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俺が戻されたのが好きではないリアルだ。
歩いていたのは市街地の車道だ。
今日は歩行者天国で車道がお祭りで解禁になっていた。
そしてリアルに強引に引き戻したのが
「何やっていんのよ。女の子の前で携帯ゲーム?
しかも、萌えキャラ風のかわいらしい子と、何いちゃいちゃしているのよ!キモいわ!」
隣を歩く明らかに不満そうな純花がいた。
水色の浴衣を着た彼女は、すごい剣幕で俺を睨んでいた。
「今、俺は忙しいん……」
「ロリコン!変態!ゲームを没収するわよ!」
「この時間帯は、夏祭りボーナスイベントでパラメーターが上がりやすいんだ。
今を逃したら……」
「今を逃したら、なんなのよ?この変態!」
あからさまに怒っていた純花は、右手で俺の顔面を掴む。
「イタタッ、何する!」
純花の握力は高い、能力値……じゃなく握力は55。男の平均を軽く超える、俺は右も左も30台だがな。
純花の必殺技、アイアンクローが俺の頭を締めつけた。
そのまま、左手で俺の持っていたタッチペンを強引に奪った。
「今度そんなのこと言ったら、これを折るから」
「……わかったよ」観念した俺は、純花に降参のポーズを見せた。
さすがにタッチペンにはかえられない。
「分かればいいのよ!今日は夏祭りだし……リア充デートなんだから」
「純花、今日ってもしかして俺のことをデートで呼んだのか?」
「ホント、鈍感ね!」
鋭い目でにらむ純花は、いきなり俺の頭にゲンコツをぐりぐりと押しつけてきた。
男勝りの腕力だから普通に痛いぞ。
「痛っ!やめれ~、やめてください純花様!」
「ふんっ、そうに決まっているでしょ。まあ、今日はあたしのおごりだから」
手を放して、やっぱり不機嫌な顔を見せた純花。
純花は暴力的な女だ、格闘のパラメーターは90台ありそうだ。とても女の力とは思えない。
「気前いいな、バイト代でも入ったのか?」
「う~ん、残念。正解は……ミツノマルは今年も来てくれるんでしょ」
「はい?」一瞬とぼけたことを考えたが、すぐに俺は理解した。
「来るって、夏休みっていえば?」
「パラメーターアゲアゲの夏!」
「ドアホ!」
俺の言葉を却下した純花。ちょっと顔が赤くて、むくれていた。
まあ純花は感情が変わりまくる忙しい奴だな。ある意味パールにそっくりだ。
「分かっている、民宿の手伝いだろ」
「うん、それそれ。今年も男手少ないから……ミツノマルは手伝ってね」
純花は笑顔で俺におねだりしてきた。
おべっかを使っているようだけど、左手にはしっかり拳を握っていた。
選択肢はなく強制なところが、実に純花らしい。
「まあ……断る理由もないからな。ウチの両親と純花の両親とは仲いいし。
バイト代だってちゃんと出るからな。まあ、足や腕が最初は筋肉痛になるけど」
「ホント、助かるわ~」
「で、いつから出発なんだ?」
「えと……八月一日からね」
「そうか、じゃあパール編が終わったころだな」
俺はDSPの画面を再び見ていた、パールは自分の部屋で辞書を貰ってご機嫌に鼻歌中だ。
かわいいらしい萌えキャラが、軽快にダンスを踊っていた。
「そんなことよりミツノマル。いつまでやっているのよ、そのゲーム?
