表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジュエル☆クイーン♡スクーリング  作者: 葉月 優奈
二話:フォレスセント族とセレスタイト
17/137

17

この温泉、そういえば混浴だったのを忘れていた。

天然温泉が一つしかないから、それでも贅沢ではあるが。

だけど、年頃の男女が裸で入っているのはさすがに気がひけた。

にしても頭がまだ痛いぞ。純花め、思いっきり桶でぶってきやがって。


「大体、なんでタオルを使って隠さないのよ!」

「ああ、わるい」

「悪いですまないわよ、変態、変態、エロ、変態!」

純花は散々罵声を浴びせた後、後ろを向いた。

そのあと純花の沈黙で、互いに背中を向けて気まずい空気が流れていた。

水の流れる音がしとしとと聞こえてくる。


「ホントにパパは最悪、まさかミツノマルまではめてくるなんて」

「純花……何かあったのか?車の中でも機嫌悪そうだったし」

「うるさいわよ!」

「純花は嘘をつかれるのが嫌いだよな」

俺のセリフを聞くなり、純花は気まずそうに上を見上げた。

見える空は、都会では見えない星や月がきれいに見えた。

このあたりの空気がきれいに澄んでいる証だ。


「嫌いよ、大嫌い!」

「だったら、本当のことを……」

「これはプライベートなの、あたしだけの問題なの!

ミツノマルにはどうすることもできないし、あたしは大丈夫だから」

純花は疲れたような顔で言ってきた。ここまで純花が頑なだとは思わなかった。

それにしても工藤先輩も言いっていたが、プライベートな事ってなんだろう。


「白馬の王子様……とか」

「白馬の王子様はいるわよ」

セレスタイトのところで出てきた言葉を、俺は思わず口にした。

そしてその言葉に純花が驚きの返事をした。


「白馬の王子様……マジか」

「そっ、マジよ。

あたしは、白馬の王子様のために動いているって言っても過言ではないわ」

「それって誰の事?」

「あたしの大好きな人」

純花はなんだかご機嫌に俺の肩に手をまわしてきた。

純花のほのかな湯の香りとぬくもりを俺は感じて顔が赤くなった。

これは新手の純花の作戦か、などとおもいつつも俺は背中の純花に声をかけた。


「でもね、王子様はミツノマルじゃないの」

「なんだそれ、俺は彼氏じゃないのか?」

「彼氏よ、リア充共同体という名のグループにすぎないわ」

「なんだそりゃ」

俺は苦笑いしながら、少しドキドキした自分が空しくなった。

大好きなのに彼氏じゃない、純花はやっぱり変だ。


「なあ、俺を彼氏にした時を覚えているか?」

「一年の美術の時間の話ね。覚えているわよ」

「お互い変わり者で、急に全校集会で歌う純花と、数字オタクで知り合いも全てオタクの俺。

そんな純花と俺が、互いの自画像を描くってやつでペアを組めず、最後に俺と純花が残った」

「あの授業は最低だったわ」

純花の言うのも無理はない、お互い余り者同士で自画像を描いた。

その時に描いた純花の絵はとにかくひどかった。

晩年のピカソを彷彿とさせるほどだ。


「純花、俺のことをあの時は悪意あって描いただろう」

「そんなはずないわ、むしろ善意よ。

それにあの絵は、大事に純平荘に飾ってあるわよ」

「嘘だろ」

「あたしは嘘をつかないわ。一階の楓の間に飾ってあるから、今度見ておいて。

あたしの始まりの傑作なんだから」

純花が俺から離れて笑顔を見せていた。

湯気から覗かせる悪戯っぽい笑顔に、ちょっとだけセレスタイトの笑顔と重なった。

あれはヤバイだろう、俺は明日早速確認しよう。


「ここを出るまで、自分が変わっている人間だと思わなかった。

奈月温泉郷だと、みんなあたしに対してとても優しかったから。

外に出て自分がみんなと違うって知って……最悪だった」

「入学式の時に気づけよ!」

「うるさい、あたしはあれが正しいと思ったのよ」

「なんだそれ?ただ珍しかっただけだろ」

俺のつっこみに純花は俺の背中を突き飛ばして背を向けた。

俺も立ち上がって気難しそうに背中を向けた。

湯気が俺と純花の背中に立ち込めていた。


「でもミツノマルと知り合えたから、最悪の授業でもないわ。リア充に一歩手前ね」

「やっぱりびっくりしたぞ、翌日にお前から告白してきて……」

「『変わり者のあんたに言うわ、あたしと一緒にリア充にするわよ。

あなたは明日からあたしの彼女になるのよ』でしょ」

「で、俺はいつも通り『Jプリ』をやって、一つ返事でなんとなく「ああ」って返した」

「実に感情のこもらない告白の返事だったわ」

「だけど、俺はお前の彼氏だ……変な話だ」


苦笑いしながら、俺は純花の方に振り返った。

純花もいつの間にか俺の方に振り返っていた。

胸のあたりをタオルで隠して、女性らしく恥らった表情を見せていた。

風呂で見せるその顔は、セレスタイトと重なった。


「たまにわからなくなる……俺の中での純花の位置が、純花の好感度が」

「あたしの光輝への好感度は……少なくとも今のパパより上よ」

「えっ、どういう事?」

「知らない、やっぱり教えない!ミツノマルは彼氏でも関係ないの!」


純花はやっぱり不機嫌になって立ち上がり、露天風呂を出ていく。

それを呆然と俺は見ているしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