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異世界召喚されたが役立たずと言われ砂漠に捨てられたので、廃墟だった地下都市の王になり世界を征服することにした  作者: 茶猫
昇神闘争

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交わる道

ザカール兵の二人は、ダバハにしがみついた状態で、相当な時間を砂の中で進んでいた。

もともと一人乗りのダバハに二人が乗るなど、到底無理がある。乗るというよりは、文字通り「必死に捕まっている」というのが正解だった。

 おまけに、地中を進む際はダバハの馬で言うなら鞍にあたる防砂布の隙間に身を隠すのだが、二人乗りではそれも叶わず、体の半分が外に剥き出しになっていた。

 ザカールの戦闘服越しとはいえ、猛烈な勢いで流れる砂や土が体に叩きつけられる。それはまるで、全身を粗いヤスリで削られているかのような激痛と損傷を強いていた。


「だめだ、もう限界だ……! 戦闘服が保たない。少し速度を落としてくれ!」

「無理だ! 二人もぶら下がっているせいでダバハ自体が悲鳴を上げている。速度を落としたら、地圧に押し潰されて動けなくなるぞ!」


「――本当にあるのか、アーズナルの道は」


今の極限状況では、そう弱音を吐きたくなるのも無理はなかった。いまだ目的地へのルートは見えない。

 次第に周囲の砂は硬い土へと変わり始め、掘り進む速度は落ち、ダバハにかかる負荷はさらに増していく。


ついに、一人が意を決したように声を張り上げた。

「ははは……手が、もう痺れて感覚がない……! お前だけでも逃げろ。俺はここで手を離す!」


男は宣言通り、ダバハを掴んでいた片手を離しかけた。

 それが、道連れにすまいとする優しさから出た言葉だということは、痛いほど分かっていた。


「そんなことはさせない!」

 もう一人の兵士は、届く限り限界まで腕を伸ばし、離れかけるその手を必死に掴み、力任せに握り締めた。


しかし、掴まれた男は拒むように叫び返す。

「このままでは二人とも命が危ないんだ! 俺を置いていってくれ……!」


「地下のこの深さだ、置いていくことはお前を殺すことと同じだ。そんな真似ができるか! 言っただろ、俺たちが生きている限りザカールは滅びない。だからこそ今は、一人でも多くの民が生き残る必要があるんだ。……たとえ、俺たち二人のような端くれであってもな!」


限界は疾うに超えている。だが、俺たちは生きなければならない。

 ザカールをここで滅ぼすわけにはいかない――その執念だけを糧に、二人は必死にダバハへとしがみつき、まだ見ぬアーズナルの道を求めて地中の闇を進み続けた。

ーーーーーーーーーーーーー

抵抗軍側ではクラリスからの報告が始まった。

「先ほど申し上げました通り、今回洞窟の奥を調査した結果、この隠れ家の裏に続く通路は『アーズナルの道』に間違いないと思われます。――いえ、正確に言うなら、私たちが今いるこの隠れ家の空間自体が、『アーズナルの道』の一部である可能性が高いのです」


その報告は、居合わせた一同に大きな衝撃を与えた。

「この空間自体が、道だと……?」

「バカな。伝承では、古代生物がトンネルを掘り進む際、その周囲に石灰質の壁を形成すると聞く。だがここは完全に岩盤に囲まれているぞ。これほどの膨大な空間を、本当に生物が作ったというのか?」


どよめく幹部たちに向け、クラリスは冷静に回答を続けた。

「この隠れ家として利用している空間ですが、実は精密な計算に基づいた人工的な曲面構造が見られます。おそらく、地下都市を建設するために切り拓かれたのでしょう。ただし、完全な形を成していないことから、途中で放棄されたものと推測されます」


あまりに規格外な話に、この段階で理解が追いつく者は誰もいなかった。全員が「意味がわからない」と困惑の表情を浮かべるのも無理はなかった。


「私も驚きました。ザカールに伝わる言い伝えでは、アーズナルの道は『地下でありながら常に明るく、地上へ出るための昇降口がある』とされています。そして、その道の『分岐点には都市が存在した』と」


