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――『ジュエル☆プリンセス♡スクール』はオンラインに対応していた。
だけど、俺はオンラインでゲームをしたことがないが。
そんなDSPのゲーム内に、確かにメール受信画面。
俺が見たメールの差出人は『ドワ太』。
ドワ太とは、このゲームに出てくるヘルパー小人の事。
小さい体に、白いひげ。青い三角帽子に青い服を着た小人。ドワーフという妖精をモデルにしていた。
それはあくまでゲーム内でのキャラクター。一ゲーム内のイベントだ。
しかし、メールを開いた瞬間にゲーム画面が光った……目がくらんだ。
そのあと俺の足元に一人の小さな男がいた。
「ど、ドワ太?」
立体CGでできた一人の人間がそこにはいた。
青い帽子の小さな老人、白いひげを蓄えた小さい男。
人間としては一メートルにも満たないの小柄で、小太りの老人がそこにいた。
でも動いていたし俺に手を振ってきた。間違いない、ゲーム内の『ドワ太』だ。
「おお、聞こえたようじゃな。少年よ、ようやくつながったな」
「えと……あんたは?」
「見て分からぬか?ドワ太じゃよ。この凛々しい顔を忘れたとは言わせぬぞ。
『ジュエル☆プリンセス♡スクール』のお助けキャラじゃ、ヘルパーじゃ、分からんか?」
「お助けキャラが実写化かよ……なんかおしゃべりだし」
「ふむ、あまり驚かないんだな」
「興味ない、ただのちっさいおっさんだろ」
俺はあっさりと言い放った。
俺の冷めた反応を見て、ドワ太は何かを考える仕草を見せた。
そのあと、小さい体を一生懸命ジャンプさせて俺に指を指してきた。
「実にお前はつまらぬ男だ」
「それより何のために出てきた?メールを送るってことは、そちらに用があるのだろ」
「そうだな……お前はリアルを育ててみないか?」
「はあ?何を言っている?」
俺はドワ太の言っていることが、全く意味が分からなかった。
「リアルの人間をシュミレーションゲームの題材に、お前は教育大臣にならぬか?」
「リアルかよ……リアルの女は苦手だ」
「だが、そのリアルを覗くのは悪くはないと思うぞ。
少年よ、お主は現実社会に対して偏見があるのだろう」
「もちろんだ」
ドワ太のいう事は最もだ。偏見はあるし、なによりリアルにはろくなことがない。
だからリアルの人間がどんな奴かは気になる、なんでいつもあんな無駄な行動をとるのか。
なんで俺がリアルの女を嫌うのかを。
「普通の世の中だと、人間は見えないパラメーターを持っている。
だけどそれが何なのか分からないし、理解もできない。まずは……左手を開け」
指示通り左手を開くと、ドワ太が小さい体をジャンプさせて掌に置いたのは三色の指輪。
赤い宝石、白い宝石、青い宝石と一個ずつ綺麗な宝石が埋め込まれていた。
俺はその指輪を左手広げながらじっと見ていた。
「これを使って、リアルの人間をシュミレーションする。そのゲームが……」
「『ジュエル☆クイーン♡スクーリング』、これのことか?」
俺は指輪の中にDSPのカードリッジを見つけた。
「そうじゃよ、最新バージョンのゲームだ」
ソフト名には『ジュエル☆クイーン♡スクーリング』と書かれているが、それ以外は真っ白だ。
タイトル名しか書かれていない、DSPカードリッジをじっと眺めた。
「なんか海賊盤っぽいな。
ドワ太……リアルの人間を育てると言ったが、育成中はリアルの人間はどうなるんだ?」
「指輪をつけた人間の全く同じことがコピーされるのじゃ。
その人間の能力、その人間の容姿、その人間の趣味嗜好、完全にゲームの中にコピーされる。
またゲーム内の起きた行為が、リアルに反映される。イベントじゃな。
無論、お主の大好きなパラメーター上げもできるぞ」
ドワ太に言われて、なんだか心惹かれる自分がいた。
俺は数字が大好きだ、パラメーター上げが趣味だし……なにより生きがいだ。
「それに、人の相対評価を見る意味もある」
「相対評価か」
「ああ、そいつがどれぐらいの才能の持ち主で、どんなことを考えているか。
何が好きで、何が嫌いで、何が苦手で、何が得意か全てわかる。
普段接している身近な人間は、表面的一部かもしれない。
そう考えたらリアルに対する見方がきっと変わるだろう」
ドワ太の言葉に俺は迷っていた。
ゲームの女には思い入れがない、純粋にパラメーター上げの戦略を考えるのが楽しいだけだ。
純花に言っても、もちろん理解はされないでオタクと一刀両断されるが。
もしリアルが育成できるのなら、パラメーターで合理的に人を育てることができるのか。
それはそれで面白いかもしれない。退屈で嫌いなリアルの理由は、俺が欲しかったアクセントだ。
「なあドワ太……」
そんな俺がドワ太に言おうとしたとき、俺の目の前には一人の人影が見えた。
「ただいまっ、ミツノマル!」
俺が顔を上げるとそこには純花がいた。一緒にいた工藤先輩はいない。
その純花は相変わらず笑顔を見せていた。
「おう」
「何しているの?」
「いや……純花。ドワ太が……」
「ドワ太?なにそれ?頭がおかしいんじゃない?」
そんな時、俺の掌に乗っていた三つの指輪を見つけた純花。
純花が俺の持っていた指輪をじっと見ていた。
「その指輪は何?もしかして、あたしへのプレゼント?」
「いや……そうだよ。あそこの露店で買ってきたんだ」と、適当な嘘をついた。
「ホントに?」
「ああ、ホントだ。純花にどれでも一個だけやるよ」
「うわ~、めずらし~。ミツノマルがあたしにプレゼントなんて」
そう言いながらも、純花は赤い宝石の指輪を手にしていた。
「じゃあ、あたしはこれにするわ」
純花は笑顔で俺に応えていた。すぐさま純花が指輪を右手人差し指につけた。
だけど指輪をはめた瞬間、純花は驚いた顔を見せた。
「あれ?はめた指輪が消えたんだけど」
純花が不満そうに言うが、俺はすかさずほかの指輪をポケットにしまった。




