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戸破が不良になったきっかけは俺だった。俺はそれを知ってしまった。
だからこそ戸破があんなになってしまった。
当然、戸破のことを聞くために俺はDSPをつけたが夜は眠っていたようだ。
翌日、朝早くにアズライトに会うことにした。
~~地方都市リッチバル・兵士詰所~~
背景はリッチバルの兵士詰所、アズライトは今日もリッチバルに来ていた。
このリッチバルは、リッチ山のふもとにある山岳都市。
地方都市とはいえ、基本的には田舎だ。そのリッチバルの外れに領主の別館がある。
別館の外観は普通の民家と見分けがつかない。
それもそのはず、かつてここはライチョウ軍との戦闘最前線だった。
敵襲に備えて領主の館は、周りの民家と同じ建物をしている。
敵を欺くために、表向きの領主の館と別に別館が用意されていた。
そこに来ていたのがエメラルド女王の遠征軍だ。
別館の中央にある会議室では、遠征軍のリーダーの中年男とアズライトも来ていた。
アズライトには遠征軍の副官としての役目があった。
当然のことながら会議に参加する、遠征軍のリーダーは中年のひげを生やした男に連れられて。
兵士は男社会だ、アズライト以外は全て男だ。それ故にアズライトが目立つわけだが。
「リッチバルに就任して、明日は領主様に会いに行く。
この近辺には、ライチョウ軍が潜伏している噂もあるからな」
「ライチョウ軍の噂は、かねてより聞いております。
リッチ山が彼等の根城と聞きます。しかし、彼等の実態数は把握できておりませぬ」
別の兵士が遠征軍団長の男に報告した。
「ということだ、アズライトよ」
「はい……ボクとしては……」
「兄の事か?」
「……いえ」
アズライトはなんだか落ち着かない様子だ。
当然のことながら、そばにいる団長がアズライトに声をかけてきた。
「どうした、明日には領主さまに……」
「きたっ!」
アズライトはそう言いながら声を出すと、会議室の中にいきなり大勢の人間が乱入してきた。
そして中年男はあっという間に取り囲まれた。
「お前たちは……ライチョウ軍」
「ご名答」
そして奥から出てきたのが、ライチョウ軍の総帥らしき人物。
その人物に俺ははっきり見覚えがあった。顔を歪めながら成り行きを見守る俺。
男が出てきた瞬間、俺の中で何かがつながった気がした。
それといきなり画面が揺れては赤く光った。
「クソッ、新手か!」
そこに出てきたのが一人の男。それは長髪で金髪の男だ。
暴走族の特攻服のようなものを着ていて、目つきが鋭い。
間違いない、俺のDSPを破壊しようとした榊という不良だ。
「こいつは……」
「ライチョウ軍!」
先に叫んだのは団長。だけどその剣を阻んだのは別の男。
「そうとも、俺がライチョウ軍の総帥サカキ様だ!」
「どういうことだ?なぜリッチバルにライチョウ軍が?」
「さあて、どうだろうな?」
サカキは不敵な笑みを浮かべていた。そして、次の瞬間団長の首元に剣を突きつけた。
それは紛れもない侵略だ。
そんな中でもアズライトは浮かない顔を見せていた。
「どうやってここに侵入した?」
「さあて、どうだろうな。俺は戦争の天才だからな」
サカキは自信たっぷりに言い放った。その横でアズライトが気まずい顔を見せていた。
俺はその瞬間、全てを理解した。
この部屋で唯一、ライチョウ軍に剣を突きつけられなかったのがアズライトだけなのだから。




