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元々戸破はけがを負っていた。
それでも榊たちと戦う決断をした。戸破のしがらみを断ち切る覚悟だ。
もちろんすんなりいくことはない。
五対一、男対女。ついでに格闘スキル73の戸破はタコ殴りにされて、蹴られていた。
その中央にいた榊は、満足そうに戸破の殴られる様を見ていた。
俺は倒れたまま、榊の足に腹をグリグリと踏まれていた。
苦しくてたまらないが、まだ意識はあった。
「どうした戸破?」榊の悪そうな顔で戸破を見ていた。
「あたいはやらないといけないんだ、ここをやめるために」
頭には包帯が赤く塗られ、頬にはやけど跡、右腕を抑えながらじっと周りを見ていた。
「そうだな、じゃあ死ぬしかねぇな」
榊は俺のことをゴロゴロと蹴とばした。
そう言いながら、床に転がっていた鉄の棒を取り出して怪しい笑みを浮かべていた。
死……俺はその瞬間嫌な予感がした。
(これじゃあ、まるで死亡フラッグのエンディングじゃないか)
それは前に見た戸破を、男六人がかりでボコボコにして殺してしまう。
起きてはいけない映像のことが、目の前で起きようとしていた。
だけど、俺はぼんやりする視界の中で榊の背中が見えた。
焦りからか唇をかみしめて右手を握っていた。
(もう少し時間が欲しい……なんとか)
そう言いながら俺は気力を振り絞って立ち上がった。
「榊……お前は……なぜDSPを」
背中を向けた榊は戸破を殴るのをやめて、俺の方を振り返った。
榊の顔はどこか嬉しそうだ。戸破を投げ飛ばして、俺の方にゆっくり歩み寄る。
「しれたこと、契約をしたんだ。人間をやめる契約を」
「契約?人間をやめる?」
「名前は知らない、悪魔かもしれない、けど俺は契約した。
神になれる最強の力をやるから、頼みを聞いてくれってな。全ての女王を全員ブッ倒せとな。
だけどあいつは逃げた……クソじじい」
「ドワ太のことか」
「そうだよ、俺は舐められたんだ。だからてめえをブッ倒して、俺がこのゲームに参戦する。
その前にお前のゲームをやめさせないといけないからな」
|ジュエル☆クイーン♡スクーリング《このゲーム》には不審点が多い。
ドワ太が3Dになったり、リアルがゲームとシンクロしていたり。
だとすれば人間をやめる方法もどこかにあるのかもしれない。
そう考えたら、榊が俺を襲撃するのも理解できた。
「兄貴には……手を出すな!」
戸破が体をはいずりながらなりながら榊の足を必死につかんだ。
この前治療した足も、額も出血して痛々しい。
だけど、その目は衰えていない。死んでいなかった。
「なんだよ、こいつを抑えていろ」
榊がそう言うと、不良たちが戸破にのしかかっていく。
「グアッ!」戸破の叫び声が聞こえてきた。
戸破は必死にもがいて暴れていた。だけど男六人に抑え込まれては、身動きが取れない。
「けどよお、ドワ太が逃げちまった。あれは残念だったぜ。六人ぐらい育成したのによ」
「育成?榊も育成を?」
「ああ、もちろん。みんな消滅したけどな」
ニタリと笑い、榊は鉄の棒を拾い上げた。
その先端を俺に向けた。
「そろそろおしゃべりはやめよう、お前を殺しておこうか」
ゆっくりと歩み寄る榊。さっき腹を踏まれて、走って逃げようにも呼吸が苦しい。
(息が……もたない)
これまでか、俺はこの前以上の恐怖が蘇った。
だけど、俺はじっと前に立った榊を見ていた。
「お前、生きて帰れると思う……」
「そこまでだ!」
そう言いながら倉庫の反対側の勝手戸から声が聞こえた。
聞こえた声は大人の男の声だ。しかも一人じゃない、複数の人の気配を感じた。
間もなくして、俺は分かった。
それは警察官だったのだ。あっという間に警察に包囲されていた。
それはリッチバルでエメラルド女王がライチョウ軍を包囲したのと同じ光景。
そして、奥から出てきたのはエメラルド女王ではない。
「遅くなったわね、ごめんなさい」
制服姿の純花が腕を組んで堂々と現れた。




