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ジュエル☆クイーン♡スクーリング  作者: 葉月 優奈
三話:白馬の王子様とセレスタイト
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周りは暗くなって夜になっていた。

あれから三十分後、俺はワゴン車の後部座席に乗っていた。

この車を運転しているのは、初老の純花パパだ。


「でも……本当によかった」

「よかったって……純花が」

「なによ、全然……大丈夫よ」

そして、俺の隣には純花が腕を組んで座っていた。

右足には包帯を巻いて、いつも通りの表情を見せていた。


「一体どうしてあそこが……」

「菅原君がずっと帰ってこないから心配したよ」

「純花のことは?」

「もちろん一番心配だとも」

だけど純花パパは運転に集中しながら、俺の言葉に返していた。

駅から民宿にくるのと同じだ、ただあの時と違って乗客の一人が純花ママではなく森本さんだが。


「大丈夫かい、純花?」

「ふん、あたしは平気よ」

助手席に座る森本さんが純花に声をかけるも、不満そうな顔で純花が応えていた。

純花は落下の時に足をくじいた。が、幸いにも純花の方はその程度で済んだ。

崖の下にあったのは、純花が大好きな花畑。

花畑が岩肌で無かったので、ある程度のクッションになったのだろう。


「足の方がけがをしたけど、家に帰ったらママに見てもらおう」

「当り前よ、でもあんたは来ないで!」

「純花……森本さんは純花の産みの父親なんだぞ」

純花パパが諭すも、純花は納得いっていない。

森本さんと純花の雪解けにはまだ時間がかかりそうだ。と、思ったら、


「パパ……ごめんなさい」

俺の隣で急に子供の様に泣き出した純花。

悔しさと誤解、純花は涙をあふれて泣いていた。


「純花……こちらこそゴメンな。

ずっと隠すつもりはなかったんだが、養子の事。むしろ話そうと思っていたのだよ」

「ううん、パパは嘘をついていなかった。

あたしが養子のことを聞かされて、一人でふてくされて、一人で悩んでいただけ」

純花は後部座席で、両足を抱えて頭を伏せた。

そんな折、森本さんが落ち着いた声で言ってきた。


「純花、養子について一体どう思っている?」

「うん、むしろ感謝しているの。だってあたしにはパパもママも二人いるんだから」

純花らしい解釈だ、それを言った純花は顔を上げて笑顔を見せた。


「だけど素直に受け入れられない自分がなんだか……恥ずかしい」

「まだ、早かったんね。本当は成人してから言うつもりだったんだけど」

「いえ、これは僕が頼んだんです。僕がいとこに頼んで話しておきたかったから」

純花と純花パパの会話に割って入ったのが、はにかんだ顔の森本さん。


「ううん、違う。それは最終的には全部知ることだから」

「純花……うん」

純花の変化に森本さんも感動したのか、涙声になっていた。


「聞いたわ、森本さんフランスに転勤するんでしょ」

純花の言葉に、森本さんは後ろを振り返って泣き出していた。


「フランスって遠いんでしょ」

「ああ、最低五年は戻れない。まあそういう理由だ」

「そっ、しょうがないじゃない」

純花はそれでも必死に強がっていた。

そうか、それで森本さんは時間がないと言っていたのか。

森本さんと純花が、少し和解したように見えた。


隣の純花はようやく笑顔を見せた。

それをみても前で運転している純花パパは、かすかにミラー越しで笑っていた。

そんな純花と二人のパパの会話を見ながら、俺はDSPをつけようとしていた。


「それにしても、光輝……ありがと」

「ああ、気にするな」

DSPのスリープモード解除。ゲームをつけていた。

感動の車内でも俺は俺のペースを維持する。


「でも、相変わらずね。ミツノマル」

「そうだな、俺は俺だ」

「なによ、さっきあそこで言ったことを軽々しく引用しないで」

いきなり純花が、俺の耳を引っ張ってきた。

さっきまでの弱さも、可憐さも微塵も感じさせない強い純花だ。


「いででっ、何をする?」

「フン、ちょっとカッコいいこと言ったからって、いい気になっているんじゃないわよ」

「かっこつけたつもりはない、あそこではあのセリフが妥当だと俺は思った」

「ふーん、もしかしてゲームの中のセリフとか?」

「よく分かったな」

俺は黙って『ジュエル☆クイーン♡スクーリング』のロード時間を待っていた。

それを聞いた純花は、だんだん顔が赤くなった。


「なに、超キモイ。リア充ぽくないんだけど」

「お前が勝手にリア充を名乗っているだけだろ。俺を巻き込むな」

「恋人ってリア充じゃない?リア充になれば白馬の王子様が迎えに来てくれるの」

「迎って……白馬の王子様なんか」

「いるわよ……あたしのパパは二人も来たんだから」


純花は遠い目で、社外の窓を見ていた。

そこは闇が支配する森と山。何があるのかもよくわからないほどの闇が広がる。

厳しく強い純花をよそに俺はDSPを見ていた。

俺はDSPを見てやはり癒されていた。

そこには純花と同じ顔のセレスタイトが、戻ってきていたのだから。



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