いつもいつもそのゲームばっかりじゃない、えと……なんとか」
「『ジュエル☆プリンセス♡スクール』、通称『Jプリ』だ。
高性能のパラメーター上げゲームだぞ!」
純花が俺のゲームに覗き込んで、不満そうな顔を見せた。
ゲーム画面内では、相変わらずパールのダンスが続く。本当に楽しそうだな。
「だからいつまでやっているのよ?」
「えと……今年で三年か。まあ単純だし、面白いからな」
「飽きないわね、あんた」
「俺は一つのゲームをずっと大事にするんだ。
特に『Jプリ』は、パラメーターが分かりやすく成長がはっきりしている。
戦略性が富んでいて、何度やっても全然飽きないんだ」
「……まさか、好きな人がゲームの中のキャラにいるわけじゃないでしょうね?」
「いるわけない、あくまで作業だ。俺はパラメーターの作業が大好きなだけだ。
キャラが男でも俺はやるだろうよ」
「ふーん、あたしは嘘が嫌いだから。二次元にはまったりしないでね」
「ああ、それは部活だけで沢山だ。二次元にも三次元にも興味はない。
しいて言えばお前の……裸の能力だ。飾っていない素の力」
「ば、バカなことを……」
「純花は変っているからな、学校一の変り者だ。
でも一年の時はAクラスだったし、頭も悪くない。運動系も高いだろ」
俺の学校は成績順でクラスが決まる、アルファベット番号の小さい方が頭いいというわけだ。
「まあ、あたしは小学校のころから男子と混じってよくプロレスごっこしていたし」
「プロレスごっこって、女だろ」
「いいじゃない、今は女子プロも人気なのよ」
純花は堂々と胸を張って自分を誇っていた。
まあ、そのわけで純花の握力は強いのは納得なのだが。
握力だけじゃなく、格闘系全般のパラメーターが高そうだ。
そう考えると純花のことは違った意味で興味が尽きない。
「でもミツノマルもいいよね」
「何が?」
「ミツノマルって素直そうだから」
そう言いながら、逆に今度はにこにこと笑いながら俺の顔を見てきた。
やっぱり純花はよくわからない、変り者だ。
「素直ってなんだよ?」
「ゲームに素直でしょ、あまり浮ついてもいないし」
「まあ……浮つくことが無いわけでもないが。
そういった出会いが俺はないだけ、俺は積極的な人間でもないからな」
「ミツノマルは嘘もつかないし、あたしは好きだよ」
急に変なことを言って、顔を赤くしてきた純花。
「勝手に照れるなよ、俺は大したことは何もしていない」
「そうね……そうよね」
「なんで嘘にこだわるんだ?」
「パパに言われたのよ、嘘つく人は性格が悪いって。そういう人と絶対つき合っちゃダメだって」
「それは立派な教育だ」
「だから、ミツノマルはいいのよ。嘘を全くつけなそうだし」
「ああ。数字だって、方程式だって嘘はつかない」
「意味がわかんないけど……」
そんな俺の前を、浴衣姿で走って行く純花。
純花の目の前には、祭りの定番のたこ焼き屋が見えた。
「たこ焼き、おごって」
「だから、おごるんじゃなかったのか?」
「変更よ!あたしの……あっ」
そう言いながら、純花の顔が急に曇った。
たこ焼きの屋台のそばから、離れて車道だった通りの方を見ていた。
純花の視線の先には明らかに目立つ太った男。夏祭りには不似合いな太った男が見ていた。
眼鏡をかけて表情は根暗そうな男。鼠色のシャツにショートズボン。
トレードマーク?の黄色いリュックサックも背負っていた。
俺はその人物を知っていた、それは俺の部活にいる工藤先輩だ。
「宿坊さんだな……なんだ、菅原もいたのか。お楽しみか?」
そのあと聞き取れない声で何かブツブツと言いながら、近づいてきた工藤先輩。
おそらく独り言だと思う。
「工藤先輩どうしたんですか?祭ですか?」
「いやあ、その……」
純花は俺の部活ではないので、ほとんど面識はない。
だけど工藤先輩がゆっくり近づく中で、純花の顔が寂しそうに見えた。
「ごめん、ちょっと話があるから」
純花は声のトーンを落として、そのまま工藤先輩の方に近づいていく。
浴衣姿の純花に近づくリュックを背負った工藤先輩。
怪しそうなオタク風の風貌は、端から見ると純花に対するストーカーにさえ見えた。
「おう、じゃあ菅原。ちょっと借りていくぞ」
「はい。純花に用があるんですか。どうぞ先輩。こんなので良ければいくらでも」
「ミツノマル……冗談でしょ!」純花は助けを求める声を出してきた。
「俺は嘘がつけないんじゃないのか?」
「ふん!ミツノマルのバカ」純花は俺に舌を出して、工藤先輩と一緒に車道の方へ歩いて行った。
俺は純花に解放されたのか、すぐにタッチペンを取り出して『ジュエル☆プリンセス♡スクール』を続けた。




