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伊勢ヶ崎さんと純花がお見舞いに来た翌日、俺は学校に来ていた。
踏み潰された腹の痛みも引いて、俺は学校でいつも通り学校生活を送るはずだった。
だけど俺の近辺には少し変化があった。
教室に来た時から、クラスの男子の嫌な視線を受けるようになっていた。
その原因はほんの数秒後に分かった。
俺の目の前にはあの伊勢ヶ崎さんがいた。
いつも通り穏やかな笑みを浮かべていた伊勢ヶ崎さんが、前で待っていて驚かないわけがない。
まるで天使のような笑顔で俺に手を振っていた。
呼ばれたので俺は、伊勢ヶ崎さんの席まで向かった。
「い、伊勢ヶ崎さん?」
「えへへっ、驚いた?菅原君」
伊勢ヶ崎さんは穏やかに笑顔を浮かべていた。
それは同時に男子を敵に回した瞬間でもあった。
伊勢ヶ崎さんってクラスですごい人気だったな。クラスのアイドルという冠に偽りがない。
「菅原君?」
「そうですよ~、今日はお願いしますね」
「あ、おう」
おっとりした喋りの伊勢ヶ崎さんと話すと、俺はドキドキとしていた。
なんでだ、この感覚は?ゲーム内のセレスタイトと話す時と同じだ。
ほんわかしていて、そばにいるだけで心地よいぞ。
「それにしても、体調が戻ってよかったですね」
「うん、お見舞いに来てくれたから。伊勢ヶ崎さん、本当にありがとう」
「そうですか~、よかったです~」
「でもなんで俺を?」
「いえ、深い意味は無いような……有るようなです」
「ないようなあるような?」
「はい……今日は菅原君をお茶会に誘いますよ」
もう一度繰り返した伊勢ヶ崎さん。
それを聞いた瞬間、背後にいた男子が明らかに不満なヒソヒソ声が聞こえた。
そういえば伊勢ヶ崎さんには、クラスの男子で暗黙のルールがあったっけな。
伊勢ヶ崎さんを独占しないように、見守る会なんてのもあるらしい。
まあ、クラスのアウトローである俺には関係ないが。
「お、お茶会って?渡し間違えたあれ?」
「お茶会ですよ、放課後ここに来てくださいね」
「えと部活が……」
「大丈夫です、お休みにするって言っておきましたから」
伊勢ヶ崎さんは終始笑顔で、俺と会話を終えた。
だけどそのあとも、すぐさま男子の視線を受けることとなった。
さらには、クラスの教室の隅からもう一人赤い炎を放ちながら覗き込んでいた純花の存在もあった。
俺はいろいろと恐怖を感じながら、今日は学校で過ごすことになっていた。




