不在の間にあった出来事を報告した。

 それに……ベルからは、拉致されている時に出会った人達の話も。

 話を聞いたグレンさんは、ソファーに座ったまま頭を抱えてうなだれる。

 ベルの話はわたし達も今初めて聞いたけど、現実離れしているうえに恐ろしすぎてにわかには信じがたい。

 グレンさんをはじめみんなもそれは同じみたいで、それぞれ深刻な顔をして黙り込んでいる。

 

 ――禁呪で人の生命を吸い上げて血の宝玉を作り、それを魔器(ルーン)にして人の心を読みお金を騙し取る。

 お金を根こそぎ奪って用が無くなったらまた血の宝玉にして、殺す。

 あのアーテという人は、そういうことをする人達の仲間。

 そしてカイルはあの人に殺されるかもしれなかった。

 

「俺達が調べようとしてたことの真相……みたいなものじゃないのか?」

「冒険者のロブも同じ手口で殺されたと考えて間違いないだろうな。で……次は俺が調べたことを報告するが」

 

 

 ◇

 

 

 ――グレンさんは、殺されたかもしれない冒険者のロブという人の足取りを調べていたらしい。

 

 ロブさんは、ある夜酔って階段から落ちて怪我をして回復術師に治療してもらった。

 次の日からその術師のいる教会に通い懺悔をしていたそうだ。

 確かに教会に入っていく所を見た、という証言があり「教会に行って懺悔をする」と本人から聞いた人もいた。

 神官が彼を迎え入れ、別室に行く所を見た、という人もいたらしい。

 

 でもグレンさんが教会で話を聞いても誰もロブさんを見ていないし、対応した神官が誰かも分からない。

 訪問者リストを見せてもらうと、確かに彼の名前があった。

 教会の人間が何人かで確認しあうけど、彼以外の訪問者は誰かしらが覚えているのに彼だけ誰も覚えていない、知らない。

 彼ら自身も何かキツネにつままれたかのような反応で、隠蔽しているというわけでもなさそうだと。

 

「――それで数日後、地底湖の洞窟で遺体で見つかった、と……」

「なんで教会の奴ら誰も覚えてないんだ? ヤベーな、記憶消されてんのかな。その血の宝玉使って」

「ベルナデッタの話も加味すると……ロブはその妖しい術師の手口にひっかかって金を搾り取られたあと、何度も術を受けるうちに判断力を狂わされて地底湖に導かれ……生命を吸い上げられて殺されたんだろう。地底湖の洞窟でそれらしい場所があったからな」

「それらしい場所?」


 カイルが尋ねると、グレンさんは口を手で覆い隠して眉間にシワを寄せる。

 

「恐らくロブが殺されたであろう場所――そこの土を踏みしめた途端に吐き気と頭痛と悪寒が走って……紋章が勝手に光りだした」

「土を踏みしめてから……どういうことだ」

「分からない。ともかくそれから特に頭痛が酷くなって、そこからはどうしても先に進めなかった」

「頭痛に吐き気……今は、大丈夫なんですか?」

 

 大事な話の途中だけど、どうしても我慢できなくて聞いてしまった。

 グレンさんは少し笑いながらこっちを向いた。


「まあ数日前のことだしな。それで、立ち尽くしている間に地震が起こった。……まるで狙いすましたかのようにな」

「人為的に引き起こされたものとでも? ……でもありえなくもないか」

「ロレーヌは地震がほとんどありませんものね……あの血の宝玉が禁呪の魔器(ルーン)なら、地震を引き起こすこともきっと……」

 

「…………」

 

 全員無言になってしまう。

 ――やがて、ジャミルが腕組みしながら口を開いた。

 

「……で、これどーすんだ?」

「……え?」

「や、これから先その真実を追って謎を解き明かす系の意識高え冒険者に生まれ変わんの? って」

「え? うーん……」

 

 ジャミルのセリフを受けてカイルが唸り、グレンさんの方をチラッと見る。

 グレンさんはちょっと気怠げに髪をかきあげてソファーにもたれかかった。

 

「……一連の流れはギルドに報告しておいて、あとは丸投げでいいだろう。人を殺して禁呪の魔器(ルーン)にする団体なんて、一介の冒険者でなく国が調査すべきだ。聖銀騎士殿がやってくれるんじゃないか? その血の宝玉とやらも彼らが調べてくれているんだろう」

「グレンさん」

「確かに、それがいいかもしれない……俺は気楽にモンスター退治だけやっていたいよ」

「カイルも、大変だったもんね……」

 

 ――なんだかそれを聞いてホッとしてしまう。

 謎を追ううちに生命を狙われたりとかしちゃいそうだもん……。

 

