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ジュエル☆クイーン♡スクーリング  作者: 葉月 優奈
八話:地下のアイドルとフローライト
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一緒に用意をしながら気がつくと十時を回っていた。

今日は文化祭前夜、学校は深夜まで解放されていた。

明日の文化祭まで、こっちは間に合いそうだ。

俺は無理矢理純花も巻き込んで手伝わせていた。


「って、あたしも手伝うわけ?」

「暇だろ、バイトもないし」

「うん……あたしのクラスじゃあ手伝いもロクにできなかったから。

あっ、あたしは天才だからやらなくてもいいのよ」

強がる純花が手伝ってくれた、なんだかんだ言っても体力があるからな。


「ありがとうございます、宿坊さん」

「いいのよ、あたし暇していたんだし」

「ああ、純花は基本的に隣のクラスじゃあ変り者で……」

「変り者じゃないわ、天才のあたしを誰も理解できないのよ」

胸を張る純花だが確かに絵画5を誇る天才だ。

一桁なんてとりたくてもとれるモノじゃないぞ。


「純花は体を動かすのが得意だから運搬メインで。

佳乃は料理が得意だから仕込みや買い出し」

「そして、ミツノマルが飾りつけ」

「飾りつけは絵画の才能がモノを言うからな」

「ですね」

同意してくれたのが佳乃だ。純花はふてくされていたが、それはそれでよし。

三人での作業は、なんだかいい雰囲気になっていた。

クラスの方はひと段落つきそうだけど、何か大事なことを忘れているような。


「でも、だいぶポップコーン屋さんらしくなったわね」

「後は制服とか?」

「そうですね、それは用意したんですよ」

そう言いながら、佳乃が床に置いてあったスーパーの大きな袋を取り出した。

さっき持ってきた大きな袋を開けると出てきたのが衣装だ。


「うわー、これメイド服だよね」

「はい、メイド服のコスプレです。こっちの執事服もありますよ」

「コスプレの定番だな。まあ学生なら妥当か。佳乃が買ってきたのか?」

「えっとー、お兄ちゃんが……よく買ってくるんですよ」

「ああ、ありそう」

思わず俺は部長の顔が思い浮かんだ。

確かに、部長ならこういうのを買ってきそうだ。


「ゲッ、キモいんだけど。悪寒モノよ、さすがオタク」

「否定はしない」

「まあまあ、お兄ちゃんはよくやっているのは認めます。

私にとってお兄ちゃんは自慢のお兄ちゃんです」

「佳乃……」

「でも今の私は高校生です、子供じゃないんです」

そんな佳乃は、ゲームの中でフローライトとようやく重なった。

いつも通りにこにこしている佳乃ではない。少し落ち着いた素に限りなく近い佳乃だ。


「佳乃……あたしがついているわ」

「えっ、宿坊さん」

「宿坊さんなんて、堅苦しいわ。

あたしは純花でいいわ。そのかわりあたしも佳乃を呼び捨てにするわね」

「すでに呼び捨てだろ」

「何よ、ミツノマル」

俺のツッコミにはっきりと純花は不満を表していた。

それを見て、やっぱり佳乃は笑顔に戻っていた。


「あっ、ウチのクラスがシャワーの時間だから一旦ハケるね」

そう言いながら純花は、携帯の時計を見ながら教室を出て行った。

騒がしい純花がいなくなって二人。静かになった教室。


残されたのは俺と佳乃の二人きり。

時間はもう夜の十時を回っていた。

少しの間があって、俺は口を開いた。


「それにしてもクラスの人間は明日手伝ってくれるの?」

「……わかんない」

苦笑した佳乃に俺ははっきり言っていた。


「佳乃……いいか」

「どうしたの?」

「やっぱりみんなに話そう、みんなはなにも知らない。手伝ってもらわないとダメだろ。

文化祭はみんなでやるものだ。

ウチのクラスが文化祭にあまり興味がないのは知っている」

文化祭の話が出た時からそうだ。

このクラスはエリート集団だから、勉強以外のことはあまり興味がない。

文化祭の祭りごとも、それほど盛り上がらなかった。

祭り好きのみんなは、文化部の方に行っているし。


「……なんで?」

「当り前だ、だって佳乃が一人で苦労することもないだろ」

「でも……みんなに頼んだことがないんだ」

「じゃあ、なんで泣いているんだ?」

「私……学校では泣いてなんか……」

「心が泣いているよ」

俺はしっかり佳乃を見ていた。逆に佳乃はじっと俺を見返していた。

フローライトを持ち出したのは反則だけど、佳乃は急に泣き出しそうになっていた。


「嘘をつくのはやめよう、佳乃は辛いんだろ。今までみんなに迷惑をかけてきた。

ううん、あんなにきつく言ったのに部長に迷惑をかけてきたんだ」

「私はお兄ちゃんに……」

「だから」

そう言いながら、コスプレを持った佳乃の両肩を優しく抱いた。


「大丈夫だ、君をみんな迷惑になんか思っていない。

部長だって、君を一番に大事にしているんだ」

「……はい」

「その愛があまりにも強すぎて君は受けるのが怖いんだ、だからあんなに歪む」

「私なんか……」

「大丈夫だよ……君は弱くないんだろ。佳乃は成果が欲しかった。

だからこの文化祭を一人でやりたかった」

「なんでもお見通しなんですね……すごいな」

そんな佳乃は笑顔ながらも目には涙があふれていた。

俺はじっと佳乃を見ていた。


「もう……それは充分に証明した。だから君はもう頑張んなくてもいい。

みんなに頼ればいい、君は頑張ったんだ」

「菅原君!」

俺の目の前で佳乃は泣き崩れた、俺は佳乃の頭を優しく撫でてあげた。


「私……辛かったです」

「佳乃」

「お兄ちゃんに頼り切った自分を、どうしても変えたくて。

私はしないといけないんです、『兄離れ』を」

それは文化祭前夜、二人きりの教室の出来事。

目の前で泣いた佳乃を、静かな教室で俺は慰めていた。


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