表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジュエル☆クイーン♡スクーリング  作者: 葉月 優奈
二話:フォレスセント族とセレスタイト
15/137

15

純平荘のバイトの上がりは夜十時だ。

高校生は夜十時までだぞ、バイト時間は。

宿泊の食事、宿泊客のお風呂が終わってひと段落つけば早いことも遅いこともある。

純平荘の従業員は二人だ。純花の両親は、よく六部屋ある純平荘を二人で切り盛りしているな。

そう考えると、純花の両親に感服していた。猫の手も俺の手のも必要なのも分かる。


今日は夏休みなので満室だ。

さすがは夏の奈月温泉郷、富山の高校に来る前までは純花も毎日手伝っていたからな。

いちおう看板娘?ということになる。?マークに深い意味はない。


仕事でお疲れの俺は、従業員が泊まる部屋……つまり民宿の敷地内にある離れの部屋にいた。

二週間泊まりこみで働く俺は、四畳半の部屋を与えてもらった。

自宅の部屋と比べると狭いが、布団がひければ問題ない。

それに自分の部屋でやっていることと言えば……これだしな。

俺は当然のごとくDSPを持っていた。


~~エメラルド城・セレスタイトの部屋~~


「今日もお疲れだ、セレスタイト」

『ジュエル☆クイーン♡スクーリング』を起動してセレスタイトに会うことだ。

ゲーム画面にいる彼女は、ピンクのドレスをいつも来てお花に囲まれた姫君だ。

だけど純花の前ではこのゲームはできないだろうな。

純花そっくり……というか全く同じ美少女が出迎えてくれた。


「お疲れ様です、光輝さん」

そして純花の顔をしたセレスタイトは、笑顔で言ってくれた。

なんていう事だ、リアルだと一生かかっても言わることがないぞ。

純花だと、ぶっきらぼうに「おつかれ」で終わりそう。

何かをねだると腕や足関節をとられかねないし。


セレスタイトの笑顔に癒されつつも、パラメーターに目をやった。

パラメーターは今日も順調……あれ?感受性のパラメーターが94もあったんだ。

イベントとかは起きていないようだけど……そんなセレスタイトはほんわかしていた。


「どうした?」

「いえ、光輝さん……なんでもないです」

「いや、なんだか顔が赤いよ」

「あわわっ、あたしの顔が赤いですか?」

確かにセレスタイトの顔が赤い、まるで純花が照れている時とそっくりだ。

セレスタイトは純花を写す鏡みたいなものだからな。

本人と見間違うほどだ、それにしてもセレスタイトはなんでこんなに穏やかなのだろうか。


「何かあった?恋人とか……」

「……はい。王子様です」

「王子様?」

「私……幼いころ一度王子様に会ったことがあるのです」

「王子様?」

「はい、いくつの事か覚えておりませんが……おぼろげな幼少期の記憶です。

でもその方は白馬に乗って凛々しかったのです、お顔を残念ながら拝見することはできませんでした」

「ふむ……そうか」

俺はセレスタイトの言葉を受けて考えた。

純花はそんな風に言うことはないだろう、でもそうするとリアルを教育する意味がない。

ならばセレスタイトの言葉の意図はなんだ?

