86
気づいたら文化祭まで、残すところ二十四時間を切っていた。
学校の授業も今日から午前中だけで午後はホームルームだけだ。
ホームルームになると自然とクラスで出し物の用意を始める。
今日だけ特別に学校内宿泊が解禁されるからだ。
そんな俺は、当然のことながらパソコン音楽部部室に来ていた。
先客は工藤先輩一人だけだが。
「よお、順調か?」
「ええ、まあ……何とか先週から残ってやったので大丈夫ですよ」
「伊勢ヶ崎がだいぶ不満がっていたぞ、部長は最後まで残らないといけないから」
「カギ……持っていますもんね。迷惑かけましたよ」
「噂をすれば」
そう言いながら出てきたのは伊勢ヶ崎部長。
確かにヨッシーマ王子に似ているが、ゾンビっぽくない。
背が百八十以上あって学校内でも一番高い人だ。
そんな伊勢ヶ崎部長は大きなビニールを持っていて、それを机の中央に開いた。
中から出てきたのは大量のポップコーン。
「ああ、差し入れだ」
「おっ、これはポップコーンじゃないですか」
「妹のクラスが出し物をするみたいで作った試作品だ。食べてくれ」
「いいんすか、じゃあゴチになります」
工藤先輩はそう言いながらポップコーンを食べていた。
俺も一つ貰おうと手を伸ばしたが、なんか部長にものすごく睨まれているのを感じた。
ポップコーンは予想通りおいしかった。
確かに佳乃の料理スキルは88だったな。
50の純花も今度佳乃に教わってもらえ。
「おいしいですね」
「当然だ、俺の妹は完璧だ」
部長の言うとおり完璧だ。
塩加減がかなりいい、お茶受けの羊羹といい佳乃にはお菓子を作る才能はプロ並みだ。
「でも、菅原のクラスでこれを作るんだろ」
「うん、でも俺はまだ……最後の仕上げが残っているから」
「そうかそれはしょうがない、KUNIを待たせちゃ悪いからな」
工藤先輩が俺の背中をバンバンと叩いてくる。太っているので意外と力があるな。
「ちょっと出かけてくる」
「部長、待ってください」
そう言いながら、部長はパソコンを触ることもなく出ようとしたところを俺が引き止めた。
振り返った部長は、少し憤った顔を見せていた。
「なんだなんだ、どした?」
「部長、また俺たちのクラスに行くんですか?」
そんな俺の問いかけに、部長は背中を向けてただ去っていった。
まるで俺を誘うかのような、そんな背中を見せていた。