「まあ今はそれより、俺は何かうまいものが食べたい」

「あっ! じゃあじゃあ、唐揚げとかトンカツとか揚げましょうか!」

「そうだな。レイチェルが作るなら俺はなんでも」

「ふふ、おまかせください!」

 

「なんでもいい」が一番困る っていつもはそう思うんだけど、今はそれが何より嬉しくてニヤニヤしてしまう。

 今日はラーメン夜会――というか、夕食はラーメンだ。

 成り行きとはいえ、ジャミルが来てくれて。

 もうすぐお別れで、ずっとラーメン夜会に参加したがっていたフランツも一緒。

 すごく久しぶりにみんなでごはんを食べられる。

 楽しみだ。楽しみすぎて泣きそう……。

 

 

 ◇

 

 

「今日明日はどこにも行かれないんですか?」

「そうだな。カイルが、俺が調べたこととベルナデッタが見たことをまとめてギルドに報告して、それで今週は何もしない。俺もそうだし、あいつも疲れているみたいだしな」

「そうですか……よかった」

 

 昼食のあと、中庭のベンチにグレンさんと二人腰掛けている。

 もうすぐ12月。

 ロレーヌは比較的温暖な気候だけど、冬はそれなりにちゃんと寒い。

 隣に彼がいると温かい。温かい部屋とはまた違う特別な温もりだ。

 特別寂しがりじゃないと思ってるけど、少し離れただけで落ち着かなくてたまらなかった。

 誰か通るかもしれないからさすがにできないけど、本当はピタッと寄り添いたい。

 

「……本当に根こそぎ枯らされたんだな」

「あ……はい」

 

 何も無くなった花畑を見てグレンさんがつぶやいた。

 春にルカとわたしで植えたお花。アーテさんが全部魔法で枯らしてしまった。

 事情聴取した聖銀騎士の人の話だと、虫を魔器(ルーン)にして花の精気を奪ったとか。

 単純に嫌がらせのため。それと、お肌が綺麗になるんだって。

 花が植わっていた土は虫の死骸だらけで、一度掘り起こして撤去して。

 それで新しい土を補充して、みんなでまたお花を植えた。

 

「ルカが寝込んでるって?」

「はい。魔法もまだ使えないみたいで……お花ずっとかわいがってましたから、ショックが大きいみたいです」

「そうだな。……レイチェルは?」

「え?」

「レイチェルが育ててた花もあっただろう。それにいじめられたと聞いたが」

「えと、それは……でも、ビンタ2回お見舞いしましたし」


 彼を見上げて鼻息荒くそう言うと、目を丸くしてから苦笑いした。

 

「はは、怖いな。……相手もレイチェルが弱いと見て侮っていたんだろうな」

「そうですかね? 泣いて逃げる子と思われてたのかなぁ。そうでもないのに」

「……知ってる」

「あっ ひどい」

「カイルの足を思い切り踏んだり、俺も傘を叩き落されたし。意外すぎた」

「う、それはあの」


 改めて事実を振り返られて恥ずかしい。口を手で覆い隠して彼から顔をそらしていると、肩に手が置かれ引き寄せられた。

 そのまま彼の腕の中にすっぽり収まってしまう。

 

「わっ……グ、グレンさん」

「今、誰も廊下は通らない」

「…………」


 カイルは冒険者ギルドへ行った。ジャミルとベルは買い物。

 ルカとフランツは自室。食堂に用がないなら、確かに廊下は誰も通らない。

 でも、誰か通るとしてもこうやって彼の腕の中にいるとどうでもよくなってしまう。

 

「心細い時にそばにいてやれなくて、悪かった」

「……グレン、さん」


 それを聞いただけで涙がひとりでに溢れてきてしまう。

 表面張力でなんとか堪えられないかと思ったけど全くの無駄だった――一気に涙がこぼれる。

 

「わたし……わたしの植えたお花も枯らされちゃって、ルカほどじゃないけどやっぱり悲しくて」

「ああ」

「……っ、早く、早く帰ってこないかなぁって」

「ああ」

「グレンさんに、会いたくて、それでずっとこうやって、抱きしめてほしくて」

「そうか。俺も……割と大変だったから、早く会ってこうしたかった」

「グレンさん……」


 彼の背中に手を回して、頭を撫でる。少し硬めのサラサラの黒髪。


「……お帰りなさい」

「ああ」

「『ただいま』って、言ってほしいです」

 

 そう言うと、彼は少し驚いたような顔をした。

 やがて伏し目がちに少し笑ってまたわたしを抱き寄せ、唇が重なり合う。

 

「……ただいま」

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