「……まさか、その分岐点の都市が、ここだと言うのか?」


「はい。おそらく地殻変動か何かのトラブルによって、都市の建設を途中で断念せざるを得なかったのでしょう。そのため、本線であるはずの『アーズナルの道』も伝説にあるような輝きを失い、現在では単なる鍾乳洞のような姿に見えているのだと考えられます」


「待ってくれ、地下だというのに明るいだと? そんな芸当、本当に可能なのか? ……そうか、精霊石か? それとも強力な魔石の力でも使っているのか?」


「道の全てを照らし出すのです、膨大な力ですから、そのどちらでもない、と思われます」

 クラリスは一同を見渡し、厳かに言葉を紡いだ。

「この話を精査していくうちに、私はある記憶を思い出していました……。旧世紀の伝説に謳われる、あの『アトランディー』の物語を」


――アトランディー。

 それは、ここにいる多くの者が幼い頃に童話として耳にした伝説の名だった。誰もがただの絵空事だと思っていた。

 魔法の存在しない世界でありながら、不可思議なエネルギーによって夜も明るく眠らない都市。自動で動く道、高速で移動する乗り物、空を飛ぶ機械。まさに夢のような失われた超古代文明の世界だ。


「「アトランディー……!」」

 全員が息を呑み、絶句した。その単語には、夢と現実の境界を吹き飛ばしてしまうほどの重みがあった。


「いや、ちょっと待ってくれ! いくら何でも……現実離れしすぎている……!」


「そうですね。ですが実際に、このアーズナルの道を作り出したのは『巨大な生物』です。おそらく彼らは、その生物を人工的に生み出し、指示を理解できるよう調教したのでしょう。生物を使って道を敷設する――その技術力こそがアトランディーの遺産です。もっとも、この大空間をどうやって構築したのか、その全貌は未だ推測の域を出ませんが」


信じがたい報告の連続に、一人の魔導士が絞り出すように声を上げた。

「この規模の空間なら、我々も多くの魔導士を総動員すれば、時間をかければ造れなくもないが……」


「みなさん、勘違いしないでください」

 クラリスは首を横に振った。

「未完成であるこのスペースは、本来の計画の『1%』にも満たないのです。天井の曲率から計算するに、完成すればこの100倍の大きさになります」


その言葉に、部屋の空気が凍りついた。

「100倍……! ここはアトランディーの王都の候補地だったというのか!?」


「いいえ。ここはただの『分岐点の都市』に過ぎません。伝説によれば、アトランディーの首都は100万人が暮らす超巨大都市だったと言われています。……ちなみに余談ですが、古い文献において、彼らは『王都』という表現は使っていなかったようです」


「もはや、我々の想像の範疇を超えている……」

 誰かが掠れた声で漏らしたが、それは場にいる全員の共通の思いだった。


「ロレッタ様」

 クラリスは、静かに戦況を見守っていた主へと向き直った。

「アーズナルの道は、今も地下の奥深くへと続いています。この放棄された場所からも、必ず本線へと繋がっているはずです。実は今回の調査中、トンネルの最深部で興味深い生態を持つ生物を発見しました。まだ確定情報ではありませんが、そこが本線への入り口だと睨んでいます。

――ロレッタ様、もしお許しいただけるなら、このまま調査を続行させてください。必ずや『アーズナルの道』を切り拓き、サンバンカ領、グワール、そしてサウサモースなど、かつての我らの領地へと続く道を見つけ出してみせます」


「わかりました。ですが、決して無理はしないでください」


ロレッタは痛ましげに目を伏せ、優しく告げた。

「今の私には、あなたたちに差し違えられる大義も、与えられる力もありません。……ただ、心配ですから、『夢通信』の定時連絡には必ず応えてくださいね」


それは主としての命令ではなく、一人の人間としての切実な願いだった。


「御意に。ロザリア王女の御下へ散り散りになった民を呼び戻し、我が国を復興させるためなら、この命、喜んで捧げましょう」


クラリスの瞳には、確固たる決意の炎が灯っていた。

 その後、クラリスを隊長として、レジスタンス(抵抗軍)から3名、そして合流したザカール兵から3名が選抜され、本格的な「アーズナル調査隊」が編成された。


未踏の暗黒が待つ地下の奥深くへと、彼らは静かに出発していった。

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