何かのイベントのフラグになっているのかもしれない。

俺はセレスタイトを見ながら難しい顔になっていた。


「ですが、白馬の王子らしき人物を城下で目撃した噂を聞いたのです」

「本当か?」

「ええ、王子様にあたしは会いたいです!」

「会いたい……か。なんか考えておくよ」

「ありがとうございます」

セレスタイトが礼儀正しく深々と頭を下げた。

なんていい子なんだセレスタイトは。

セレスタイトの女性らしさを爪に煎じて純花にも飲ませてやりたい。

やっぱり、セレスタイトが本当に純花と同一人物なのか疑問になってきたぞ。

とりあえず俺はタッチペンで教育の項目をタッチした。


「セレスタイト、今日の教育いくよ」

「はい、お願いします」

「まずは、社会勉強……だ」

「わかりました、社会勉強ですね。どんなことをするのですか?」

「……バイトだ」

なぜか自分で言いながら、半笑いをしてしまった。

俺は、純花と瓜二つのセレスタイトにバイトをさせようとしていたから。


「バイト?お金を稼いでパラメーターも上がるなんて一石二鳥ですね」

「まあ、疲労値もたまるけどね」

ちなみに現在の俺の疲労値、95%(推定)。

逆にセレスタイトは昼間起動させていないから0%だ。

疲労値が高くなれば、けがや病気になる。当り前だけど。

バイトの教育コストは1しか消費しないぶん、他の教育もこなすことはできる。


「わかりました、どんなバイトがあるんですか?」

「そうだな……バイトのカフェのバイトとかどうだ?ウェイトレス」

「なんだか楽しそうですね、光輝さんはカフェによくゲームをしに行かれるのですね」

「ああ……よく知っているな」

「ええ、純花ちゃんの記憶にありますから。

いつもゲームばっかりして、純花ちゃんを怒らせてダメですよ」

可愛らしく叱るセレスタイトは、本気でかわいらしい。

無邪気な笑顔になると、自然と俺の顔もほころんでしまった。


「ごめん」

「うん、純花ちゃんにももっと優しくしてあげて。

今の純花ちゃんには、あなたの優しさが必ず助けになりますから」

セレスタイトに諭されると、純花に対して少し接し方を考えようと思えた。

成り行き任せのカレカノごっこだけど、純花はあれでいていいところある……ハズ。


「おっと、そうだったな。セレスタイトのバイトを進めようか」

タッチペンを進めて、バイト先のカフェを選択。

ウェイトレス姿のセレスタイト……見た目が純花はとてもキュートだ。

ピンクでフリルがついたウェイトレスは、やや胸の小さいセレスタイトも色っぽく見せた。

カチューシェをショートヘアーに乗せて、ウェイトレスになったセレスタイトは行儀よく立っていた。


「似合い……ますか?」

「うん、めちゃくちゃかわいい」当然ほめた。

お世辞でも何でもない、本心だ。


それから、俺はセレスタイトのバイトイベントをこなしていく。

基本的には、セレスタイトの動きを見張っていて失敗しそうなときは彼女をタッチすればいい。

教育大臣の目的は、あくまでクイーン候補の成長を見守ることにあるのだ。

それまでの教育で、会話術と魅力を上げておいたから小さなミスを二つだけでバイトが終わった。


小五分ほど経過して、バイト結果画面になった。

「お疲れ、今日はこれぐらいだね」

働きに応じてもらえるバイト代は最初にしては結構もらえた。

セレスタイトの社交性系の数値も軒並み上がった。

この手のバイトはやはり向いているらしい、リアル純花もファミレスでバイトしているからな。

なかなかいいバイトだ、また疲労度が回復したらやらせよう。


「ありがとうございます、光輝さん」

「いやいや、セレスタイトは優秀だからバイト代も奮発してくれたね。

セレスタイトの働きはとてもよかったよ」

「ええっ、そうですか」

照れたセレスタイトは本当にかわいい。

そんな彼女を眺めるだけで、俺はなんだかほんわかとしていた。


(やばい、恋しているのか?)

純花にそっくりなセレスタイト、似ているけど記憶は同じ。

だけど話し方は丁寧だし、仕草はかわいい。

そんなセレスタイトを愛でていると、彼女の胸元がムズムズした。


「あんっ、ムズムズしますぅ~」

セレスタイトが悶絶しながら、ピンク色のキャミソールの中が大きくなった。

そして、この登場の仕方は……もちろん、


「出たな、ドワ太」

「おう、大臣よ。決心ついたか?」

「決心?なんのことだ?」

「大臣よ、お主に話さねばならぬことがある」

俺は抑える感情を抑えつつ、小人の老人を見ていた。

ドワ太の細長い目が、俺の方をじっと見返していた。

なんというか、重い空気が漂う。

さっきまでのほんわかしたセレスタイトとの時間から冷めたかのように。


だけど、そんなドワ太の出した空気が意外な形で遮られた。

それは俺のいるリアルから声が聞こえたからだ――



「菅原く~ん、開けるよ」

男の声が、唯一の出入り口のふすま越しに聞こえてきた。

DSPのゲームを閉じて俺はそこを振り返ると、白髪交じりの純花パパが甚平を着て立っていた。


「あっ、おじさん」

「菅原君、お風呂あいたよ~。お客さんもいないからいただいて」

「わざわざすいません、では遠慮なく」

「後で……ゆっくり話をさせておくれ。純花の事」

「はい、分かりました」

俺は純花パパに感謝しつつ、DSPをたたんでゆっくり立ち上がった。

そのまま自分のカバンからタオルを持ってゆっくりと向かうことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