第一章 誰かに殺されたい少女
死にたい。
希死念慮。それは誰もが一度は持ったことのある願望。でも、その願いを成就させることができる幸福な人は、不幸にも多くない。死にたくないという生き物としての本能が、自殺を躊躇わせているから。理性では死を選択するのが最善策だとわかりきっていても、恐怖という本能に抗うのは難しい。じゃあどうすればいいの? それは簡単。自分で死ぬことができないのなら、誰かに殺されてしまえばいいの。
私が住むヴァレンシュタインという国では、最近ある事件が起きた。エリーゼ・ヴァレンシュタイン第一公女が暗殺未遂に遭うという事件。公女様を守った男の名はジャスティスマックス。最新科学技術が採用された強化スーツを身にまとい、ハリウッド映画のヒーローのような見た目をしている。公女を狙おうとした宇宙人は必殺技を受けて爆死した。
悪役になれば、私もジャスティスマックスに殺してもらえる。そう考えて、私はダークウェブで手に入れた銃を持って街へ出た。動きにくいかもしれないと思ったけれど、お気に入りの靴を選んだ。ほら、いざ死ぬとなったら、やっぱり色々と拘りたいじゃない? 私はこれから殺されに行くわけだけれど、私が誰かを殺すつもりはない。私があの世行きになる時は貸し切りにしてほしいからね。
「……よし」
ジャスティスマックスは子供に人気が高い。襲撃のターゲットを幼稚園にしたのは、我ながら好判断だと思う。インターホンを押す代わりに引き金を引いた。乾いた銃声がして、弾丸が青空の向こうへ飛び立った。外で遊んでいた子供たちは途端に悲鳴を上げて逃げ出した。私は泣き叫ぶ子供たちを追いかけ回した。男の子の一人が叫んだ。
「助けて! ジャスティスマックス!」
「そこまでだ!」
屋上に人影。文字通り飛んで来たのね。
「子供を危険に晒すことは許さない! ジャスティスマックス参上!」
メタリックホワイト。でも形だけは、いつ見てもアイアンマンに似ている。
「必殺! マックス、キィーック!」
ジャスティスマックスの必殺技だ。私は受け身を取る暇もなかった。
「……あ、あれ?」
ジャスティスマックスは、私の銃だけを破壊した。
「ふう。これで危機は去った」
今にも飛び立ってしまいそうなジャスティスマックスの背中に向かって、私はこう投げかけた。
「え? 終わりなの?」
ジャスティスマックスが振り返った。
「ああ。そんなにガクガク震えてちゃ、もうお家に帰るだけで精一杯だろ?」
私の脚は、確かに震えて止まらない。
「他の生き物を殺すのならともかく、人である俺が人を殺すのは、なんかマズいと思ってるからさ。じゃあな!」
私はその場にへなへなと倒れ込んだ。気の弱そうな園長先生らしき人物が、遠くから私に呼びかけた。
「あ、あの、警察には言いませんから、どうか出て行ってもらえませんか……」
いや、そこは通報しなさいよ。




