第280話 百聞は一見に如かず
カラクリの研究所を、所長であり、平賀家の現当主でもあるという平賀源子に案内してもらっていた。
「そしてここは医療用のカラクリを開発しているチームや。義肢が必要なんはじぶんやんな?」
「そうじゃが……」
「将軍からの直々の依頼やったし、すでに作っといたで」
あらかじめ爺さんのための義肢を用意してくれていたらしい。
早速、爺さんが腕と足に装着する。
「な、なんじゃ、これはっ? 独りでに動いておる!?」
「使用者の動きから自動的に反応するようにしておるんや。少しコツはいるけど、慣れれば走ったり踊ったりもできるはずやで」
「すごいぞ! 刀も握れるのじゃ!」
義手で刀を握り、振ってみせる爺さん。
さすがに元の手足通りとはいかないだろうが、ここまでの性能なら普段の生活で困ることはないはずだ。
「先生、これなら剣も続けられるでござるな!」
「いや、そこまでは無理じゃろう。柳生心念流の技の大半は使えまい」
「し、しかし、先日は八岐大蛇に秘儀を使っていたでござろう?」
「あれは最後の力を振り絞ったからできただけで、普通には無理じゃよ」
弟子の指摘に、爺さんは苦笑する。
「そうやなぁ。並みの剣士レベルならともかく、一流剣士の動きには対応できんやろうなぁ……まぁ、そこはまだまだ改良の余地があるっちゅうことや。いずれはそういう義肢を作り出したるから、今はそれで勘弁やで」
それからも俺たちは研究中の様々なカラクリを見せてもらうことができた。
久しぶりに知的好奇心を大いに刺激されて、俺は大満足だ。
ファナ、アンジェ、カレンの脳筋トリオは、難しい話ばかりで頭痛がし始めたのか、途中から頭を押さえ出していた。
「それにしてもじぶん、なかなか筋がええなぁ! 初見でここまでの理解力を示すもん、今まで見たことあらへんで! 人間レベルの知能どころか、もうそれを超えとるかもしれへん!」
「ふふふ、そうでしょそうでしょ」
「せや! ぜひじぶんにだけ見せたいものがあるんや!」
「ぼくだけ?」
「内容的に非常に難解なもんやからな! じぶんにしか理解できひんやろう!」
ということなので、俺は一人、源子に連れられて研究所の奥へ。
厳重に管理された扉を何度も潜っていく。
「研究のお姉ちゃん、どんなものを見せてくれるの?」
「電気エネルギーを無限に生み出すクラフトや。正直、極秘中の極秘のもんなんやけど、じぶんにだけは特別に見せたるわ」
ワクワクしながら彼女についていくことしばし。
やがてやってきたのは、何もない部屋だ。
「……? どういうこと?」
次の瞬間、四方八方から縄が伸びてきたかと思うと、俺の身体に自動的に巻き付いてくる。
「やったでええええっ、捕まえたあああああっ! これで分解し放題やああああああっ!」
源子が血走った目で叫ぶ。
「ここまでの性能の人形が、どんな仕組みになっておるのか、このままじゃ気になって気になって夜も眠れへんからな!」
「分解したところで、魔法で動いてるんだから仕組みは分からないと思うよ?」
「それならそれで仕方あらへんわ! 百聞は一見に如かず! とにかくこの目で実際に確かめてみいひんとな! ひひひひひぃっ!」
まぁ気持ちは分からないでもない。
俺だって理解できないものを見たら、とことん調べてみたくなる。
そうやってひたすら魔法の研究をし続けた結果、前世の俺は大賢者と呼ばれるに至ったのだ。
彼女もそんな俺と同じ人種だろう。
だからといって、大人しく分解されるつもりはない。
というか、そもそも俺は魔導人形じゃなくて人間だからな。
ブチブチブチブチッ!!
あっさり縄を引き千切り、拘束から逃れる。
「ひひひひっ! やっぱりこの程度じゃ無理やったか! けど、これならどうや!」
奥にあった扉が自動的に開き、現れたのは一体のカラクリ人形だ。
分厚い装甲に幾つかの武器を備え付けており、明らかに穏やかな目的で作られた人形ではない。
「一流剣士すら凌駕する戦闘能力! というのをコンセプトに開発した、最強のカラクリ兵やで!」
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